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2014.03.20

【Cases & Trends】 トロールにとっても「成長産業」と目される医療機器 – 医薬・バイオも間もなく射程に(?)

 パテント・トロール(NPE, PAE, あるいはMonetizerとも称される)の勢いが止まりません。パテント・トロール発祥の地アメリカでは、本シリーズでも紹介してきた通り、政府、議会、裁判所がそれぞれの対策を講じ、さらなる追加策を模索中ですが、これはという決定打がなかなかないようです。このような状況において、最近目を引いたトロール関連トピックを紹介いたします。
利幅の大きい(?)「医療機器トローリング」
 我が国企業のみならず、欧米あるいはアジアのテクノロジー・カンパニーが成長分野として参入しつつある医療機器分野を、トロールもまた「我々にとっての成長分野」(Acacia Research社ポール・ライアンCEO)としてターゲットにしつつあるようです。
 Corporate Counsel誌(2/4/2014)によれば、主にインターネットやコンピューター産業といわれていたトロールの狙いは、いまや医療機器産業に向けられているといいます。その理由は:
 
・ 他の分野よりも医療機器特許訴訟の方が判決にまで至った場合の勝訴率が高い。2012年のデータでは、和解以外で終結した場合のトロールの勝訴率は24%だが、医療機器分野に限定すると40%超に跳ね上がる。
・ この分野においてトロールに認められた損害賠償額の中央値は2000万ドル超と高額。
 (データはプライスウォータハウスクーパースの “2013 Patent Litigation Study”より)

医療機器特許の買い集めに励む大手トロール達
 実際に複数の代表的トロールが、医療機器関連特許の収集を開始しており、権利行使の事例が出ていることも報告されています。
・ Acacia Research – 2012年から2013年にかけ、ステントや血管・バイパス移植、大静脈フィルタなどの特許・特許出願1900件以上を買収(ボストン・サイエンティフィック社から購入したとの情報あり)
・ Intellectual Ventures – 医療機器、診断ツール、先端ライフサイエンス技術に関連する1000件の特許・特許出願を買収 
・ Orthophoenix LLC – 2013年に椎骨形成術に関連する500件の特許を買収後、複数社を提訴。 (500件の特許は医療機器メーカー大手Medtronic Incが権利行使目的で譲渡したという情報あり)
・ Kardiametrics LLC – 2013年に塞栓フィルタに関する特許を2013年に買収

バイオ・医薬も照準に
 さらに最近では、これまで一般にトロールからは縁遠いと考えられていたライフサイエンス系、バイオ・医薬産業までトロールの標的になるであろう、という声が聞かれるようになりました。例えば、”NPEs are coming to the life sciences industries. And that could be good thing” (iam-magazine.com blog 2/17/2014)。ここでは、発表されたばかりのかなり興味深い論文 “Patent Trolling ? Why Bio & Pharmaceuticals are at Risk” (Robin Feldman, Professor of Law, University of California Hastings College of the Law; Nicholson Price, Academic Fellow, Harvard Law School 2/14/2014)が紹介されています。
 
 この論文によれば、ライフサイエンス業界はこれまでトロール問題から一歩距離を置いており、「トロール対策法」としての一面をもつAIA(アメリカ発明法)に対しても反対の立場を貫いていた。しかし、この姿勢は近視眼的なもの。トロール問題はこの業界にも無縁ではなく、現にその兆候も現れ始めている、といいます。(なお、この論文ではトロールを始めとする一連の呼び名について説明したうえで、Monetizerを用いています。本稿ではトロールを使用します)
 
 一般に、医薬には厳しい規制による市場参入の困難さがあるためトロールにつけ入る隙を与えない、といわれますが、この規制障壁こそトロールにとっても医薬特許の価値を高めるもの、と著者は指摘します。すなわち、トロールにとって特許による脅迫価値は、その特許発明の回避法(inventing around またはdesigning around)の困難さによってくる。回避が困難だからこそメーカー側は差止めを恐れ、取引に応じてくる。逆にいえば、侵害回避が容易であれば脅迫価値が下がる。ところが医薬の活性成分が特許対象になっている場合、これを回避するということは、別の薬として新たな承認をFDA(医薬認可当局)から取得しなければならないことを意味する。FDAの新薬承認を別途得るよりは、特許ライセンスをとった方がはるかに安いというわけです。

 また、バイオ・医薬特許は、ソフトウェア特許などよりも権利範囲は狭く(曖昧さで攻めることができない)、特許の件数もはるかに少なくなる。ターゲット企業も少なく、トロールにとって魅力はない、といわれてきたが、実際には現在の医薬には周辺特許も少なくなく、ターゲットにすべきプレイヤー達もトロールにとって不足はない、といいます。
 
 何よりも重要なことは、商売ネタとなる特許の潜在的供給源が豊富にあるということです。現在、大学にしても企業にしても、多額の研究開発費用と手続き費用をかけて取得した特許から収益を生み出す強いプレッシャーに直面しており、未利用特許の受け皿機関としてトロールが名乗りをあげているというのです。例えば、”Under Financial Pressure, Universities Give Patent Buyers a Closer Look” (Paul Baskin, Chronicle of Higher Education(10/25/2013))、また “Universities Struggle to Make Patents Pay” (Heidi Ledford, Nature (9/24/2013))参照。
 
 トロールがバイオ・医薬産業にとって決して隔離された存在でないことの理論上の整理をしたうえで、論文後半で著者は、実際の特許(活性成分、治療法、スクリーニング法、製造方法、剤形に関し、複数の大学が保有している特許)をサンプルとして、トロールが欲するような形で利用可能かを検証しています。その結果は、いうまでなく「憂慮すべきもの」(トロールにとってもかなり使いうる)です。

ますます重要になる情報収集の重要性
 いずれにしても、司法・立法・行政面での対応策に関わらず、トロールの動きが今後ますます盛んになる可能性が否定できない以上(何しろニーズがあるという厳然たる事実)、影響を受ける事業会社としては関連情報を常に収集しておくことがより重要になってきそうです。とりわけ、気になる特許の所有権の移転、真の権利者の動向を注視していくことの重要性はよく指摘されます。……もっともこれを調べるのが簡単でないというのが実情ですが。

そこで、真の権利者・利害関係者情報については、最近、米特許庁が特許出願人や特許権者の報告義務として、”Attributable Ownership”規則案を公表したところです(連邦官報告示 1/24/2014, コメント提出期限は3/25/2014)。この規則案の動向につても、機会を見て本シリーズで紹介したいと思います。

=> 論文(”Patent Trolling ? Why Bio & Pharmaceuticals are at Risk”)原文はこちらから

(IP総研 飯野)

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