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2014.05.22

東南アジア特許情報解析 -ベトナム編2-

日本技術貿易IP総研では、東南アジアでの調査需要の高まりを受け、数回に亘ってASEAN諸国に関しての特許分析を行っている。第一回目ではベトナムの特許出願の推移に関して、経済状況や関連政策、知的財産関連法の整備などの要因についての考察を行った。
第二回目である本稿では、近年目覚ましい発達を遂げる輸送インフラに着目し、それに関連する特許として輸送機器分野の特許出願動向について分析を行う。なお、本分析ではベトナム特許および実用新案を対象としているが、報告内では特許と記載する。

[輸送機器分野特許出願件数推移]
図1はベトナム特許における輸送機器分野の出願件数推移である。本報告における輸送機器分野とは、IPCメインクラスがB60(車両一般),B61(鉄道),B62(二輪車等),B63(船舶),B64(航空機)に該当するものを指す。

第1回目の報告で示した通り、全体の特許出願傾向は2000年代半ばから急激に件数が増加していたが、これは輸送機器分野でも同様の傾向である。2012年は230件程度の出願がみられるが、これは全出願の約6%を占めている。参考までに2011年の日本特許出願における輸送機器分野の出願は全体の7%(約24000件)となっており、ベトナムにおける輸送機器分野出願の割合には日本と大きな差がないことがわかる。
図1において橙色が内国人、緑色が外国人を表している。内国人割合は2012年出願で9%となっている。近年はベトナム特許全体における内国人比率も10%前後で推移しており、輸送機器分野の傾向と全体傾向には相関性がみられる。

[輸送機器分野出願人分析]
図2は2012年の輸送機器分野における特許出願件数上位の出願人と国籍の割合を示したものである。
2012年の234件の出願において、日本からの出願がその59%を占めており、その他の外国からの出願が32%、ベトナムからの出願が前述のとおり9%となっている。具体的には日本及び台湾の二輪車メーカーが上位に位置している。

次に、図3に2000年~2012年に出願された主要四輪車・二輪車メーカーによるベトナム特許出願件数を示す。この件数は各社の全出願件数であって、輸送機器関連に限定したものではない。
一般的に日米欧における輸送機器関連出願は四輪車メーカーがその多くを占めている。一方、図3よりベトナムにおける出願では二輪車メーカーからのものが多くなっている。さらに米欧中韓の四輪車メーカーからはほとんど出願されていないことがわかる。
ベトナムの一人当たりGDPは2012年時点で約3800ドルとなっており、耐久消費財の普及が本格化し、都市化・工業化加速が進む目安として基準を超えたところにある。またこの水準は二輪車が普及し始めるレベルにあるがまだまだ四輪車を購入できる層は限られた状態であるといえる。実際にベトナムは世界第4位の二輪車市場国に成長している。
これらのことが図3のような結果を裏付けている要因と考えられる。

[現地企業分析]
図2より、2012年の輸送機器分野特許出願において、ベトナムからの出願が9%(21件)ある。そのうち17件は個人による出願であり、残りは「FPT大学」、「Doosung Vina」、「KYMDAN Rubber」、「VMEP」からそれぞれ1件ずつ出願されている。

本分析では二輪車の現地企業であるVMEPに着目する。
VMEPとは「Vietnam Manufacturing and Export Processing Co., Ltd.」の略であり、1992年に設立された台湾のSanyang Industry Co., Ltd.の子会社である。VMEPはR&D Centerを持っており、これはSanyang Industryが生産する二輪車・部品をアセアン市場向けに販売するための技術開発を目的としたものである。

2000年から2012年においてVMEPからの出願は58件あり、二輪車・四輪車メーカーからの出願では親会社のSanyang Industryに次ぐ件数規模となっている(図3参照)。
この2社からの出願における技術別割合を示したのが図4の円グラフである。出願を「車体・付属品(フレームや周辺パーツなど)」、「エンジン(エンジン構造やその制御)」、「駆動(ブレーキやクラッチ、サスペンションなど)」、「その他(車両以外)」に分けている。

Sanyang Industryの出願はエンジンが最も多く(42%)、次に駆動(28%)、車体・付属品(24%)の順となっている。一方、VMEPは57%を車体・付属品が占めている。具体的には荷物用のカゴや燃料タンク、ミラーなどが含まれており、エンジンや駆動はそれぞれ20%未満と少ない。このことはSanyang Industryが世界戦略的に車両の走りに関するコア技術を各国へ展開し、VMEPはカゴやミラーなどの付属品に特化してローカライズのための出願を行っていることを表している。なお、VMEPの出願の約半数の出願が台湾人による発明であり、親会社の戦略のもとに現地子会社がベトナムに特化した出願を行っているものと予想される。
このように積極的にベトナム現地子会社から出願をしている車両メーカーは現時点では他におらず、Sanyang Industryがベトナムに注力している状況が知財戦略の面からも明らかとなった。

[ベトナム特許調査について]
ベトナムの特許出願件数は直近でも年間4000件程度であり、それほど大きな規模にはなっていない。また、内国人比率も10%程度とそれほど高いものではないため、日米欧の特許調査と比較するとそれほど調査ニーズが高くないというのが現状である。しかし、今後の経済成長によっては出願件数の増加と内国人比率の上昇が予想される。
日本技術貿易IP総研では今後の調査需要にいち早く対応するためにベトナム語による特許調査体制を整備している。本報告もVMEPの出願内容を把握するためにベトナム語での技術調査の結果を反映させたものである。

(ASEAN分析チーム)

参考資料
「アジア二輪車産業 ベトナム編」 (2011年3月) 工業調査研究所

図1 ベトナムにおける輸送機器分野の特許出願件数推移
図2 2012年の輸送機器分野特許出願の上位出願人と国籍割合
図3 主要四輪車・二輪車メーカーによるベトナム特許出願件数(2000年~2012年出願の累積)
図4 Sanyang IndustryおよびVMEPの技術分野別特許出願割合
(2000年~2012年出願の累積)

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