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2010.01.20

柏原 雄人

【Cases & Trends】特許権者は要注意!新たなる脅威『マーキング・トロール』への追い風(?)判決下る

 我が国ではすっかり年末年始休みモードに入った2009年12月28日、米連邦巡回区控訴裁で注意すべき(やっかいな?)判決が下されました。表題でも少し触れている通り、マーキング(marking)すなわち特許表示に関する事例、より具体的にいうと、特許の虚偽表示(false marking)の適用基準・罰則規定について争われた事例です(The Forest Group, Inc. v. Bon Tool Company, 12/28/2009)。
 最近アメリカでは、特に大量生産品に付されている特許表示の実態を調べ、すでに権利満了している、あるいは表示された複数特許のうちのすべてが使われてはいないなど、特許表示とそれが付された製品との不一致を主張して、特許権者やそのライセンシーに訴えを提起する個人が出始めているといいます(従来はもっぱらライバル企業同士の訴訟の中で出てくる論争でした)。
 いわゆる「パテント・トロール」と異なり、必ずしも自らは特許を保有しない虚偽表示訴訟原告ですが、特許制度を利用して罰金をせしめようとする手口から、『マーキング・トロール』という呼び名が出てきているようです(”Trolling for Dollars: A New Threat to Patent Owners”, Donald W. Rupert, Intellectual Property & Technology Law Journal, March 2009他)。米特許法(292条)によれば、虚偽表示に対しては私人による訴訟が認められており、罰金は原告が政府と折半できます。
 最初にマーキング・トロールが出現したのは2007年。その後2008年に入り、同種の訴訟が数件提起されているようですが、原告はいずれも特許弁護士とのこと(前出Donald W. Rupert)。 …それにしても、虚偽表示の罰金でそれほど儲かるのか? 特許法292条は罰金の額について「それぞれの違法行為について500ドルを超えない額」と定めており、従来の事例では「それぞれの違法行為」に対する解釈から高額になることはありませんでした。ところが、このような「歯止め」を取り去ってしまったと懸念されているのが、今回ご紹介するCAFC判決です。本件は「マーキング・トロール」でなく、競合企業同士の争いですが、この判決で大いに湧き立っている「マーキング・トロール」達がいるはずです。

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The Forest Group, Inc. v. Bon Tool Company
連邦巡回区控訴裁判訴
2009. 12. 28判決

事実概要
ウィリアム・アームストロングとジョー・リンは、建築用の改良ばね支柱に関する特許(USP. 5,645,515)の発明者である。リンは原告フォレスト社を設立し、アームストロングはサウスランド・サプライ社を設立した。リンとアームストロングは特許権をフォレスト社に譲渡し、サウスランド社はフォレストのライセンスを得て支柱を販売していた。サウスランドは支柱を建築用具再販業者である被告ボンツール社に販売していた。その後にボンツールはサウスランド社からの支柱購入を停止し、外国サプライヤーであるShanghai Honest Tool Co., Ltd.(オネストツール社)から購入し始めた。オネストツール社は、フォレスト社からのライセンスを受けることとなくサウスランド社の支柱と「同一のレプリカ」と称する支柱を製造していた。
 2005年12月、フォレスト社は ‘515特許侵害を主張してボンツール社をテキサス南部地区連邦地裁に訴えた。これに対しボンツール社は、特許法第292条に基づく特許虚偽表示を主張するとともに、’515特許の無効確認判決を求める反訴状を提出した。2007年8月3日、地裁はボンツール社の支柱による侵害を否定する略式判決を下し、引き続き、ボンツール社の反訴に対する非陪審審理を行った。
 地裁は、2007年11月15日以降フォレスト社が同社の”S2”支柱に対して虚偽の ‘515特許表示を付したと認定し、虚偽表示の単一違法行為(single offense)あたり500ドルの罰金を科した。地裁によれば、関連事件における地裁の非侵害略式判決以降、フォレスト社はS2支柱が ‘515特許の対象とならないことを認識していた。すなわち、フォレスト社が2001年にWarner Manufacturing Company(ワーナー)を提訴した事件において、2007年11月15日にミネソタ地区連邦地裁は非侵害略式判決を下した。非侵害を認定した理由は、本件と同様、ワーナーの支柱に ’515特許の必須要件(“resiliently lined yoke”)が含まれていないということだった。この略式判決が下されるまでの間にフォレスト社は新たな特許弁護士を雇っていたが、この弁護士はフォレスト社に対し、この必須要件を同社支柱に含ませるよう変更すべきことをアドバイスしていた(すなわち、この要件がフォレスト社自身の支柱に含まれていなかった)。
 地裁はボンツール社による ’515特許の無効請求、およびフォレスト社によるボンツール社の弁護士費用負担は認めなかった。また、2007年11月15日より前のフォレスト社による虚偽表示は否認した。ボンツール社は地裁判決を不服として、控訴した。

 - 原判決一部確認、一部破棄・差戻し

判 旨
 ボンツール社は、とりわけ、1)2007年11月15日以前、フォレスト社に虚偽表示の認識がなかったと判断したこと、および 2)特許法第292条の罰則は物品ごとでなく、虚偽表示に向けたそれぞれの決定ごとに科されると解釈したことに、地裁の誤りがあると主張する。

I.虚偽表示 - 認識
 292条における虚偽表示を構成する要素は、1)特許対象外の物品への表示、および2)公衆を欺く意思、の2つである。虚偽表示を主張する当事者は、相手方当事者が当該物品に対する特許表示が正しくなされていることの合理的確信を持っていなかったことを、「証拠の優越」レベルで証明する必要がある。
 地裁は、フォレスト社が2007年11月15日(第2の略式判決決定を受領したとき)までに虚偽表示について認識したことを認定したが、ボンツール社は、フォレスト社が虚偽表示を認識したのははるか以前であるとして、地裁認定の誤りを指摘した。
 当裁判所は、2007年11月15日以前にフォレスト社には欺く意思がなかったとする地裁認定に明らかな誤りはないと判断する。地裁は、当該特許出願が、リンとアームストロングから支柱のサンプル提示を受けた経験豊富な特許弁護士によって書かれたこと、また、リンとアームストロングがいずれも深い学識経験を持たず、特許法についての深い知識もなく、さらに英語のネイティブ・スピーカーでないことを指摘している。 ……これらの事実に基づき、”S2”支柱が特許クレームの範囲内にないという認識を2007年11月15日まではフォレスト社が持っていなかった、と地裁が認定したことに明らかな誤りがあったとはいい難い。

II.虚偽表示 - 違法行為
 次にボンツール社は、「自社支柱が ‘515特許の全クレーム要件を満たしていないことを知った後も特許表示をするとした単一の決定」につき500ドルの罰金をフォレスト社に科したことにおいて、地裁は特許法第292条を誤って解釈している、と主張した。この点につき、292条は以下のように規定している。
『公衆を欺くことを目的として、特許対象外のいかなる物品に対しても、「特許」という語またはその物品が特許対象であることを示唆する語や番号を表示、貼付、あるいは広告に使用する者は、…かかる違法行為それぞれについて500ドル以下の罰金を科されるものとする』
 この法律の文言は、複数の物品に特許表示する決定に対し500ドルの罰金という地裁の決定を支持するものではない。文言が明らかに意味することは、物品ごとに罰金が科されることである。この法は、「特許対象外のいかなる物品(any unpatented article)」に対しても虚偽表示を禁じ、「かかる違法行為それぞれ(every such offense)」につき罰金を科す、としている。すなわち、この法は、特許対象外のいかなる物品に対しても特許表示するそれぞれの違法行為に罰則を与えることを要求しているのだ。…… よって当裁判所は、公衆を欺く目的で特許の虚偽表示がなされた物品それぞれが292条の違法行為を構成することを、法が明らかに要求しているものと結論する……。
 政策上の観点からも、物品ごとの292条解釈が支持される。特許法における表示と虚偽表示の規定は、公衆に対し特許権の存在を通知することを目的とする。議会は、公衆が製造物やデザインに具現された知的財産の状況を知る手ごろな手段として、特許表示に依拠することを意図していた。虚偽表示により、不要な設計変更(デザイン・アラウンド)投資や表示された特許の有効性解析コストなどが生ずることにより、イノベーションを阻害し、市場における競争を萎縮させることになりかねない……。このような損害は、ひとつの物品に虚偽表示がなされるたびに生ずるのである。虚偽表示された物品が増えれば増えるほど、競争相手が虚偽表示物品を目にし、競争が阻害される機会が増えるのである。
 
 292条の罰金を物品ごとに科すという解釈をすれば、直接的被害を被っていない原告による虚偽表示訴訟というニュービジネスを奨励することになりかねない、とフォレスト社は主張する。しかしながら、これは、法の明らかな文言が認めていることなのである。292条(b)項は、「何人も罰金を求めて訴えることができ、(罰金の)半分は訴えた者にゆき、残る半分は連邦政府の使用に供されるものとする」と定めている。…… 最近、虚偽表示事件の私訴をビジネスとする「マーキング・トロール」の増殖を懸念する議論も出ていることは確かである。しかし、公衆が政府に変わって訴訟を提起することを認めることにより、議会は、個人が虚偽表示のコントロールを支援することを許したのである。この法が私人による代理訴訟を認めている事実自体がさらに、物品ごとの解釈を支持するものとなる。虚偽表示の決定ごとの罰金では、原告にとって訴訟を提起する金銭的モチベーションが失われてしまう。500ドルの罰金を政府と折半するために、はるかに金のかかる私訴を提起することは考えがたい。
 ただし、これは、裁判所が虚偽表示された物品ごとに500ドルの罰金を科さねばならない、という意味ではない。法は、「500ドル以下」の罰金と定めている。一定幅の罰金を認めることにより、法は、重要な公共政策の実施を奨励することと、大量生産された小さな廉価物品に対し不釣合いな巨額罰金を科すことのバランスをとるための裁量権を地裁に与えているのである。
 本件において、地裁は、フォレスト社による虚偽表示を認定したが、2007年11月15日に虚偽表示が付された支柱の数と物品ごとに科される罰金の額を決定していない。したがって、当裁判所は地裁が科した500ドルの罰金を取り消し、当裁判所の判断に沿った決定を下すよう、本件を地裁に差し戻す。
 
 => 判決原文: http://caselaw.lp.findlaw.com/data2/circs/fed/091044p.pdf

(渉外部/事業開発室 飯野)

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