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2008.05.14

柏原雄人

【Cases & Trends】 最新CAFC判決: 黙示のライセンス抗弁 - 販売時/契約時の制限の有無

 米議会、特許庁における立法、規則改正の動きが停滞する中、連邦最高裁が扱う特許事件が注目を集めています。現在最も注目されているのは本シリーズでも再三ご紹介したQuanta Computer v. LG Electronics事件であり、本年1月16日には口頭弁論が行われ、判決が待たれています。このQuanta Computer事件における主要争点のひとつが、「特許対象品を無条件で販売した場合は権利消尽理論が適用されるが、始めから条件付で販売した場合、適用されない」というCAFCの判断。販売に際しての条件付け/条件表示の効果が問われています。

 今回ご紹介するのは、販売に際しての条件付けの意味合いに触れているCAFCの最新判決です(Zenith Electronics Corp. v. PDI Communication Systems, Inc., Fed. Cir., 4/16/2008)。権利消尽ではなく、黙示のライセンスという文脈において論じられてはいますが、まさにQuanta Computer事件(最高裁審理対象となったCAFC判決)を引用して、条件付けの効果を再確認しています。* 判決文中では、LG Electronics, Inc. v. Bizcom Electronics, Inc.と表記されています。

 以下、CAFC判決から、黙示ライセンス部分を抽出してご紹介いたします。

[事実概要]
 様々な安全上、ビジネス上の観点から、テレビ用無線リモコン装置は病室では使われていない。酸素吸入器の傍では無線リモコンに伴う静電気放電の危険があり、また、無線リモコンが発する信号により蛍光灯との干渉が生じうる。さらに、電池交換やリモコンの紛失によるコスト増の問題もある。このような理由から、病院のテレビは通常、患者の傍に設置された有線のリモコンが使われていた。このような装置にはテレビ音声が患者に送られる内臓スピーカーも組み合わされており、「枕スピーカー(pillow speaker)」と呼ばれている。

 原告Zenith Electronics Corp.(「ゼニス」)は、病室用のテレビと有線リモコン装置に関する2件の米国特許(USP.5,495,301”Three wire pillow speaker with full television remote control functions” / 5,502,513 ”Three wire television remote control operable with key closures or data pulses”)を保有している。1997年までには、Curbell Electronics(「カーベル」)、MedTek, Inc.(「メドテック」)、Crest Electronics(「クレスト」)の3社が、ゼニスから得た’301特許のライセンスに基づき、デジタル枕スピーカーを製造販売していた。これらの枕スピーカーは、ゼニスの制御コードを利用したゼニス製テレビで作動するよう設計されていた。

 2003年、被告PDI Communication Systems, Inc.(PDI)は、医療業界向けの20インチ液晶テレビ(型番”P20LCD”)の販売を開始した。P20LCDテレビは、ゼニスの制御コードを使用するデジタル枕スピーカー、すなわちカーベル、メドテック、クレスト製のデジタル枕スピーカーとの互換性をもつよう設計されていた。

 2004年7月21日、ゼニスは、’301特許および’513特許の方法クレーム(method claims)侵害を主張して、PDIをイリノイ北部地区連邦地裁に提訴した。ゼニスは、PDIがP20LCDテレビを枕スピーカーと試験し作動させたことによる同特許の直接侵害、およびP20LCDテレビを供給し、その顧客に対し枕スピーカーと作動させたことによる同特許の間接侵害を主張した。

 PDIは、’301特許、’513特許の無効を主張するとともに、黙示のライセンスおよび権利消尽の理論により、ゼニスによる’301特許侵害請求は排除すべきと主張する略式判決(summary judgment)申立てを提出した。

 ‘301特許侵害について、地裁は「権利消尽理論は方法クレームには適用されない」としたCAFC のLG Electronics, Inc. v. Bizcom Electronics, Inc.事件判決(453 F.3d 1364 (Fed.Cir.2006))* を引用し、PDIの権利消尽抗弁を斥けた。しかし、地裁は黙示のライセンスが存在することを理由にPDIによる日侵害を認定した。ゼニスは地裁命令を不服として控訴。
 
[判決要旨]
II.‘301特許侵害に対する黙示のライセンス抗弁
 黙示のライセンスは一般に、「特許権者またはそのライセンシーが物品を販売したときに生じ、かかる販売において、当該特許権者の権利を侵害する行為を認めるライセンスが伴うか否か」が問われる。Jacobs v. Nintendo of Am., Inc. 370 F.3d 1097 (Fed.Cir.2004) このような状況において、当裁判所は、黙示のライセンスが認定されるための2つの要件を定めている。
1) 問題の装置に、非侵害使用の余地がないこと(no noninfringing uses)。「非侵害使用の余地がない場合、販売された物品(装置)に対する特許独占が放棄されたと推量することが合理的である」(前出Jacobs)。
2) 当該販売の状況から、「ライセンスの許諾が推量されるべきことが明白」であること。

 地裁はまず、当該枕スピーカーには非侵害使用の余地がないとするPDIの一応の証明をゼニスが覆すことができなかったと判断した。当該枕スピーカーをどのように使用しても’301特許を侵害することになる以上、当該枕スピーカーを購入した顧客は、何らかの形の黙示のライセンスを得られなければならない、と地裁は述べた。その上で地裁は、この黙示のライセンスの範囲を決定するため、ゼニスと枕スピーカー・メーカー間の明示ライセンスの内容を検討した。両者間の明示ライセンスになんら拘束力ある制限が存在しないため、地裁は「当該(明示)ライセンス契約は、ゼニス製であるなしに関わらず、いかなる互換テレビと使用することも可能な形で枕スピーカーの販売を認めるものとしか解釈できない」と結論したのである。

 これに対しゼニスは、非侵害使用の余地がないことの証明責任をゼニス側に転換したことに地裁の誤りがある、と主張する。同時にゼニスは、ナースコール・システム、照明システム、FMラジオといった、テレビ以外の装置をコントロールする枕スピーカーの使用など、非侵害使用の証拠が記録に含まれていると主張している。これに対し、PDIはこのような枕スピーカーの機能は黙示のライセンスを否定する「非侵害使用」ではなく、その他の形で侵害使用となる行為を補足する追加使用に過ぎない、と主張する。

 両当事者は、カーベル、メドテック、クレストが製造する枕スピーカーに非侵害使用の余地があるのか否かに力点を置いているが、この問題は本件の文脈において関係がない。確かに、非侵害使用の余地がないということは、典型的な黙示ライセンス事件における前提要件となる。典型的な黙示ライセンス事件においては、特許発明を実施するために使用される非特許対象装置の販売により、ライセンスが黙示されるか否かが問題となる。しかし、本件においては、単にカーベル、メドテックおよびクレストによる枕スピーカーの販売によりライセンスが黙示されるというものではない。顧客が ’301特許の方法に基づき枕スピーカーを使用することができる黙示のライセンスは、ゼニスと枕メーカーとの明示のライセンスに由来しているのである。

  この点において、本件は前出Jacobs事件に似ている。同事件において、Nintendo of America, Inc.(“Nintendo”)は、Analog Devices, Inc.(“Analog”)から購入した加速度計を使用する傾斜感知ビデオゲームコントローラーを製造販売していた。特許権者ジョーダン・ヤコブは、Nintendoのコントローラーが彼の特許(“Manually Held Tilt Sensitive Non-Joystick Control Box”)を侵害すると主張して、Nintendoを訴えた。当裁判所は、黙示のライセンスを理由にヤコブの訴訟を却下した地裁の略式判決を確認した。同事件において認められた黙示のライセンスは、侵害使用をすることになる加速度計を販売することをAnalogに許諾したヤコブとAnalogの明示的ライセンスに由来するものであった。本件におけるゼニスと枕スピーカー・メーカー間のライセンス契約もまた、侵害使用となる枕スピーカーの販売を明示的に許諾するものである。契約中の許諾条項では、いずれも次のように定めている。

「第一条  - 許諾
1. ゼニスは、ライセンシーが許諾特許およびその対応外国特許(ある場合)に基づき、許諾製品を製造し、下請け製造させ、使用し、販売し、その他処分する非排他的ライセンスを供与することに同意し、ここにおいて供与する。本契約において用いられる許諾製品とは、以下の意味を有する。
A.
i) その製造、使用、または販売が許諾特許の対象となる、あらゆる枕スピーカー・ユニットであり、かつ、
ii) かかる許諾製品が個別の商品として販売、その他処分されるか、テレビシステムの一部として販売その他処分されるかに関わらず、ライセンシーにより製造され、販売され、その他処分されるところのあらゆる枕スピーカー・ユニット」

 契約はさらに「許諾知的財産(INTELLECTUAL PROPERTY LICENSED)」について、「米国特許第5,495,301号」と定義している。これらの明示的契約により、ゼニスが、メーカーに対し、使用すれば’301特許を侵害することになる枕スピーカー・ユニットを製造販売することを認めていることは明らかである。したがって、ヤコブ事件と同様に、当該枕スピーカーにおいて非侵害使用の余地があるか否かを決定すべき理由はない。
 
 次にゼニスは、黙示のライセンスの範囲に関する地裁の結論に異議を申し立てた。ゼニスによれば、カーベル、メドテック、クレストの顧客が得た黙示のライセンスは、ゼニス製テレビとの組合わせにおける枕スピーカーの使用に限定される。……これに対しPDIは、黙示のライセンスが互換性を有するあらゆるテレビとの枕スピーカーの使用に及ぶとした地裁の判断は正しいとし、その根拠として、ライセンス契約中の許諾条項に拘束力ある制限が存在しないと主張する。

 当裁判所は、地裁とPDIに同意する。すでに述べたとおり、本件ライセンス契約は、当該枕スピーカー・ユニットを製造、使用、販売…する権利を広範に認めており、何らの制限も課されていない。例えば、「この枕スピーカーはゼニス製テレビとの使用のみ許諾されている」旨を購入者に伝えるディスクレーマーの表示を各枕スピーカーに付すようメーカーに要求する契約にすることもできたであろう。前出LG Elecs.事件と比較のこと(LGとのライセンス契約が、「コンピューター・システム・メーカーがインテルのラインセンス対象パーツを他の非インテル製コンポーネントと組み合わせるライセンスは認めない旨を明示して」おり、かつ「顧客に対し当該ライセンスの範囲が限定されたものであることを通知するようインテルに要求している」)。

 本件におけるゼニスと枕スピーカー・メーカーのライセンス契約は、広範な特許権許諾を明確にしている。本件契約にはなんらの制限も存在しない。この場合、ゼニスが主張するように、契約当事者の意思が制限的なものであったとはとれない。Hewlett-Packard Co. v. Repeat-O-Type Stencil Mft. Corp., Inc.事件(123 F.3d 1445 (Fed.Cir.1997))参照(修理・修繕をする権利について、「強行可能な契約に具現されていない限り、購入した特許対象品を使用し、販売し、もしくは変更を加える購入者の権利に対し、販売者の意思によって制限を課すことはできない(購入者の行為が新たな特許品の製造となる場合を除く)。契約に該当しない意思(表示)は、単なる販売者の希望に過ぎず、有効な制限とはならない」と認定。)
 以上の理由により、’301特許は黙示のライセンスの存在により侵害されていないとする地裁の略式判決を確認する*。カーベル、メドテック、クレストから枕スピーカーを購入した顧客は、ゼニス製に限らず、いかなる互換テレビとの組み合わせでも枕スピーカーを使用する黙示のライセンスを得る、とした地裁の判断に同意する。この黙示ライセンスは、ゼニスと枕スピーカー・メーカーの明示のライセンスに由来する。
* 裁判所注: 黙示ライセンスの抗弁に基づきPDI勝訴と判断したため、PDIが提起した消尽論争点については扱わないものとする。
  =>判決原文: http://caselaw.lp.findlaw.com/data2/circs/fed/071288p.pdf

(渉外部 飯野)

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