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2016.03.28

【米国トレーニー日記】 第10回:US審査官との電話インタビュー

 筆者(増位)は、2015年9月~2016年3月までの半年間、米国ワシントンDCのとある特許事務所にトレーニーとして駐在しました。本稿では、駐在期間中の『米国ならではの体験』について、みなさまと共有させて頂きたいと思います。今回は、『US審査官との電話インタビュー』についてご報告いたします。

 さて、過去のレポート(2011年)では、弊社のトレーニーが、米国特許庁(USPTO)に訪問して審査官面接(personal interview)を行い、その様子を紹介しています。今回は、私が駐在したオフィスで、審査官との電話インタビューに同席しましたので、その様子を紹介したいと思います。USPTOにサテライトオフィスができたり、審査官が遠隔地で業務を行うようになったりと、近年のUSPTOのワークスタイルの変更に合わせて、インタビューの形式も、面接よりも電話が主流になっているそうです。また、現在はそれほど多くないものの、テレビ電話によるインタビューも徐々に多くなっているそうです。

 電話インタビューを開催する前準備として、まず審査官に電話をかけてインタビュー日時を予約します。ここで審査官が不在の場合はボイスメールを残します。インタビュー日時が決まったら、インタビュー・アジェンダを作成して、予め送付しておきます。

 このアジェンダには、日時、代理人名、審査官名、協議したい事項などが記載されています。今回担当した弁護士によれば、アジェンダの内容は個人や案件によって様々で、分かり易くするためにごくごく簡単なものに留める場合もあれば、応答書をそのまま記載して審査官に事前レビューをしてもらっておくこともあるそうです。アジェンダは、代理人と審査官との間の非公式資料で終わることもあれば、インタビューサマリに添付される等の形で、包袋に入る(つまり、記録され、公開される)こともあります。このため、余計な争点を発生させないためにも、できるだけ簡単なものにするというのが今回の担当弁護士の戦略でした。

 なお最近、USPTOは、このインタビュー・アジェンダや、インタビューで(口頭のみで)協議された補正案などについて、できるだけ包袋に入れることを推奨しているようで、今後のインタビューの実務に影響を及ぼす可能性があります。つまり、協議された内容が非公式で非公開であるというインタビューの大きなメリットが、今後は無くなっていくのかもしれません。

 今回の電話インタビューは、112条の単一の争点について協議するものでした。単一争点の簡単な内容であったため、電話の時間は10分もかからず、あっという間に終わりました。予定時間の2分前に電話をかけて、おきまりの “Hi, how are you?” から、フレンドリーな雰囲気で始まります。事前予約があったので、二人の間で案件を認識できており、出願番号すら言わずに内容に入っていきます。

 今回の担当審査官は、非常に早口で、かつ、話があっちこっちに飛ぶタイプでした。ネイティブで無い限りは、完全に聞き取るのはちょっと難しいと感じました。ただ担当弁護士の後日談によれば、ネイティブであったとしても、今回のような担当審査官に当たると、話の内容が聞き取れないことも多々ある、とのことです。担当審査官が一方的にしゃべりまくり(本当に早い!)、それを担当弁護士がメモを取りながらふんふんと聞き、ときどき少し話をして誘導する、といった調子で、電話インタビューは進みました。

 結論としては、同じ審査官が担当する別件を参考としてクレーム補正をすれば、112条拒絶を解消する可能性が高い、とのこと。当該別件の出願番号と事務所側の整理番号を審査官から教えてもらいました。また審査官は、そのようなクレーム補正の具体的な文言ができたら正式応答書の提出前にレビューしても良いと述べ、これに対して代理人が、補正案を準備してまた今週中に電話すると応じて、電話を切りました。電話インタビューの目的は、112条拒絶を確実に解消するために、審査官の感触を得ることでしたので、今回の結果は成功と言えるでしょう。

 また審査官は、電話インタビューの最中に、昨年から、USPTO内での112条の運用が厳格になっている、と述べていました。今回の争点についても、昔であれば拒絶することはなかったが、現在は拒絶の対象になっている、とのことです。このように、法律や規則に変更は無くとも、外部には正式に通達されないUSPTOの内規の変更により、実務運用が変わることもあり、最新の実務運用に関する情報を得るためにも、インタビューが有効であることが理解できました。

(記事担当:特許第2部 増位)

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