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2007.05.14

【Cases & Trends】ついに下されたKSR 最高裁判決。その後の具体的動き

4 月30 日、ついに米連邦最高裁がKSR 事件の判決を下しました(KSR International Co. v. Teleflex Inc., U.S., 4/30/0 7)。最高裁の口頭弁論の場において、(一部最高裁判事の)拒否反応とも言えるほどの「TSM テスト(”teaching, suggestion or motivation” test) 」批判にもかかわらず、最高裁はTSM テストを完全に葬り去ることはしませんでした(特許の世界に「混沌」をもたらすことは避けたいという意向が働いたということです)。
CAFC が採用しているTSM テストがあまりに狭く、硬直化したものとなっており、特許法第103 条制定後、Graham v. John Deere Co. of Kansas City 事件(383 U.S. 1 (1966)) 判決を初めとして最高裁が構築してきた、広範かつ柔軟な自明性判断アプローチを歪めてしまったと批判しながらも、適切に適用される限り、TSM テスト自体(元々CAFC の前身CCPA が作り出したもの)は「有用な洞察」をもたらすもの、と評価しているのです。

それでもなお本判決が、特許プロセキューション、訴訟、ライセンシングに広範な影響を及ぼすことは確実といわれています。自明を理由にライバルの特許を無効にする可能性が広がった以上、そう簡単に折れるわけにはいかないという侵害訴訟の被告、ライセンス交渉当事者も増えるでしょう。

いずれにせよ、KSR 判決の意義、インパクトに関する本格的な分析はこれからということになるでしょう( 弊社でも、第1 弾として弊社発行”I.P.R.”誌購読者向けに、米国訴訟弁護士を招いてKSR セミナーを急遽開催することとなりました)。詳細分析は今後を待つとして、ここでは、判決後早速生じたふたつの具体的な動きをご紹介しておきます。

1. 特許庁が審査官向けに暫定指針を通達

DATE: May 3, 2007
To: Technology Center Directors
From: Margaret A. Focarino, Deputy Commissioner for Patent Operations
Subject: Supreme Court decision on KSR Int.l. Co., v. Teleflex, Inc.

KSR 事件における最高裁判決が下された。同事件では、クレームが先行技術の(複数) 要素の組合せを記載している場合の、特許法第103 条(a) 項に基づく自明性の判断が争点となった。KSR Int.l Co. v. Teleflex, Inc.,No.04-1350(U.S. Apr.30, 2007). 判決文はhttp://www.supremecourtus.gov/opinions/06pdf/04-1350.pdf. から入手可。特許庁は現在同判決を検討中であり、近いうちに、同判決に照らした審査官向け指針を発行する予定である。この指針が発行されるまでの間、審査官は以下の点に留意いただきたい。

(1)最高裁は、特許法第103 条( a)項に基づく自明性の判断に際して採用すべきアプローチとしてGraham 判決が示した以下4 項目の検討事項を再確認した。

  1. 先行技術の範囲と内容を決定する
  2. 先行技術と当該クレームの差異を決定する
  3. 関連技術における当業者の技量/知識レベルを決定する
  4. 二次的要素を評価する

    Graham v. John Deere, 383 U.S. 1, 17-18, 148 USPQ 459, 467 (1966)

(2)最高裁は、自明性判断の際に用いられる手法としての「教示、示唆、動機付けテスト」(TSM テスト)を全面的に排除したわけではない。むしろ最高裁は、先行技術を組み合わせてクレーム対象主題に到達させるような「教示、示唆もしくは動機付け」を明らかにさせることは、当該クレーム主題の特許法第103 条(a) 項に基づく自明性を判断する上で、有用な洞察をもたらすものと評価している。

(3)最高裁は、TSM テストの硬直化した適用(rigid applicatio n)については排除すべきものとしている。硬直化した適用とは、クレームされた主題を自明と判断する要件として、当業者が特許または特許出願でクレームされたような方法で先行技術の構成要素を組み合わせるように導くような教示、示唆、もしくは動機付けといったものが先行技術中に存在することを示さなければならない、とするものである。

(4)一方、最高裁は、特許法第103 条(a)項に基づく拒絶を裏付ける分析は明示されるべきであること、また、クレームされたような方法で「(先行技術の)構成要素を組み合わせるように当業者を促したであろう理由を特定することの重要性」を指摘している。具体的には、以下のように述べている。

「周知の構成要素を当該特許でクレームされているような方法で組み合わせる明らかな理由が存在するか否かを判断するためには、しばしば、……複数特許の互いに関連し合った教示、デザインの世界において知られている需要や市場において存在する需要の効果、当業者が有する背景知識に目を向ける必要がある。後の再審査の便宜上、この分析は明示されなければならない」 ※KSR, slip op. at 14 ( 下線は追加)

したがって、先行技術要素の組合せにより特許法第103 条(a) 項に基づく拒絶を構築する際には、引き続き、当業者がクレームされたような方法で先行技術の構成要素を組み合わせるに到った理由を特定する必要がある。

2. 特許侵害で控訴中の当事者がCAFC へ評決取り消しと差し戻しを請求

今年3 月に特許侵害による5,800 万ドルの賠償評決を受け、控訴中のVoIP サービスプロバイダー、Vonage Holdings Corp. は、5月1 日、CAFCに対し、即座に陪審評決を取り消し、審理をやり直すべく事件を地裁に差し戻すよう請求する申立てを提出した。原告ベライゾン・サービス社のVoIP 関連特許3 件を侵害するとして提訴されたVonage 社は、地裁での手続きにおいて、自明性を根拠にベライゾン特許の無効申し立てていたが認められなかった。4月30 日に、CAFC が採用している「狭く、硬直化した」自明性判断アプローチを退け、より広い、柔軟アプローチを再確認するKSR 判決が最高裁から下されたため、早速、この「新基準」に基づくやり直しを求めたもの。

申立て提出に際し、ジェフリー・シトロンVonage 会長は次のようなコメントを発表している。

「我々は最高裁の判決に非常に勇気付けられた。この判決は、まさにいま我が国に必要とされている特許改革達成に向けて踏み出した大きな一歩を表すものだ。ベライゾンとの訴訟に対し、この判決は当社にとって明らかに有利な意味合いをもつ」

なお、CAFC は翌2 日にVonage 社の申立てを却下。ただし、CAFC の控訴手続きにおいてKSR 最高裁判決を引用できると述べている。

(渉外部・飯野)

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