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2010.11.15

■特許/不衡平行為/虚偽表示行為に関する重要性と意図の認定

(Ring Plus, Inc. v. Cingular Wireless Corp., et al., CAFC, 8/6/10)

特許が不衡平行為にゆえに権利行使不能とみなされるかどうかを判断するのに、二部構成のテストが確立しており、不衡平行為を証明するために被疑侵害者が提示しなければならない証拠は、出願人に関して、(1) 重要な事実に関する積極的な虚偽表示行為を行ない、重要な情報の開示を懈怠し、虚偽の重要な情報を提出したこと、(2) 意図的にPTOを欺網したこと、について示していなければならない。被疑侵害者は、各々の要素に関して、少なくとも閾値のレベルを証明しなければならず、重要性と意図的な欺網に関して明らかな確信を抱くにたる証拠により、この証明責任が果たされたならば、出願人のPTOに対する行為が、特許全体の権利行使不能を決定してもよいと保証するほどに甚だしいものであるかどうかを判断するよう衡量されなければならない。
 情報が重要である場合とは、合理的な審査官が、出願人に特許として発行を認可するか否かを決定する際に、重要であると考える場合である。本件の参照文献二件は、審査中、審査官に提示されていたから、提出された発明の背景に関する説明は、単に代理人の主張であって、重要な虚偽表示にはなりえないと主張されているが、代理人は、特許性について有利に強く主張することは自由であるが、それは不衡平行為に該当しない場合のことであり、法は、重要な事実の真正な虚偽表示を禁じている。発明の背景に関する出願人の説明が、許容される代理人の主張に関する範囲の外にあるから、虚偽表示であるとした地裁認定は支持される。また、審査官は、審査中に上記参照文献を引用しなかったから、重要であると考えなかったはずであると主張されているが、重要性の基準は客観的なものであって、問題は、何をもって合理的な審査官が重要であると認定するかであり、対象となっている参照文献が審査中に具体的に考慮されたか否かではない。
出願人が特に意図的に発明の背景において虚偽表示を行ない、PTOを欺網しようとしたことに関して証明する際、欺網する意図は、状況証拠から推定されうるが、証拠は、明らかな確信を抱くにたるものでなければならず、重要性の提示だけでは、欺網する意図に関する推定を惹起するものではなく、欺網する意図の推定は、明らかな確信の基準を充たす証拠から引き出されうる最も合理的な唯一の推定でなければならない。
 地裁は、出願人による参照文献の開示は、隠す意図とは矛盾することを確認したが、参照文献がハードウェアベースのシステムを提示しているのであって、そのシステムを操作するソフトウェアは何も提示していないという発明の背景に関する説明は、欺網する意図によって行われたと認定するにいたった。裁判所は、参照文献が明らかにソフトウェアを開示しているとの見解に基づいて、表示行為が真実であるとする出願人の表明する確信は妥当ではないと認定して、証拠からして、最も合理的な唯一の推定は、出願人が欺網しようと意図したという結論を導いた。しかしながら、裁判所が意図の認定についてほぼ全面的に前提としているのは、参照文献がソフトウェアを明確に開示しているという見解である。参照文献は、ソフトウェアについて言及していないし、開示したシステムを操作するためのコードやソフトウェアのメカニズムを特定しておらず、当該技術の技能を有する者がソフトウェアを明確に開示していると考えたであろうという記録上の証拠は存在しない。参照文献は、コンピュータ操作と連動されるような別個の構成要素を開示しているが、電話システムを操作するためのソフトウェアを明確に開示しているのではない。
 出願代理人による先行技術調査の書面は、参照文献が重要であるという認定を支持するものであるが、発明の背景における説明に関して、欺網の意図を証明するものではなく、さらに、出願人が準備したが提出しないことにしたIDSには、参照文献二件が記載されているが、この証拠は、重要性に関連しており、意図にではない。地裁は、欺網の意図に関する明らかな確信を抱くにたる証拠が提示されていると認定したことにおいて、明らかに誤っている。

事実概要
Ring Plus, Inc.(以下、Ring Plus)は、米国特許第7,006,608号(以下、’608特許)の譲受人であって、当該特許の名称は、「電話呼出信号発信時に音楽等のメッセージを流すためのソフトウェア・アルゴリズムと方法」である。’608特許が開示するソフトウェアは、電話呼出信号が着信中に電話回線経由でのメッセージの発生と送信に関するアルゴリズムと方法に基づいている。’608特許のクレーム1が請求するソフトウェアが基にしているアルゴリズムは、発生されたサウンド・プレゼンテーションの際、呼出信号を置き換えたり音を被せたりすることができる電話システムの操作に関している。クレーム9は、争点となっているその他の唯一の従属クレームであって、その方法クレームが列挙しているのは、おおよそクレーム1の限定事項に類似した限定事項である。
 Ring Plusは、Cingular Wireless Corp.、Cingular Wireless II LLC、Cingular Wireless LLC、およびAT&T Wireless Services, Inc.(以下、Cingular)に対する訴えをテキサス東部地区連邦地方裁判所に提起して、CingularのAnswer Tonesサービスは、’608特許のクレーム1乃至3、5、及び、9乃至10を侵害していると主張した。Answer Tonesは、有料のサービスであって、Cingular加入者の選択した歌やその他のエンターテイメントを、発信者側が加入者電話番号をかけた後に聞き取ることができるようにするものである。Cingularは、いくつもの防御を行なったが、その中には、’608特許に関する非侵害と権利行使不能を含んでいる。
 地裁は、クレーム解釈命令を出し、主張クレームの段階は特定の順に実行されなければならないと判断した。特に、裁判所の判断では、1c)の段階(受信者が使用中であるかを判断する段階)は、1d)の段階(受信者が使用中ではなければサウンド・プレゼンテーションするようにし、回線が使用中であればサウンド・プレゼンテーションなく発信を終了させる段階)より前に実行されなければならないとした。裁判所の解釈に基づいて、争点クレームが、受信者の回線が使用中であるかを判断するのは、サウンド・プレゼンテーションするか発信を終了するかの前のことであるとされた。
 Cingularは、証拠開示手続終結後、非侵害の略式判決を求める申立てを行ない、Answer Tonesがサウンド・プレゼンテーションを再生するのは、受信者の電話回線が使用中であるかを判断する前であると主張した。Answer Tonesは、前記段階に関する要件とされる順序を充たしていないから、Cingularは、侵害していないと主張した。Ring Plusは、さらなるクレーム解釈を求める申立てを行ない、裁判所がクレーム1の限定事項についてなすべき解釈は、1b)の段階(サウンド・プレゼンテーションを導入する段階)が、1c)の段階または1d)の段階のいずれかの前に生ずる可能性があるとすべきであるという主張を行なった。裁判所は、Ring Plusの申立てを拒絶した。前記段階に関する要件とされる順序に鑑みた裁判所の示した説示によると、クレームされたアルゴリズムが必然的に実行する「サウンド・プレゼンテーションを導入する」段階は、受信者の電話回線の状態を判断した後ことであるとされた。
 Cingularによる非侵害の略式判決を求める申立てに関する裁判所の認定によると、Ring Plusの専門家が確認したことであるとして、Answer Tonesがプレゼンテーションを再生するのは、受信者の電話回線が使用中であるかを判断する前のことであるとされた。主張クレームは、解釈によって、各々要件とするのは、サウンド・プレゼンテーションができるようになる前に受信者の回線状態を判断することであるから、裁判所は、文言侵害は存在しないと認定した。さらに、裁判所の認定によると、審査経過禁反言による均等論に基づく侵害も存在しないとした。ゆえに、裁判所は、Cingularによる非侵害の略式判決を求める申立てを認めた。
 裁判所は、Cingularの代理人がRing Plusの役員と不適切な一方的な通信を行なったといわれることに関して、不適格であるとみなすRing Plusによる申立てを斥けた。そこで、裁判所は、不衡平行為の争点に関する裁判官審理を行ない、’608特許は、出願審査中に2件の先行技術参照文献に関して行なわれた重要な虚偽表示行為により、権利行使不能であると認定した。Ring Plusは控訴した。連邦巡回区控訴裁判所は、裁判所および裁判手続に関する法律第1295条(a)(1)に基づいて、裁判管轄権を有する。

一部破棄、一部認容
判旨
 控訴において、Ring Plusは、地裁がその裁量権を濫用して、’608特許に関して、不衡平行為ゆえに権利行使不能と判断したと主張している。Ring Plusは、さらに、裁判所は過誤によるクレーム解釈を行なっており、また非侵害の略式判決は、正当な解釈に基づいて破棄されなければならないと主張している。Ring Plusは、最後に、Cingularの代理人を不適格とみなすことに関して、裁判所はその裁量権を濫用して拒絶したと主張している。当裁判所は、これらの争点を順に検討する。

以下、I.P.R.誌第24巻10号参照

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