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2007.07.01

野崎篤志

【アジア・東欧プロジェクト】 第6回:インド特許庁訪問記(後編「知財環境の現状と未来」)

NGBでは2006年秋より「第3次アジア東欧プロジェクト」が進行中です。本コーナーでは各国の訪問が順次済み次第、成果の一部をご報告していきます。
今回の訪問で我々は、特許庁が存在する4都市(デリー、コルカタ、ムンバイ、チェンナイ)及び、近年インドの“シリコンバレー”として有名な南部の都市バンガロールを訪問した。先月は特許庁の組織構成や4都市の特許庁への訪問記をレポートしたので、今月は、特許庁や各法律事務所から聞くことができた同国の最新情報を、我々の考察を交えてお送りしたい。

まず、各法律事務所の弁護士らは、概ね、自身の都市の特許庁を良く言う傾向が見られた。例えば、デリーにメインオフィスを置く事務所の弁護士は、デリー特許庁の審査官が行う審査は質が高く、デリー特許庁に出願するのが良いと言い、一方、コルカタの弁護士は、デリー特許庁の審査は遅いので、コルカタに出願するのが良いといった具合である。それもそのはず、通常、デリーの法律事務所はデリー特許庁に、コルカタの法律事務所はコルカタ特許庁に出願をするので、違う都市の特許庁を推奨したならば、彼らの存在意義を否定することになりかねない。

さて実際はどうか? 2005年度のデータでは、特許審査官の人数は、デリーで約45人、コルカタで約30人であり、特許出願数は、デリーで約10000件、コルカタで約4000件、審査件数は、デリー、コルカタ共に約3000件とされている。これらの数字から、この年度の審査官1人当たりの審査件数は、デリーで67件、コルカタで100件と算出される(ちなみに、ムンバイでは80件、チェンナイでは95件)。上記のデリー及びコルカタの弁護士の主張は、統計的には矛盾しなさそうである。当然一概には言えないが、しっかりとした質の高い審査を受けたい場合にはデリー特許庁に、早期権利化を図りたい場合には審査の早いコルカタ特許庁やチェンナイ特許庁に出願するという考え方は、ある程度は成立するのかもしれない。

今後はどのようになるのだろうか? 審査の質に関して言えば、先月お伝えしたように、インド特許庁は、もっか審査官の能力向上を積極的に進めている。審査官の数に関しても、デリーはもとより、他の都市においても、増員することになっている。2006年のルール改正で、第1回目の指令書は、審査請求から6か月、あるいは、公開日から6か月のどちらか遅い方までに発行されるとの規定が入ったが、いずれの特許庁も、数多くの件でこれを遵守できておらず、審査官の増員によって早期に解決を図りたいとのことである。

その他、インド特許庁は、オンライン出願制度の早期導入、及び、信頼性の高い特許データベースの早期構築に向けて、現在、作業を進めているとのことである。これらの具体的な完成時期については聞くことができなかったが、特に、インドにおける特許調査の難しさは、現在、インド特許の権利期間全てをカバーするデータベースが公開されていないことによる面が大きいので、今後に期待したいところである。

以上のように、インド特許庁は、ハード及びソフトの両側面からインフラ整備に取り組んでいる真只中といった感があり、今後もその動向は見逃せないだろう。

最後に、バンガロールの状況を簡単に触れて、本レポートの結びとしたい。そもそもバンガロールには特許庁が存在しないため、知的財産に特化した事務所が同地にメインオフィスを構えることは、今までほとんどなかった(バンガロールにブランチオフィスを有する大手事務所は複数存在する)。今回我々は、いずれもバンガロールにメインオフィスを置く新興の知財事務所と総合法律事務所、2ヶ所の事務所を訪問した。バンガロールの弁護士は、同地に本拠地を置くことの利点として、

  • バンガロールに進出する企業が増加したことに伴って、リーガル関連の仕事が増え、知財関連分野もこのトレンドに乗っていること
  • 優秀な人材を確保しやすいこと

等を挙げていた。一方、特許庁がバンガロールに存在しないことの地理的不利は認めざるを得ない様子でもあった(オンライン提出制度が無い上、到達主義であるので至急で書類を特許庁に提出するのが困難;マニュアル調査のために特許庁に出向くのが困難など)。今回の訪問及びこれに伴う我々のリサーチの結果、知的財産分野においては、バンガロールの事務所は、まだ発展途上という印象を受けた。しかし、インド特許庁による上記インフラ整備が進んで地域格差が解消に向かうとともに、事務所の陣容がより充実していけば、優秀な人材が集まるバンガロールの地で、デリーの大手特許事務所に比肩するような有力な事務所が、いつの日か誕生することになるかもしれない。

(特許部 小林史直)

(NGBウェブマガジン2007年7月号掲載記事より)

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