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2006.08.09

野崎篤志

【Cases & Trends】最新米国商標判例:「ダウンストリーム・コンフュージョン」について

前号では米国の最新商標判例として「イニシャル・インタレスト・コンフュージョン(initial interest confusion)」法理について扱った事件をご紹介しましたが(Australian Gold Inc. v. Hatfield, 10th Cir., 2/7/2006)、今回は、同じ誤認混同(コンフュージョン)でも、「ダウンストリーム・コンフュージョン(downstream confusion)」という別の混同形態について扱った事件をご紹介します(General Mortors Corp. v. Keystone Automotive Industries Inc., 6th Cir., 6/30/2006)。
「ダウンストリーム・コンフュージョン」とは「ポスト・セール・コンフュージョン(post sale confusion)」とも言い換えられ、要するに「販売時点での混同」に対する「販売後の混同」を意味し、「イニシャル・インタレスト・コンフュージョン」のような比較的新しい概念ではありません。

なお、前回ご紹介したのは連邦第10巡回区控訴裁判所判決(10th Circuit Court)、今回は連邦第6巡回区控訴裁判所判決(6th Circuit Court)。ご承知の通り、特許訴訟の控訴は専門裁判所としての連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)が1982年に設置されて以来、CAFCで一本化されていますが、商標や著作権事件の控訴については従来どおり、第一審裁判所(連邦地裁)を管轄する各地区の巡回控訴裁判所(regional circuit court)で扱われます。

[背景事実]
当事者および対象商品・市場
原告:General Motors Corporation (GM)
…世界最大の自動車メーカー。自動車用取替え部品も製造販売している。

被告:Tong Yang Industry Company (Tong Yang)
…台湾法人。自動車用取替え部品のアフターマーケットサプライヤー。GM製品も扱っている。取替え部品は小売せず、販売店に卸している。

被告:Keystone Automotive Industries (Keystone)
…自動車用取替え部品販売店。Tong Yangから仕入れた部品を修理工場へ販売。インターネットを通じて直接個人にも販売している。
 
GMは、シボレーの「ボウタイ(蝶ネクタイ)」デザインと「GMC」デザインについて登録商標を保有している。本件で対象となったのはTong Yangが製造し、Keystoneが販売している取替え用グリルであり、このグリルにはこれら2つのデザインをもつ「プレースホルダー」がある(Exhibits A, B->APPENDIX参照)。

シボレーのプレースホルダーは、窪んだスペース状でグリル前方にあり、「ボウタイ」の形状をした窪みにGMの「ボウタイ」エンブレムがはめ込まれる。GMCのプレースホルダーは、隆起した台座状であり、これに赤い文字の「GMC」エンブレムが取り付けられる。これらのエンブレムは常にGMから購入される分離可能な部品である。シボレー車グリルのプレースホルダーにはめ込まれ、固定された後、「ボウタイ」エンブレムは、部分的または全面的に「ボウタイ」形状の窪みを埋める。同様に、GMC車グリルのプレースホルダーに取り付けられた後、「GMC」エンブレムは部分的または全面的にプレースホルダーの「GMC」ロゴを覆う(Exhibits C, D->APPENDIX参照)。

[手続き経緯]

GMは、被告による連邦法下の商標侵害(15 USC §1114(1))と不正競争(15 USC 1125(a)(1))およびミシガン州コモンローに基づく商標侵害と不正競争を主張して、ミシガン東部地区連邦地裁に提訴した。被告は、被告によるGM商標使用が、当該取替え用グリルの出所または後援関係に関する誤認混同を生じさせるおそれがない、とする略式判決(summary judgment)を求める申立てを提出した。地裁は、被告の申立てを認容。GMはこれを不服として控訴した。
(*GMによる提訴後にTong Yangはグリルに変更を加え、プレースホルダーからボウタイとGMCのデザインを取り除いている。この変更により、明らかにTom Yang製グリルへの注文は減った)

[判決要旨]

誤認混同のおそれについて

GMによる商標侵害と不正競争の請求は互いに密接な関係をもつものであり、その解決の鍵は誤認混同のおそれ(likelihood of confusion)にある。

「商標侵害は不正競争の一種であり……。
多くの状況において、当該不法行為が商標侵害と呼ばれるか不正競争と呼ばれるかに関わりなく、同一の結果にたどり着く。そのような事例において、しばしば裁判所は、2種類の請求事項をひとつにまとめ、いずれも同一の概念であると指摘する。今日、不正競争法における商標関連部分の根本原理は、購入者としての公衆(buying public)による誤認混同のおそれを回避することにある。商標侵害、不正競争、いずれのルートを通るにせよ、標識が指し示す検討事項は同じもの、すなわち被告の行為が誤認混同を生じさせるおそれがあるか否かである」 J. Thomas McCarthy, “McCarthy on Trademarks and Unfair Competition” §§2:7-2:8 (4th ed. 1996)

当裁判所は、他の多くの裁判所と同様、誤認混同のおそれについて、「販売時点」以外の場面にも拡大して検討している。たとえば、Ferrari S.P.A. Esercizio v. Roberts, 944 F.2d 1235 (6th Cir. 1991)参照。そこで、まずは販売時点での誤認混同のおそれについて検討し、引き続きダウンストリーム混同について検討を進める。

A. 販売時点の誤認混同(Point-of-Sale Confusion)

販売時点の誤認混同のおそれとは、商品の出所や後援関係に関し、その購入時に生じうる「購入者の誤認混同」をいう。本件被告グリルの販売時点のほとんどは、修理工場での販売であるが、一部インターネットで直接個人に販売される。誤認混同のおそれの判断基準として、当裁判所は8要因テストを採用しているが、ここでこのテストを詳細に適用する必要はない。購入者は、当該商品がGM製グリルでないことをはっきりと知らされているからである。

当該商品の出所が原告でなく被告であることを、被告自身が明確に購入者に示している場合、販売時点での誤認混同のおそれは存在し得ない。Ferrari S.P.A. Esercizio事件において、当裁判所は、模造フェラーリの製造者が、購入者に対し、この極めて安価な車が真正フェラーリ車でないことを伝えている以上、販売時点での誤認混同のおそれは存在しない、と述べた。他の事件では、模造デザイナー札入れやロレックス・ウォッチを買っていることを承知している顧客が、模造品と真正品について誤認混同することはない、と述べた。Hermes Int’l v. Lederer de Paris Fifth Ave., Inc., 219 F.3d 104 (2d Cir. 2000), Rolex Watch U.S.A., Inc. v. Canner, 645 F.Supp. 484 (SDFl. 1986)

本件も同様、被告製グリルを注文する修理工場は、より安価で修理費用を抑えられるがゆえに、自らの意思で、また一般に保険会社の指示に従い、被告製品を選択しているのだ。さらに、
・ GM製グリルはSiegel-Robert, Inc.によって製造されており、その出所を示す“SRI”の成形文字が付れている。
・ 被告グリルには”OTN”および”Made in Taiwan”の表示がある。
・ 被告グリルは箱詰めで出荷され、包装もGM製とは明らかに異なる。
・ 被告グリルに添えられたインボイスには以下のディスクレーマーが明確に示されている:
「この取替え部品はオリジナル・メーカーに製造されたものではありません。これらは、OEM用取替え部品であり、北米市場向けに台湾で製造されたものです」

被告がここまで明確に、当該商品が被告製品であることを示している以上、購入者が販売時点で出所について誤認混同することは、ほぼありえないといえる。

B. ダウンストリーム混同(販売後の誤認混同)

販売時点での誤認混同に加え、当裁判所は、ダウンストリーム混同(「販売後の誤認混同」とも呼ばれる)も訴追対象になりうることを認めてきた。「議会は購入者を保護するとともに、生産者の評判を保護することも意図していたのであるから、この法による保護は販売時点の誤認混同に限定されるものではない」前出Ferrari S.P.A. Esercizio 944 F.2d 1245

ダウンストリーム混同のおそれについて判断するためには、まず通常の混同判断において利用される8要因テストを適用し、次いで被告グリルが流通過程に置かれたことによる被害の可能性について検討する。
1. 原告商標の強さ
   GM商標の強さについては争いの余地なし。
2. 商品の関連性
   両当事者の商品は、地裁が認定したとおり、同じGM車用の取替えグリルという点で同一…。
3. 使用されている商標の類似度 
   些細な相違点があるがほぼ同一。
4. 現実に誤認混同が生じたことの証拠
   この証拠は提出されていない。
5. 使用された販売経路
   この要因は主に販売時点の混同判断において焦点が当てられるものであり、ダウンストリーム混同の検討には関係がない。
6. 購入者が払う注意の度合い
   この要因も販売時点の混同判断において検討されるものであり、ダウンストリーム混同判断には適用されない。
7. 当該商標/標章を選択するに当たっての被告の意図
   被告tong Yangが意図的にGMの商標をコピーしたことにほとんど争いの余地はない。Tong YangはGMのオリジナル・パーツに可能な限り似せるためグリルをリバースエンジニアした。
8. 製品ラインの拡大可能性
   地裁は、いずれの当事者もグリル製造ビジネスを拡大する計画を示す証拠がないと認定している。したがって、この要因については、被告有利に判断される。

要するに、2つの要因(5, 6)販売時点の混同に関するものなので、本件争点には適用されないが、4つの要因(1, 2, 3, 7)については原告有利に、2つの要因(4, 8)については被告有利に判断されるため、8要因テストの結果は、ダウンストリーム混同のおそれが強いことを示している。

模造品が流通過程に置かれたことによる被害の形態としては以下のものがあげられる。
1. 当該模造品と真正品を区別するために専門知識が必要とされる場合は、後に購入した者だけでなく、当該商品を見た公衆も欺かれる。
2. 模造品が蔓延することでオリジナル品の希少価値が下がることにより、オリジナル品の購入者が損害を被る。
3. より安価な模造品に価格で対抗すべく、オリジナルメーカーが品質への投資を抑える場合、高級品志向の消費者が損害を被る。
4. 公衆が品質に劣る模造品をオリジナルメーカーのものと誤認した場合、オリジナルメーカーの品質に対する名声が損なわれる……。他

Ferrari S.P.A. Esercizio事件ではこの原則を適用し、当裁判所は、高品質と希少性というフェラーリの名声を傷つけかねないことを理由に模造フェラーリ車の製造を禁じた地裁判決を支持したのである……。本件においても同様に、- 「ボウタイ」や「GMC」エンブレムがグリルに取り付けられた後で、その下にあるプレースホルダーを公衆が見ることができるならば – ダウンストリーム混同とそれに伴うGMと公衆の被害のおそれが認められうる。後に当該グリルを見る公衆は、被告による明確な表示の付された包装、インボイスに付されたディスクレーマー、あるいは修理工場の専門知識による助けを得る機会がないため、被告Tong Yang製グリルをGM製と誤認する可能性があるのだ……。

「ボウタイ」や「GMC」のエンブレムが取り付けられた後に、被告グリルのプレースホルダーが見えないのであれば、完全に隠れてしまったプレースホルダーが、出所や後援関係についてダウンストリーム混同を生じさせることはない。結局、認識不可能なものが混同を生じさせることはありえないのだ。

・・・本件においては、エンブレム取り付け後も被告グリルのプレースホルダーが見えるか否か、また見える場合、ダウンストリーム混同のおそれを生ずるほど十分な見え方か否かという、重要な事実に関する真正の争点が存在する。よって、地裁判決を破棄し、さらなる審理のために差し戻す。

判決原文 http://caselaw.lp.findlaw.com/data2/circs/6th/051712p.pdf

(渉外部・飯野)

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