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2020.12.21

【Cases & Trends】 インド特許実施報告書Form-27が50年ぶりに改訂される。 – 実施数量の報告はなくなり「額」のみに。複数特許まとめての報告も可能に…使い勝手は(?)

2020年10月19日、インドにおける特許実施報告規則の改正が成立しました。これにより、長年特許権者を悩ませ、論争の的となった実施報告書フォーム(「Form-27」)もついに形を変えることとなりました。
— インド商工省 産業・国内取引促進局告示 “Patents (Amendment) Rules, 2020” MINISTRY OF COMMERCE AND INDUSTRY (Department for Promotion of Industry and Internal Trade) NOTIFICATION(New Delhi, 19th October, 2020)*実施報告関連(規則131(2))の他に優先権書類の翻訳文提出(規則21(2))が今回の改正対象になっています(「特許・意匠ニュース」ご参照)。

今回の規則改正へと到るまでの経緯については、2015年の公益訴訟(PIL)提起時から本コーナーでもとりあげてきました(『インド法学者による公益訴訟で明らかになった特許実施報告義務対応の実情』 2015/09/24)。デリー高等法院は、「実施報告は法に基づく特許権者/ライセンシーの義務であり、その順守が要求される」ことを確認しつつも、「Form-27の複雑さ、曖昧さゆえに順守が困難になっている」面があることを認め、適切な書式に改訂すべきことを命じました。インド特許庁がこれを受け、規則改正スケジュールを裁判所に提出したことにより、訴訟は終結したのです(Shamnad Basheer vs. Union of India & Ors, Delhi High Court, W.P.(C)5590/2015, 4/23/2018 closed; 『[続・続報] 特許の実施報告義務をめぐるインド公益訴訟 - 報告書式(Form-27)の見直しへ』 2018/06/20)。

しかしその後、改正作業は遅々として進まず、業を煮やした公益訴訟原告が裁判所に緊急申立てをするまでして、やっと第一改訂案の公表・パブコメ募集にたどりついたのが2019年の5月末でした(『インド特許実施報告規則131条/Form-27改正案公表される — 簡素化進む一方で、変わらぬ多くの報告負担、一部改悪も(?)』  2019/06/20) その後さらに1年半を経て、ついに1970年特許法の施行から50年間不変だったForm-27が改訂されたのです。

[規則改正の概要]
実施報告の対象期間は各暦年から「各会計年度(4月~3月)」となり、特許が認可された会計年度の翌会計年度から報告対象となる。報告期間は、当該会計年度終了後6ヵ月以内。すなわち、毎年9月末までに前会計年度分の実施に関する報告をしなければならない。– 改正規則131条(2)

改訂Form-27および旧Formとの比較

 新規則 New FORM 27  旧規則 Former FORM 27
1. 名称、住所、国籍、特許番号を記載のこと
(なお、すべての特許が関連性をもち、当該特許発明から生ずるおおよその収益(revenue)または額(value)が特許ごとに区別することができず、かつ同一特許権者に認可されている場合、複数の特許につき1件の報告書で提出することができる
1. 名称、住所、国籍、特許番号を記載のこと
2. 本報告書の対象となる会計年度を記載のこと 2. 本報告書の対象となる暦年を記載のこと
3. 実施か、不実施か(チェックすること) 3(i)実施か、不実施か(チェックすること)
4. 実施の場合
(a) 本報告書を提出する特許権者またはライセンシーに当該特許からインドにおいて生じたおおよその収益または額のうち
(1)インドでの生産の場合     (インドルピー)
(2)インドへの輸入の場合     (インドルピー)

(b) 上記に関する説明(500字以内で記載すること

3(i)(b) 実施の場合
 特許対象品の数と額(インドルピー)
 (1)インド国内での生産の場合
 (2)インド国内への輸入の場合(輸出した国別に)
5. 不実施の場合
実施しない理由および実施に向けてとっている措置について(500字以内で記載すること
3.(i)(a) 不実施の場合
実施しない理由および実施に向けてとっている措置について(可能な限り詳細に
3.(ii) 対象期間中に認可されたライセンスとサブライセンスについて(可能な限り詳細に記載すること)
3.(iii) 公衆の要求に対し、部分的に/適切に/完全に、合理的価格で応ずることができたか否か(可能な限り詳細に記載すること)
6. 署名:特許権者、ライセンシー、または代理人 4. 署名:本報告書の提出者
備考: いかなる特許権者またはライセンシー(排他的、その他)も、本報告書を提出することが要求される。特許が2以上の者に認可された場合、すべての特許権者が共同で本報告書を提出することができる。ただし、ライセンシーはそれぞれ別個に本報告書を提出しなければならない。

今回のForm-27改訂版について多くのインド弁護士は「簡素化された」「複数特許が使われている製品について1件の報告でまとめて報告できるようになった」と好意的に紹介しています。
企業実務上はどうなのでしょうか。「この製品について使われている特許はこれとこれ。それらがもたらしたインドでの収益/価値はこれだけ」… このような情報を「出すのは難しい」あるいは「出したくない」など、いろいろあるようです。

一方、改訂を促す発端となった公益訴訟の原告Shamnad Basheer氏(法学者でありインドの代表的知財ブログ“SpicyIP”創設者)は、今回の改訂をどのようにみたのか。… Basheer氏のコメントはありません。ご存知の方も多いと思いますが、同氏は改訂版をみることなく2019年8月に亡くなっています。
改訂版をみたSpicyIPの執筆者は次のようにBasheer氏の思いを代弁しています。「インド特許法が求める特許実施状況の適切な開示には程遠い内容だ…」
“Indian Government Significantly Dilutes Patent Working Disclosure Norms” by Pankhuri Agarwal, SpicyIP 11/10/2020; “The New Form 27 (Patent Working Statement): Heading in the Wrong Direction?” Adarsh Ramanujan, SpicyIP 11/12/2020

外国特許権者にとっても、まだForm-27の悩ましさは完全払拭とはいかないようです。
NGB年金管理部では、来年9月末が報告期限となる新Form-27提出に向け、さらに情報収集中です。ユーザー様には改めて部門よりご案内いたします。

(営業推進部 飯野)

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