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2010.02.15

■特許/第102条(b)/雑誌広告を刊行物と認定する基準

(Iovate Health Sciences, Inc., et al. v. Bio-Engineered Supplements & Nutrition, Inc., et al., CAFC, 11/19/09)

 特許法第102条(b)は、特許を受ける場合として、発明が、米国特許出願日の1年より前に、米国または外国における刊行物に記述されている場合を除くとしている。雑誌広告が、刊行物と見做されるためには、伝播されるものでなければならず、そうでなくても、広告が基準日より前であって、関連する主題に興味を抱く者とその通常の技能を有する者にアクセス可能でなければならない。広告の記述が予期させるものであるためには、明示的にか或いは黙示的にかのいずれでもよいが、過剰な実験を要することなく、クレーム発明の実施態様を実施するために、いかなるクレーム限定事項も、当該技術分野の技能が実施可能になるように記載されていなければならない。クレーム自体が、特定の行為を要件としていない場合には、裁判所は、先行する参照例からそれ以上の何物かを要求する必要はない。
 争いがないこととして、先行する栄養補助食品製品の広告は、雑誌に掲載されており、その雑誌は、基準日より前に、当該技術分野に興味を持つ者にアクセス可能であり、本件特許の各クレーム限定事項に記述された各成分、筋肉の機能または疲労からの回復を向上させる目的、栄養補助食品の投与は、当該広告にも開示されている。
 一方、本件特許クレームは、クレームされたアミノ酸とケト酸の成分に関する投与について、いかなる特定の投与または量、もしくは「効果的な量」についてさえ限定しておらず、そのクレームされた成分を投与することによって達成されるいかなる結果の測定または判定も要件としていない以上、当該広告の開示内容は、ある目的のために採られる特定の成分に関しては、予見性の目的を満足している。
 当該技術分野の技能を有する者は、栄養補助食品の効能を証明するのに、科学的な試験が欠如して、業界の誤った宣伝内容が存在する雑誌広告に依拠することはないとしても、クレームされた成分を含む補助食品を広告のように摂取すると、筋肉の機能と運動後の回復を向上させるのに効果的だという目的が記述されている場合には、当該広告は、法律問題としてあらゆるクレーム限定事項を開示しているものと認定される。

事実概要
 米国特許第6,100,287号(以下、’287特許)に関して、the University of Florida Research Foundation, Inc.(以下、the “Foundation)はその譲受人であり、Iovate Health Sciences, Inc.(以下、Iovate)は、排他的なライセンシーである。同特許は、栄養補助食品に関してクレームしており、それらのサプリメントは、ケト酸を含み、かつカチオン性(正電荷帯電)または二塩基性(基本的な2グループを有する)のいずれかのアミノ酸を含むもので、筋肉の機能向上または疲労回復に効果がある。クレーム1は、「筋肉の機能または疲労回復の向上に関する方法であって、前記方法は、ケト酸とアミノ酸からなる組成物を投与することからなり、前記アミノ酸はカチオン性または二塩基性である」としている。クレーム2, 5, 7, および8は、すべて直接的または間接的にクレーム1に従属しており、クレーム2の要件は、組成物がさらに、グルタミン酸塩、グルタミン、またはグリシンから選択された化合物からなるとしており、クレーム5の要件は、組成物がアルファ-ケトイソカプロン酸または塩を含むとしており、クレーム7の要件は、アルギニンを含むとし、さらに、クレーム8の要件は、アミノ酸とケト酸は共役されるものとすると記述している。従属クレーム9は、経口投与に関してクレーム1を限定しており、クレーム18は、人体に使用することに関してクレーム1を限定している。’287特許は、1998年11月13日に出願され、優先権主張は仮出願の1997年11月13日に基いて行なわれている。
 2007年3月、Iovateは、テキサス東部地区にBio-Engineered Supplements & Nutrition, Inc.(事業名称は、BSN, Inc.)とMedical Research Institute(以下、両者を総称して、BSN)に対する訴えを提起して、BSNの栄養製品による’287特許に関する侵害について請求した。被疑侵害製品は、アルギニン-アルファ-ケトグルタル酸を含み、とりわけ、筋力強化と筋肉疲労抵抗力について宣伝されている。尚、Flamma SpAは、原告としてIovateと訴訟参加したが、二番目に主張する特許であり、ある種の水溶性クレアチン塩をクレームしている米国特許第5,973,199号(以下、’199特許)に関する一切の権利、権原、および権益をIovateに売却した後に、2007年10月4日、訴訟から退いた。地裁が、’199特許は自明性のゆえに無効であるという略式判決を求めるBSNの申立てを否定した後、両当事者は、’199特許が無効ではなく、実施不可能でもなく、BSNの製品によって侵害されていることに関して同意した。
 地裁は、「筋肉の機能を向上させること(enhancing muscle performance)」に関して、「求められるか期待される強さまたは力のアウトプット」を維持する筋肉の能力を増大すること」という意味に解釈して、「疲労回復(recovery from fatigue)」を向上させることに関しては、「筋肉の機能が運動によって減退した後に、筋肉の機能を向上させること」という意味に解釈した。そこで、BSNは、無効性の略式判決を求める申立てを行ない、’287特許が、ある種のフィットネスに関する刊行物に宣伝広告された多くのアミノ酸・ケト酸ダイエット補助食品によって予見されるか、または自明であると主張した。
 2008年8月27日、地裁は、BSNの申立てを認めて、クレーム1, 2, 5, 7, 8, 9, および18は、特許法第102条(b)に基づいて無効であるとし、基準日である1996年11月13日より前に、Flexという雑誌において、TwinLab® Mass FuelとWeiderのVICTORYTM Professional Proteinに関する広告によって予見されるとした。尚、地裁は、’287特許のクレーム10と12に関する略式判決を否定した。両当事者は、これらのクレームに関する請求を取り下げる旨、同意した。各広告の内容は、成分リスト、ダイエット補助食品の人体経口投与に関する指示書、およびボディビルダー達からの購入請求と証言であって製品の効能を激賞するものからなっている。Mass Fuelの広告は、Flex誌1995年6月号に掲載されたが、記述されている補助食品の内容物は、オルニチン-アルファ-ケトグルタル酸、ケト-イソカプロン酸、グルタミン酸、およびアルファ-ケトグルタル酸であって、その目的とするところは、筋肉タンパク質合成と成長を促進支援し、厚い濃密度の筋肉量を作り出し、ウエイトトレーニング後に水と混ぜて摂取すると筋肉回復が加速するものとされている。その広告が強調していることは、アスリートはその製品を「優良健康食品店」やジムで買い求めるか、または無料のカタログを請求すべしとしており、さらに、無料のトレーニングビデオを購入時に提供するとしている。Professional Proteinの広告は、翌年、Flex誌1996年6月号に掲載された。この広告が記述する補助食品の内容物は、アスパラギン酸アルギニン、オルニチン-アルファ-ケトグルタル酸、アルファ-ケトグルタル酸、およびグルタミン酸であって、水とともにトレーニングの前後に摂取して筋肉の強さ、大きさ、および量を増大させるとしており、その資するところは、筋肉が運動後速やかに回復するのであって、さらに、「筋肉タンパク質の破壊を減少させ」、「練習後の回復可能性がより高くなるようにする」としている。また、その広告の記述内容は、製品の製造方法に関して、タンパク質成分を乳清から分離するのに用いられる四段階を含んでおり、記載の価格は24.99ドルであり、製品入手先として挙げているのは、GNC(General Nutrition Center、全米展開のサプリメントチェーン店)とその他の健康食品店、または電話によるとしており、利用者に摂取量の指示を行ない、さらに、製造者の販売奨励金5.00ドルを提供するとして、1996年7月31日までの購入レシートとともにクーポン券を郵送することを掲載している。
 地裁は、それらの広告が、第102条(b)に基づく公用と販売の提供を証明していると認め、これは、実際の製品を示しているし、その入手は、健康食品店やジム、またはカタログによって可能であると表明しているからであるとした。裁判所の判断によると、これらの広告は、主張クレームのすべての限定事項を開示しており、その内容は、クレームされた各化学成分と人体経口投与の説明された効果としての筋肉回復促進に関している。さらに、裁判所は、必要性を推定して、第102条(b)に基づいて広告がその用に供されると判断し、それは、製品に含まれる各化学成分の正確な量を指示するには広告に問題があるにもかかわらず、当該技術分野の技能を有する者が、その知識と広告の示唆するところを組み合わると、広告が実施可能性を付与していると考慮するであろうとの理由によった。
 2008年9月24日、地裁は、当事者の請求と反訴請求のすべてを放棄する旨の同意判決と取下げ命令を登録した。Iovateは、適時、地裁による無効性に関する略式判決の認定に控訴した。連邦巡回区控訴裁判所は、裁判所および裁判手続に関する法律第1295条(a)(1)に基づいて、裁判管轄権を有する。

認容

以下、I.P.R.誌24巻1号参照

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