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2018.02.20

【Cases & Trends】 デリー高等法院、インド法学者による特許庁への公益訴訟で実施報告義務の厳格適用を追認か

「特許発明の実施報告義務を特許権者に遵守させていない、義務違反者に対し法に基づく制裁も課していない」などを主張して、2015年にインド特許庁を訴えたインド法学者の公益訴訟については、本コーナーでも紹介しました。その後、訴訟がどうなったのか不明な状態が続いたのですが、今年に入り大きな動きがみえてきました。

2018年1月10日、デリー高等法院は、本件における最初の判断を下しました。全8頁という短い文書(Order)で、最終判決ではありませんが、争点と裁判所の部分的な判断は示されています。まずはその内容をご紹介します(文中の小見出しなどは筆者が加えました)。

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デリー高等法院(Delhi High Court)
W.P.(C)5590/2015

Shamnad Basheer … Petitioner
    vs.
Union of India & Ors … Respondent

Order 1/10/2018 

関連法規
特許法第83条(特許発明の実施に関する一般規定)
 「特許とは、特許権者が特許対象物の輸入を独占することを可能にすることだけのために認められたのではない…。
特許発明の恩恵を公衆に手の届く価格で利用しうることを可能にするために認められた」と明記。
特許法第146条
 2003年特許規則131条に基づく特定フォーム(Form-27)で特許発明の実施に関する情報の提出を特許権
者に要求する権限を特許庁長官に付与
特許法第122条
 規則131条違反に対する罰則(罰金または禁固刑)を規定

申立人(Petitioner)の主張
特許庁は、特許法第146条に基づく特許発明実施に関する報告義務の順守を確保せず、また規則131条違反に対し、特許法第122条に基づく制裁も実行していない

(1) Form-27提出義務違反への対応

特許庁年次報告2012 – 13より

申立人質問 「Form 27を提出しなかった特許権者/ライセンシーに対し特許庁はどのような措置をとったか」
特許庁回答 「何らの措置もとっていない」 (2014.1.9)

(2) 強制実施権が認められた NATCO Pharmaへの対応
2012.3.9 バイエルの抗がん剤特許に対する強制実施権裁定。特許庁は、NATCOに対し毎月ライセンス対象医薬の販売情報を提出する義務を課した。

申立人質問 「NATCOは情報提出義務を果たしたか。果たしていなかった場合に特許庁はどのような措置をとったか」
特許庁回答 「この点に関する詳細は記録にない」(2015.2.6)

(3) ライセンシーによるForm-27提出義務に関する認識
2014.3.12 申立人に対する特許庁の説明 「Form-27は特許権者のみが提出するもの」
申立人の反論 「明らかに法定の要件に反する」

(4) エリクソンによる特許法146条違反 - 「ライセンス情報は秘密扱いされるべきか」
1999.8.24エリクソンは同社の特許203034号に関する実施報告書(Form-27)を提出。
Form-27中の「前年に許諾されたライセンスおよびサブライセンス」の記載欄について、エリクソンは次のように述べた。
「すべてのライセンスは秘密情報であるため、ライセンスの詳細は特許庁の特別な指令に基づいてのみ提出される」

デリー高裁見解
「Form-27を提出する特許権者は、ライセンスとサブライセンスの詳細を提出することが求められており、この情報を『機密』扱いにすることはできない。特許庁は、この情報を開示しない行為を特許法第146条違反として扱うべきであり、法に基づく措置を講じなければならない」

訴訟参加人の主張 – 「Form-27自体の曖昧さ」
そもそもForm-27自体が非常に曖昧であり、特許庁による見直しが必要である(申立人自身も指摘)。
このような書式を順守しない行為を咎めることはできない。

デリー高裁見解
「Form-27に関して制定法の義務に対する免責はなく、参加人の指摘は誤り。Form-27提出者は求められる情報を提供しなければならない」
ただし、
「Form-27は(曖昧であり)見直しが必要という見解に関しては、特許庁が2015年10月26日付で『2015年特許(改正)規則』と題する規則改正案を告示し、パブリックコメントを募ったという宣誓書が提出されている。
この改正案がその後どうなったのかについて情報がない。特許庁は、Form-27に対する必要な修正がなされた否かを当裁判所に報告できていない」

「特許庁は、規則改正の現状と特許法第122条に基づいてとった措置について回答する期限の延長を求めた。2018年1月18日に再度審理を行うこととする。」
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上記の通り、このOrderは、申立人の主張、裁判所の事実認定や判断、訴訟参加人の主張などが入り混じっており、筆者としても正しい紹介ができているのか不安なのですが、議論の焦点や残る問題点などはつかめたと思います。
実施報告は明らかに法定の義務。ただし、報告ツールとしてのForm 27があまりに曖昧であり、見直しを要するという点では当事者間に異論はないようです。

規則改正案を提示し、パブコメも募集したという改正作業の結果・現状がどうなっているのか。インド特許庁側は即答できないため1月18日の審理が再設定されたということですが、実際にどのような結果になったのか、現時点では確認できていません。本件の申立人であるShamnad Basheer氏は自ら運営する知財ブログ “SpicyIP”で状況報告をしていますが、客観的な情報になっているか判断が難しいため、ここでは紹介を控えます。

ただし、Basheer氏によれば、審理期日は1/18から2/5へ延期されたということです。
また、Orderの中で名指しされているエリクソンは、自ら提出したForm 27が問題とされていながら弁論、抗弁の機会を与えられないのは不当、と主張して、1/18予定のヒアリングへの参加を要求する緊急申立を提出しています。

エリクソンのみならず多くのインド特許保有者にとって大きな影響を及ぼすであろう本訴訟の展開については、今後もウォッチし、アップデート報告する予定です。

(営業推進部 飯野)

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