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2017.08.21

【短期集中連載】欧州単一特許 =新制度の開始に向けて=第4回:オプトアウト:応用編

*第3回(オプトアウト:基礎編)に引き続きご紹介いたします。
 先月号に引き続き、オプトアウトについてお話しします。 今回は、初めに統一特許裁判所のメリット・デメリットについて触れ、これをもとにオプトアウトの申請要否の検討方法の一例についてお話しします。 さらに、オプトアウト申請に係る注意点をまとめました。 ご参考となれば幸いです。

<統一特許裁判所のメリット・デメリット>
 これまでにもお話ししましたが、「オプトアウト」とは、自身の保有する従来型欧州特許を統一特許裁判所(UPC)の管轄から除外するための手続きです(単一効特許は例外なく統一特許裁判所の専属管轄となりますので、オプトアウトとは関係ありません)。 そのため、オプトアウト申請の要否を検討するためには、統一特許裁判所と国内裁判所との違いを理解しておくことが必要になります。

 特許権者にとって、統一特許裁判所を裁判地とするメリット・デメリットは、一般的に以下の通りです:

・メリット
-国内裁判所で個々に訴訟を行う場合と比べ、費用を削減できる(有効化した国数が複数の場合)。
-各国にわたる単一の差し止め命令が得られる可能性がある(有効化した国数が複数の場合)。
-複数国ベースの算定により高額な損害賠償額が認められる可能性がある(有効化した国数が複数の場合)。
-迅速な手続きが期待できる(UPC手続規則では、通常は第一審の口頭弁論まで1年以内とされている)。

・デメリット
-無効訴訟を受けた場合、単一の手続きで各国の権利が消滅する可能性がある(有効化した国数が複数の場合)。
-統一特許裁判所のスタート直後は、各国の制度を盛り込んだ手続規則の運用、及び、控訴裁判所での判例がない中での法理の適用が不透明である。

<オプトアウトの申請要否の検討>
 上記メリット・デメリットを念頭に置き、オプトアウトの申請要否を検討してみましょう。

 オプトアウトの申請要否の検討方針の一つとして、案件ごとに、欧州特許・欧州特許出願の「権利の強さ」、「権利の重要性」、「有効化した(する)国数」をもとに検討をすることが考えられます。
 一例として、「権利が強い」と思われる件については、一括無効化のリスクが低いといえるため、統一特許裁判所のメリットを享受すべくオプトアウトを申請しないことが考えられます。 なお、この場合、「権利が重要」な欧州特許出願については、万が一の事態を想定して分割出願をし、分割出願に基づく権利の方をオプトアウトすることにより、国内裁判所での裁判管轄を確実に確保することも可能です。 また、ドイツのように可能な国については実用新案を登録させておくこともできます。 ただし、「有効化した国数」が一つの件については、上述した統一特許裁判所のメリットの大半を享受することができませんので、この点を念頭に置いてオプトアウトの申請要否を検討することが好ましいでしょう。
 一方で、「権利が弱い」と思われる件については、「有効化した国数」が複数の場合は一括無効化のリスクが高いといえるため、一括無効化を避けることを最優先に考えオプトアウトを申請することをお勧めします。

 別の方針としましては、作業コストの低減等を目的として、全件について統一的な対応をとることも考えられます。
 例えば、不慣れな統一特許裁判所での訴訟や一括無効化のリスクを敬遠することを最優先とし、全件についてオプトアウトを申請することが考えられます。 なお、この場合、オプトアウトを申請した件でも、国内裁判所への訴訟が提起される前であれば、オプトアウトの申請を取り下げることが可能です。 すなわち、統一特許裁判所での手続きや判決がある程度明らかになってから、時期を見てオプトアウトを取り下げることもできます。

<オプトアウト申請に係る注意点>
 オプトアウトの申請に関し、以下の点にご注意ください:

(1)申請ミスをしないようにすること
 「そんなの当たり前!」と言われてしまうかもしれませんが、申請ミスをした場合には以下のような恐ろしいことが起こり得ます。
 オプトアウトの申請内容は逐一チェックされませんので、ミスがあった場合にそれが判明するのは後のことになります。 例えばですが、オプトアウト申請済みの欧州特許に対して第三者が統一特許裁判所に無効訴訟を提起し、この段階でオプトアウト申請時のミスが認められた場合、統一特許裁判所の管轄となってしまいます。
 事前にミスが発覚した場合には訂正が可能ですが、この場合、オプトアウトは訂正の登録日から有効になります。

(2)真の権利者を確認しておくこと
 オプトアウトの申請には、全ての権利者(出願係属中の場合には出願人)、及び、SPCが設定されている場合には全てのSPC所有者、の同意が必要ですので、オプトアウト申請時の真の権利者は誰であるのかを確認しておく必要があります。 規則上は、申請時における真の権利者であれば、特許庁に登録されている情報と一致している必要はありません。 とはいえ、オプトアウトの有効性を確実にするために、特許庁の登録情報と実際の情報が異なる場合には、オプトアウト申請前に特許庁の登録変更手続きを済ませておくことを推奨する意見もあります。

(3)オプトアウトの取り下げは慎重に行うこと
 オプトアウトを申請した後に申請を取り下げた件に関しては、再度オプトアウトを申請することはできません。

<今月のアップデート>
・2017年8月1日付で、エストニアがUPC協定を批准しました。 これにより、UPC協定を批准した国数が13か国となりました。

 今月は、さほど大きな動きはありませんでした。 日本より長いと言われている欧州の夏休みの影響でしょうか(例えば、英国議会の法案採択プロセスは、7月20日から9月5日までは停止しています)。

*筆者、欧州出張のため、来月号は休載とさせていただきます。

=> 第5回(欧州視察報告)に続く

(記事担当:特許第1部 田中)

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