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2015.12.24

【外国特許出願Tips】 ドイツ特許と欧州特許、新規事項追加に対する扱いはどう違う?

ドイツ特許と欧州特許の比較 -新規事項の追加に対する扱いの違い-
欧州特許条約(EPC)と域内の国々の特許法は、定期的に調和が図られています。しかしながら、各国の歴史的背景や文化の違い、あるいは国内の裁判所の判決により、EPCとは異なる独自の運用が導入されていることがあります。

今回は、新規事項の追加に対する、ドイツと欧州との取り扱いの違いについてご紹介します。
キーワードは”footnote solution“、キーフレーズは「欧州特許の”inescapable trap”は、ドイツでは”escapable”」ということです。

欧州特許の”inescapable trap”をご存知でしょうか。欧州特許の異議手続きにおいて、特許付与前の補正でクレームに追加した特徴Xが新規事項と判断され、且つ、特徴Xの削除が拡大補正になる場合、特徴Xを削除できず、特許取消となってしまう、いわゆる「逃げ場のないトラップ」のことです。EPC123条(2)項(新規事項の追加禁止)とEPC123条(3)項(異議手続きでの拡大補正禁止)に基づく(*1)トラップであることから、「123 trap」とも呼ばれます。

一方、ドイツでは、このような新規事項の追加をしてしまっても、逃げ道が用意されています。これが、ドイツ連邦裁判所が提示した”footnote solution”というものです。特許付与前の補正でクレームに追加した特徴Xが新規事項と判断され、且つ、特徴Xの削除が拡大補正になる場合であっても、(1)有効性の判断において特徴Xが新規性及び進歩性に寄与する特徴として考慮されないこと、及び、(2)侵害の判断においては特徴Xが権利範囲の限定事項として考慮されること、を明細書に記載する(footnoteを追加する)ことで、特徴Xを削除しないまま、権利が維持されることを認めています。

従来、この”footnote solution”はドイツ国内出願に基づく特許には適用されるものの、欧州特許経由の権利に適用されるかは明確になっていませんでした。しかし、2015年2月のドイツ最高裁判決により、ドイツの”footnote solution”がドイツで有効化された欧州特許にも適用されることが明確になりました(*2)。

これにより、

– 欧州特許の特許権者としては、異議申立を受けなければ、少なくともドイツについて、新規事項の追加による無効化のリスクが回避できる可能性がある。
– 欧州特許の無効化を図る者としては、異議申立を行わなければ、少なくともドイツについて、無効理由が1つ減る可能性がある。

ということになりそうです。

■参考 無効化率(部分的に無効含む)
69% 欧州特許庁の異議申立 (31%は完全に無効)(*3)
32% ドイツ連邦特許裁判所の無効訴訟 (*4)

1. EPO- EPC123条
http://www.epo.org/law-practice/legal-texts/html/epc/2013/e/ar123.html
(2015年6月4日更新版)

2. EPO – Official Journal September 2015
https://www.epo.org/law-practice/legal-texts/official-journal/2015/09/a78.html
(2015年9月30日更新版)

3. EPO Annual Report 2014
https://www.epo.org/about-us/annual-reports-statistics/annual-report/2014/statistics/searches.html?tab=3
(2015年2月9日更新版)

4. ドイツ連邦特許裁判所が公表している2012年の数字に基づく計算
https://www.bundespatentgericht.de/cms/media/Oeffentlichkeitsarbeit/
Veroeffentlichungen/Informationsbroschueren/infobroschuere_en.pdf

(The Federal Patent Court, “Tasks/Organisation/Prospects”, 2012)

(記事担当:特許第1部 高橋、編集:杉田)

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