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2010.08.12

米国連邦最高裁判決:Bilski v. Kappos事件

SUPREME COURT OF THE UNITED STATES, Decided June 28, 2010
Bernard L. Bilski and Rand A. Warsaw, Petitioners v. David J. Kappos
under Secretary of Commerce for Intellectual Property and Director,
Patent and Trademark Office

2010年6月28日、米国連邦最高裁判所は、Bilski v. Kappos事件において、
プロセスクレームによるビジネス方法の特許性に関する連邦巡回区判決
(CAFC、2008年10月30日、In re Bilski事件)を全判事が一致して支持する判断を示したが、最高裁先例を引用してCAFCが適用した「machine-or-transformation test(機械との連結、または他の状態・物への変換・変成についての有無を検討するテスト)」に関しては、唯一のテストとすることを否定した。
以下、本判決の概要について、現地法律事務所の許しを得てその速報をご紹介する。

FOLEY & LARDNER LLP www.foley.com Legal News Alert ***** June, 2010
尚、本事件に関するご質問は、下記弁護士までご連絡くださいますと幸甚です。
Contact Person: Mr. KAMINSKI, Michael D. (MKaminski@foley.com)

今や何が特許を受けられるのか?
「Machine-or-Transformation」テストの唯一性を否定
プロセスクレームの特許適格性を判断するためのテストとは?

 2010年6月28日、米国連邦最高裁判所は、長く待ち望まれていたBilski v. Kappos事件に関するその見解を判示した(http://www.supremecourt.gov/opinions/09pdf/08-964.pdf参照)。全判事が一致した裁判所は、連邦巡回区控訴裁判所判決を認容した上で、Bilskiのクレームは、「抽象的な着想(abstract ideas)」であって、ゆえに、特許性のある主題の対象とされないと認定した。
In re Bilski事件大法廷判決(545 F.3d 943 (Fed. Cir. 2008)(en banc)、(http://www.foley.com/publications/pub_detail.aspx?pubid=6575)参照。
 しかしながら、さらに意義深いこととして、最高裁多数意見は、特許法第100条乃至第101条に関する普通の文言と調和する特許性のある主題の範囲に関する広い見方を認容した。特に、最高裁は、「machine-or-transformation」テストに関して、あるプロセスが特許性のある主題の対象とされるかを決定するための唯一のテストとはならない旨、全判事が一致して判断した。しかしながら、最高裁は5対4に分かれて、ビジネス方法は特許されることがあると判断した。この判決の最終的な影響力は、さらなる訴訟と連邦巡回区により明らかにされる解釈を待つことになり、今のところ、この判断は、クレームが特許を受けるかを判断するための重要なガイドを提示したに過ぎない。尚、Kennedy判事は、意見の分かれた裁判所に多数意見を書いている。同判事の意見書は、Roberts長官、およびThomas、Alito両判事が全面的に賛同し、さらにはScalia判事が部分的に賛同している。Stevens判事は、Ginsber、Breyer、Sotomayor各判事が賛同する判断に同意意見を書いている。また、Breyer判事は、Scalia判事が一部賛同する見解に同意意見を書いている。同意意見については、本稿の最後に検討することとしたい。
 Bilskiとその共同発明者が特許を求めているクレーム発明は、商品市場のリスクをヘッジするためのものである。米国特許商標庁(USPTO)は、特許性のある主題の対象にされるものではないとして、クレームを拒絶した。控訴において、連邦巡回区は、プロセスが確実に特許性のあるものとされる場合として、当該プロセスが、(1) 装置の具体的な機械に結びつけられているか、または、(2) ある具体的な物品をして、ある異なる状態または物となるべく変成・変形されるか、いずれかの場合であると判断した。In re Bilski事件(545 F.3d at 954)参照。Bilskiのクレームは、このテストのいずれかの分岐にも該当しないとして、連邦巡回区は、USPTOの査定を支持した。連邦巡回区のテストは、machine-or-transformationテストとして、知られるようになってきている。Bilskiは最高裁による審理を求めたが、その請求は認められた。
 最高裁に対して、庁は、さらに敷衍して連邦巡回区判断を支持する論拠を三点挙げた。(1) クレームのプロセスは、machine-or-transformationテストに適合していない、(2) クレームのプロセスは、ビジネスを行なう方法であって、ゆえに特許性のないものであり、さらに、(3) クレームのプロセスは、単なる抽象的な着想である。
 最高裁判決が、本件において、Bilskiクレームが特許性のある主題に該当しないという内容となることは、特許法や口頭審理において審問された諸問題に関する近時の最高裁見解に鑑みて、広く予期されるものであった。本判決は、裁判所の全判事九名によって支持されている。しかしながら、事件は相当の注目を集めてきた。それは、予想では、ビジネス方法とその他のプロセス特許に関して、かなり広範な影響力をもつ意見書となるとされたからである。
 最高裁の分析は、制定法の文言から開始されているが、それは、特許性のある主題に関する四つのカテゴリーを規定している。すなわち、(1) プロセス、(2) 製造物、(3) 機械、および、(4) 物質の組成物である。特許法第101条参照。制定法は、「プロセス」の用語に関して、循環定義を規定しているから、具体的なプロセスが特許を受けうるものかを判断することが、非常に困難になっている。尚、特許法第101条(b)の規定は、「プロセス」を定義して、「プロセス、技術、または方法であって、既知のプロセス、機械、製造物、物質の組成物、または物質」であるとしている。本件の判決は、最高裁が指導となるべく試みたものであって、具体的なプロセスが特許を受けることができるかを判断するために提示されたものである。
 最高裁が先ず検討した点は、連邦巡回区のmachine-or-transformationテストが、特許性を判断するのに使われる唯一のテストであるかということについてである。連邦巡回区は、最高裁先例を注意深く検討した後に、あるプロセスが確実に特許性を認められるのは、このテストに適合する場合であるとだけ表明しているので(In re Bilski事件(545 F.3d at 954)参照)、最高裁(意見書第7頁)も含めて大方の解釈は、連邦巡回区の見解をして、machine-or-transformationテストが特許性の唯一のテストであるとするものだとしている。最高裁は、その先例の狭い解釈を否定して、machine-or-transformationテストに関して、ある発明が特許性を有するプロセスであるかを決定する唯一のテストではない旨の判断を示した。Kennedy判事は、この点について、「第101条は、新規な想定外の発明の範囲を設定するのに意図されたダイナミックな規定である」との説明をさらに進めて、新たな技術が展開することに対して、制定法は、裁判所に特許性を判断するのにさらなるテストを開発することを認めているとしている。意見書のこの部分は、法的な見方というものは生きものであり発達するものであることを裏書きしているが、Scalia判事は同意しておらず、ゆえに、拘束力のある部分とはなっていない。
 最高裁が次に検討した点は、Bilskiのクレームが特許されないとする理由に関して、ビジネス方法を対象とするものであって、ビジネス方法はそもそも範疇として特許されないものであるという主張についてである。最高裁は、ビジネス方法のクレームに関する被疑侵害に対する防御を構成するこの主張について、特許法第273条に鑑みて拒絶している。本条文による明らかな帰結は、ビジネス方法を対象とするクレームが特許される主題となりうるということである。四名の判事が同意する意見書には、Scalia判事がまたも、意見書のこの部分に同意するのを拒んでいるが、Kennedy判事は強調して、抽象的な着想の非特許性に関する最高裁の諸判決は、特許されうるビジネス方法の範囲に関する境界線を設定するための有用で限定的な原則を提供してきたことを挙げている。また、同判事は、第101条に基づいて特許保護を受ける主題を対象とする特許は、さらに、特許法第101条、同第102条、同第103条、および同第112条の要件に従うものとするとされていることに関して、今一度、注意を喚起している。
 最高裁が最終的に判断したところによると、Bilskiのクレームは特許されないものであるとし、その対象とするところが「抽象的な着想」であるとの理由によった。この判断に至る過程において、最高裁は、Benson事件、Flook事件、およびDiehr事件における判決を適用した。Bilski事件(13-16)参照。最高裁は、Bilskiの出願クレーム1および4の文言を審理して、これらクレームの記述は、一連の取引を通して、また本件プロセスを実施化する数式によって、リスクをヘッジ(回避)する概念に関するものである旨の判断を示した。Bilski事件(15)参照。Bilskiにリスクヘッジに関する特許を認めることは、すべての分野におけるこの方式の使用に関して先占させることになり、また、抽象的な着想に対する独占を有効に認可することになってしまうので、本件クレームは特許されないとした。同様に、Bilskiのその余のクレームは、抽象的着想であるとして特許されないとし、商品およびエネルギー市場において使用されうるヘッジの方法に関する単なる広範な例であるとした。
 最高裁は、その独自のテストを提示することを控えているが、その先例は、machine-or-transformationテストが有用で重要な手掛かりとなるもので、審理の手段として、あるクレーム発明が第101条に基づくプロセスであるかを判断するためのものであることが確立されていることに同意した。ゆえに、今後の課題として挙げられる点は、いかようにこのテストが指標となって活用され下級審によって執り行われるか、その際、Benson事件、Flook事件、およびDiehr事件における最高裁先例によって提示された方向性に沿ったものとして行われるかといったことであり、現時点では問題は残されたままとなっている。

Stevens判事の同意意見(Breyer判事、Ginsburg判事、およびSotomayor判事も同意)
 四人の判事、すなわち、Stevens判事、Breyer判事、Ginsburg判事、およびSotomayor判事は、概して、ビジネス方法の特許は特許されない旨の判断を示した。Stevens判事の同意意見において、これらの判事は、多数意見の判断に賛同して、machine-or-transformationテストを唯一のテストとするのに否定している。しかしながら、上記判事の認定によるBilskiクレームの特許されない根拠について、クレームの記述が、ビジネス取引を行なう一般的な方法に関しており、ゆえにかかる方法は、第101条に基づいて特許されないとしている。

以下、I.P.R.誌第24巻7号参照

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