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2015.08.18

【Cases & Trends】 最新CAFC大法廷判決: 問題視された自らの判決を覆し、方法クレームの間接侵害(侵害教唆)請求に対するITCの管轄権を再確認

日本ではお盆休みウィークが始まる2015年8月10日(月)、米連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)大法廷の注目判決が下されました(Suprema, Inc. v. USITC, Fed.Cir. (en banc) 8/10/2015)。
標題の通り、間接侵害、とりわけ米特許法第271条(b)項の「侵害教唆/誘導(inducement)」に対するITCの取り締まり権限が争点となった事例です。まずは、判決冒頭に記された結論部分を紹介します。

「関税法337条(19 USC 1337)は、『…有効かつ権利行使可能な米国特許を侵害する物品』を輸入する行為を違法とする(19 USC 1337(a)(1)(B)(i))。 米国際貿易委員会(USITC)はこの条項が、米国への輸入後に輸入者が使用することにより直接侵害を生じさせる物品の輸入であって、その直接侵害が当該物品の販売者の教唆/誘導による場合(importation of goods that, after importation, are used by the importer to directly infringe at the inducement of the goods’ seller)も適用対象にしていると解釈した」

「当裁判所パネル(3人判事の合議体)は、直接侵害の発生が輸入後になる場合、輸入の時点では『侵害する物品』は存在しない、と述べて、ITCの解釈を覆した。この判断によって同パネルは、侵害教唆/誘導および潜在的にはすべての方法クレーム侵害に対する貿易面の救済を実質的に排除した」

「当裁判所は全判事による再審理(大法廷審理)の請求を受理し…、ここにおいて先のパネル判断を取り消す決定を下した。当裁判所は、ITCの立場・解釈を妥当なものとして再確認する…」

では、少し具体的に事案を見ていきます。

[事案概要]
Cross Match Technologies, Inc.(“Cross Match”)は、指紋スキャナー用システムと方法を対象とする米国特許7,203,344号を含む複数の特許を保有している。韓国法人Suprema, Inc.は、指紋スキャナー”RealScan”シリーズを製造しており、米法人Mentalix, Inc.に同指紋スキャナーを販売している。このスキャナーは単体では機能せず、専用のソフトウェアがインストールされたコンピューターに接続されなければならない。Supreme自身はこのソフトウェアを販売することなく、専用ソフトウェアを使えるようにするための”software development kit”(SDK)をつけてスキャナーを出荷していた。

MentalixはSupremaのスキャナーを米国に輸入すると、付属のSDKキットを使用してスキャナーの制御や操作を可能にする専用ソフトウェアを書き、同ソフトウェアと組み合わせてSuprema製スキャナーを米国で販売した。

2010年5月、Cross Matchは ‘344特許他の侵害を理由に、関税法337条違反の申立てをITCに提出し、翌6月ITCは調査発動を決定した(In Certain Biometric Scanning Devices, Components Thereof, Associated Software, and Products Containing the Same, Inv.No.337-TA-720)。

ITCは、SupremaのRealScanスキャナーが、SDKキットとMentalixのFedSubmitソフトウェアとともに使用されるとき ‘344特許の直接侵害が発生するという行政法判事(ALJ)の認定を踏まえ、Mentalixによる直接侵害、Supremaによる間接侵害(侵害教唆)を認定した。そのうえで、Suprema製”RealScan”スキャナーのみを対象とした限定排除命令を発令し、調査を終了した。

SupremaとMentalixは、ITCの決定を不服としてCAFCに控訴。CAFCのパネルは、次のように述べてITCによる侵害認定を取り消した。
「関税法337条の『侵害する物品』という文言には、時間的要件が含まれている。すなわち、侵害があるか否かは、輸入の時点に立って判断しなければならない。ITCには、侵害教唆に基づき排除命令を下す337条下の権限はない。その段階での輸入は、侵害状態にないからだ」(Suprema, Inc. v. ITC (Fed.Cir. 2013))
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このCAFCパネル判決は多くの議論を呼びました。とりわけ、この判決により、特許対象方法の大部分を米国外で実施し、残ったわずかのステップを米国輸入後に実施することで侵害認定を回避する、という深刻な法の抜け穴を提供することにならないかといった懸念が示されたということです。

Cross MatchとITCによる請求を受けて、CAFCはこのパネル判決を全判事で再審理することにしました。大法廷審理に付された争点をもう一度確認しておきます。

争点:「当該物品の販売者による教唆/誘導によって、直接侵害を構成する使用が、輸入後に、輸入者によってなされたことをITCが認定した場合、その輸入品は(337条でいう)『侵害する物品』に該当するのか」 
言い換えれば、「そのような物品を輸入する行為は、関税法337条に基づく不公正取引慣行に該当するのか」

[CAFC大法廷の判断]
大法廷では、行政機関による法の解釈の妥当性について裁判所が判断する際の基準を示したChevron判決(Chevron, USA, Inc. v. Natural Resources Defense Council, Inc., 467 US 837 (1984) を適用し、337条の文言、立法経過、立法政策などについて詳細に検討しました。

その結果、先のCAFCパネル判決が337条の立法趣旨に反することを、以下のように指摘しました。
「パネルが採用したテクニカルな解釈は、米国特許の侵害に関わる不公正取引慣行を阻止するために与えられたITCの全体的能力を弱めることになる。…実際、パネルの解釈が維持された場合、輸入後に一部の組み合わせや変更を必要とする形にして、直接侵害を立証できる前の状態にした物品を輸入することで、関税法337条をすり抜ける機会を外国企業に与えることになりかねない(連邦地裁での侵害訴訟では、さまざまな理由により差し止め救済を得られない可能性がある)」

そのうえで、特許侵害による不公正取引慣行をより広く適用するITCの解釈こそ妥当であるとして、冒頭記載の通りITCの権限を再確認することになったのです。
*なお、今回の判決は6対4の多数決。実は全判事による(en banc)といいながら、ムーア判事とプロスト判事は参加していません。この二人が参加していたら、結果は変わっていたかもしれないという指摘もあります。

⇒判決原文:http://www.cafc.uscourts.gov/sites/default/files/opinions-orders/12-1170.Opinion.8-6-2015.1.PDF

(営業推進部 飯野)

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