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2017.10.20

【中国視察2017】 [1] NGB主催セミナー「侵害事例分析 / SEP訴訟分析」

NGBは、クライアント企業様8社(9名)のご参加を得て、9月4日 (月) -8日 (金) の日程にて中国視察ツアーを催行した。 本稿では、ツアープログラムの一つとして開催した中国知財セミナーの概要をご紹介する。

*   *   *   *   *
『外国企業が被告となった中国専利権侵害事例分析及び対応策/SEP訴訟分析』
9/5 (火)講演会 16:00~18:00 レセプション 18:00~ 於:長富宮飯店
講師 石必勝 中国弁護士・弁理士(金杜法律事務所 パートナー)
通訳 張 華威 中国弁護士・弁理士 日本弁理士(NGB 顧問)

講演会には、ツアー参加者の他に北京・上海に駐在する日本/日系企業の知財・法務担当者他、計30名以上が参加。また、講演会後のレセプションには北京・上海・深圳の弁護士/弁理士も参加され、計70名を超える「日中知財コミュニティ」を形成し、議論の花を咲かせた。

以下、講演の部概要をご紹介する。

講師は、北京高級人民法院・知財廷の元判事で2,000件以上の知財訴訟を扱ったという石必勝弁護士。昨年に続き今年も講師をお願いし、中国知財訴訟の現状と対策について講演いただいた。テーマは昨年とほぼ同じだが、この一年で訴訟の数、質ともに大きく変わりつつある様子。特に今年は、北京知財法院に多く提起されているというSEP(標準必須特許)関連訴訟についても、主要テーマの一つとしてとりあげていただいた。

1. 専利訴訟の概況
最初に知財訴訟、専利権訴訟の件数推移が示された。2016年の知財訴訟新受件数は一審、二審を含め17万件超。そのうち一番多いのは著作権であり、その次が商標、最後にくるのが専利権の訴訟。専利権侵害訴訟の件数は、「最も少ない」とはいえ約12,000件が提起されている。(注:日本では2016年知的財産訴訟新受件数の一審合計が504件。桁違いというより、二桁違いとでも言うべき差である)

2. ケーススタディ 1)排煙脱硫装置事件 2) SATA接続器事件
いずれも日本企業/日系企業が被告になったケースである。1)排煙脱硫装置事件は、日本の富士化水工業が被告となり、日本円で約7億円という高額な損害賠償が最高人民法院に認められた事件として注目された事件。2)SATA接続器事件は東芝(中国)社が被告となり、一審で侵害侵害認定に基づき損害賠償と差止め救済が命じられたものの、第2審で破棄・差し戻し。その後、原告が訴えを取り下げたという事件。

石弁護士は、事例解説を主体にするのではなく、各事例が示した様々な論点を題材にし、現在の中国司法環境に照らし合わせ、日本企業がどう対処すべきかをアドバイスしていただいた。具体的には「自社が被告になった場合」という立ち位置から、とるべきステップ(九つ)と押さえるべきポイント(五つ)をみていった。

九つのステップ
1.管轄違いの異議申立
2.弁護士の選任
3.相手方の商業目的の分析
4.客観的な侵害分析
5.無効審判の請求
6.審判結果に基づく訴訟戦略の見直し
7.抗弁事由の検討
8.差止めが認められない事由の検討
9.損害賠償額

五つのポイント
商業的な目的を見極めること
技術を理解できること
言い分をうまく説明できること
要点を掴めること
裁判官の特徴を熟知すること

すべてを本稿でご紹介することはできないが、「五つのポイント」説明から、「裁判官に対する対象技術の説明」のあり方について抜粋する。

「…もうひとつ誤解されやすいこととして、技術をよく理解しているからといって、うまく裁判官を説得できるとは限らないということです。場合によっては、技術について詳しくない人間が、技術を理解したうえで裁判官に説明した方が、うまくいく場合が多いです。私が裁判官だった頃の経験でいえば、技術にあまり詳しくない弁護士と裁判官の技術知識レベルはほぼ同じですので、同レベルの知識の者によって説明された方がわかりやすいと思います。詳しい技術者が説明をしても、技術者の知識が裁判官の知識をはるかに超えているため、技術者が当たり前と思ったことも裁判官にはわからないということがあるのです。…」

中国に限らず「裁判官への技術説明の仕方」はよく語られるテーマだが、2,000件以上の裁判経験をもつ元裁判官のことばだけに「臨場感」を伴って響いてくるものがあった。

3. 中国におけるSEP専利訴訟
本パートでは標準必須特許(SEP)に関する最新規定に沿った解説がなされた。
最初に中国標準に関する基礎知識が示されたので、抜粋する。

「中国には、強制的標準、推奨的標準、団体標準、企業標準の4種類がある。なかでも強制的標準とは、中国の最高行政機関である国務院が承認・発表し、または承認・発表を他の機関に授権する特殊なもの。ゆえに、中国におけるSEP訴訟でこの強制的標準が問題になることは少ない。

今年(2017年)発表された北京高級人民法院の専利権侵害判定指南と、2016年7月に発表された司法解釈に「推奨的標準必須専利」についての規定が置かれている。この推奨的標準はさらに、推奨的国家標準、推奨的業界標準、推奨的地方標準の3つに分類される。司法解釈の中では推奨的標準が規定されているものの、国際的な組織が設定する標準には言及がない一方、北京高級人民法院の侵害判定指南の中では、国際標準機構やその他の機関が制定した基準に関しても、適用できるという規定が明確におかれている。実際、SEPが問題になるのは通信の分野が多いのですが、通信の標準というのは国際標準機関が設定するものがほとんである」

以上の基礎知識を踏まえ、中国におけるSEP訴訟の進め方、特に一般の特許訴訟にない特殊性(特許クレームとイ号の直接比較ではなく、最初に「特許と標準の関係」「標準とイ号の関係」を検討してゆくなど)、差止め救済が認められるための条件などについての説明がなされた。

今後急増が見込まれる中国SEP訴訟において判断の拠り所なる重要ルール(侵害判定指南、司法解釈)について知る貴重な機会となった。

(営業推進部 飯野)

石必勝先生(左)と通訳の張弁護士

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