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特許出願から見た海洋温度差発電

2013/09/25 特許/実案 企業動向 技術動向

海洋での発電技術として,「洋上風力発電」(*1)、海流を利用する「波力発電」と「潮力発電」(*2)、そして海流の温度差を利用する「海洋温度差発電」、さらには「海洋濃度差発電」の5つがよく知られている。今回は、海洋温度差発電に注目する。


海洋温度差発電とは?
 海洋温度差発電(Ocean Thermal Energy Conversion:OTEC)は、表層の温かい海水(表層水)と深海の冷たい海水(深層水)との温度差を利用する発電技術である。
 海洋の表層から100m程度までの海水には、太陽エネルギーの一部が熱として蓄えられ、低緯度地方では、年間を通じて26~30度程度に保たれている。一方、極地域で冷却された海水は海洋大循環で低緯度地域へ移動する。海水の移動に伴い、周辺の海水との間には、温度差が生じ、相対的密度が大きな極地域からの冷たい海水は深層に沈み込む。
 この「表層水」と「深層600~1,000m に存在する1~7度程度の深層水」を取水し、これらの温度差を利用して熱機関を動かして、発電するのが海洋温度差発電である。海洋の温度差は、昼夜の変動がなく、比較的安定したエネルギー源であり、季節変動が予測可能なため、計画的な発電が可能となり、ベース電源として使用できる。(*3)
 熱帯および亜熱帯地域の海水の垂直温度分布(すなわち、表層と深層1,000m との温度差分布)は、赤道近くでは24度と特に高く、海洋温度差発電に適していることも知られている。したがって、海洋温度差発電に適した日本近海地域は、沖縄・九州・伊豆七島や小笠原諸島などに限られている。
 上述のように、海洋温度差は最大24度であるから、電気エネルギーに変換できる熱エネルギー量は少なく、しかも深層水(深層~1,000m)の採取にはエネルギーを必要とする。したがって、採算性を考えた計画的経済投資が必要になり、汲み上げた海洋深層水を発電以外の用途にも総合的に活用する必要がある。
 具体的には、海水淡水化、海洋深層水による漁場造成、冷水利用による地域冷房(例えば、住居・農業施設の冷房化)、水素製造、リチウムなどの海洋からの稀少金属資源回収などが挙げられる。(*3)
 世界的に見ても、海洋発電に適した地域は大規模電力消費地から遠いため、発電電力の生産地消費を前提とした地域産業振興構想が必須となり、海洋レジャーランド構想や地域密着型産業の育成、さらには海洋から得られる稀少資源の製造との連携も重要になる。


韓国企業の最新動向
 韓国鉄鋼企業Poscoは2011年に、海洋温度差・排熱発電に取り組む日本の発電会社であるゼネシスに51%の資本出資を行った(*4)。ゼネシスは佐賀大学および上原春男氏(佐賀大学名誉教授)から技術供与を受け、海洋温度差発電と排熱温度差発電に取り組んでいる企業である。
 尚、Poscoは2009年に、韓国国土海洋部と韓国地質資源研究院が国策課題として推進する「海洋リチウム(Li)抽出技術の商用化」に関する研究開発プロジェクトの優先交渉企業に選定され、海洋リチウム量産を視野に入れた将来技術の研究開発を本格化させており(*5)、韓国地質資源研究院が研究開発を進めている高性能吸着剤でリチウムだけを取り出す技術により、リチウムイオン電池向けリチウムの量産化を狙っているものと考えられる。
 海洋資源からのリチウムの量産的回収には、深層海水汲み上げ技術が必要とされ、このような状況下でのゼネシス買収は、海洋から汲み上げた深層水を海洋温度差発電に利用するだけでなく、リチウム量産に用いることも狙うというPoscoの戦略が窺える。
 一方、海洋温度差発電を取り込めば、海水の淡水化も可能となる。新興国の発展には、水資源の確保が重要な課題となっており、安全な水へのアクセスが困難な人口の地域分布としては、東アジア・太平洋諸国(約4000億人)や南アジア諸国(約2200億人)、サハラ以南のアフリカ諸国(約314億人)が指定されている(*6)。したがって、熱帯および亜熱帯地域の国々では、海洋温度差発電によって得られる安全な水もPoscoの海洋開発事業における有力な市場開拓ツールとなり得る。


海洋温度差発電の概要と課題
 海洋温度差発電(OTEC)装置の基本構成は、蒸発器、凝縮器、タービン、発電機、ポンプ、海水汲み上げパイプ(表層水用/深層水用)であり、海水の利用方法と発電方法により、次のように分類できる。


図1. 海水の利用方法と発電方法による海洋温度差発電の分類

 表層水と深層水の海水温度差(最大でも24度程度)だけに頼る熱電変換方式は、今のところ経済的採算性に無理があると考えられている。
 もう1つの方法として、タービンを回転させて発電するタービン方式がある。タービン方式には作動流体を利用したタービンの稼働法から見て、5つの方式に分けられる。
まず、Georges Claude氏が考案した「オープン・サイクル」と、火力発電などと同様な原理で作動させる「クローズド・サイクル」、そして両者を組み合わせた「ハイブリッド・サイクル」の3方式がある。
 その他に、Charwat氏らによって考案された表層水(温水)の位置エネルギーで水車を回転させる「ミスト・サイクル」と、Zener氏によって考案された表層水から気泡を除き、得られた温水で水車を回転させる「フォーム・サイクル」がある。
 「オープン・サイクル」では、海水温度の高い表層水を、真空化された装置内に導入して気化し、得られた水蒸気でタービンを回転させて発電する。タービンから排出された水蒸気は深層水で冷却・凝縮され水として放流される。作動流体である水蒸気は系内を循環しないため、オープン・サイクルと称される。なお、排水された水は飲料水として使用することも可能である。
 「クローズド・サイクル」では、表層水を高温源、深層水を低温源として使用する。常温に近く、しかも温度差が少ないサイクルであるため、作動流体としては、アンモニアやアンモニアと水の混合流体が利用される。したがって、熱交換器に使用できる材料は、ステンレス(SUS)やチタン(Ti)などに限定される。作動流体は系内を循環するため、クローズド・サイクルと称されている。
 「ハイブリッド・サイクル」では、基本構造にクローズド・サイクルを採用し、蒸発器にいったん表層海水を導入し、そこで得られた水蒸気を高温熱源として使う。したがって、クローズ・サイクルと異なり、蒸発器の海水による汚染がなく、装置性能の低下が防げる。オープン・サイクル同様、蒸発器から排出された水は、飲料水として使えるため、淡水化技術の応用とも考えられている。(*7)
 図1に示したいずれのクローズド・サイクル方式を採用しても、温度差発電装置の稼動には、表層と深層から海水を取り込む大型のパイプを設け、汲み上げポンプを稼動させる必要がある。ポンプの稼働には電力を要し、温度差発電によって得られる電力の一部を用いることになる。そして、総延長が1km以上にもなり、海洋環境に耐え得る深層水汲み上げに用いる大口径取水管の製造やその設置方法も開発すべき技術課題となる。
 海洋温度差発電だけで採算ベースとするには、ギガワット規模での大規模な発電が必要となる。そのため、採取した表層水と深層水の有効利用が経済的採算性向上の鍵になると考えられる。


海洋温度差発電の歴史と特許
 次に、海洋温度差発電の主流となっているクローズド・サイクルに注目しながら、海洋温度差発電の歴史と特許出願を俯瞰する。

 1881年に、J. D’Arsonval氏がフランスで海洋温度差発電(OTEC)を考案した。1926年には、海洋温度差発電の実用化に向けた研究がJ. Cluade氏によってフランスで開始され、翌1927年にはフランス特許628020が成立している。同氏によって1933年に1.2kW浮体式海洋温度差発電が建造されたが、失敗に終わっている。(*8)

 1964年に、H.Anderson氏と J.H.Anderson Jr.氏の父子は、J. Cluade氏の海洋温度差発電システムを改良して、新しい海洋発電所を提案し、米国特許3312054(”Sea Water Power Plant“)を取得した。この発明が注目を浴び、海洋温度差発電の研究が再燃した。そして、1973年の第1次エネルギー・ショックを契機に日米で、本格的な海洋温度差発電の研究が開始された。(*9)

 カリーナ・サイクル(Kalina cycle)は、AlexanderI. Kalina氏がランキン・サイクルの改良法として、米国登録特許434656(優先日:1979年8月31日)を取得している。
 カリーナ・サイクルでは、作動流体に沸点の異なるアンモニア(NH3)と水(H2O)の混合物質が用いられる。これにより高濃度アンモニア系と低濃度アンモニア系の2系統をつくり出し、高濃度アンモニア系でタービンを回転させ、排気された高濃度アンモニア系を低濃度アンモニア系に凝縮・吸収させて排気側圧力を下げる。したがって、カリーナ・サイクルはランキン・サイクルよりも、熱効率は低下するが、タービン回転が高速化され、発電効率は向上する。
 作動流体にアンモニアを利用するランキン・サイクルや、カリーナ・サイクルでは、蒸発器および凝縮器に用いられる熱交換器の性能と、熱交換器の性能維持可能な材料(熱伝導性の優れた耐蝕性薄板)の選択が求められる。(*10)

 1973年には、カリーナ・サイクルの改良研究が佐賀大学上原春男氏(佐賀大学名誉教授)らにより開始され、1994年3月にウエハラ・サイクルが発表された。出願人が佐賀大学学長であるウエハラ・サイクル方式の海洋温度差発電特許から、ウエハラ・サイクルでは、カリーナ・サイクルの蒸発器と凝縮器の部分に改良が施されていることが分かる。(*11)

 米国では1974年にNatural Energy Laboratory Hawaii(NELHA)が設立され、海軍の艀に、試験用洋上海洋温度差発電所が建設された。その後、2009年に米国海軍とロッキード・マーティン(Lockheed Martin)が、5–10MW海洋温度差発電所の開発を開始した(予算額:$12.5M)。(*12)
 ロッキード・マーティンは、2013年4月16日に中国企業Reignwood Groupと海洋温度差発電所建設に関する契約に調印した。出力は10MWで、まずは試験プラントを2014年から建設するという。(*13)


海洋温度差発電の特許出願状況
 海洋温度差発電関連の特許出願状況を大まかに把握するために、特許データベースPatBaseで下記特許分類での検索を実施した。なお、PatBaseはファミリー単位で情報を収録したデータベースであり、件数はファミリーの数(発明数)となっている。

[使用特許分類]
 (IPC)F03G7/05:海洋熱エネルギの変換,すなわちOTEC
 (CPC)F03G7/05:海洋熱エネルギの変換,すなわちOTEC
 (CPC)Y02E10/34:Ocean thermal energy conversion [OTEC]


図2.特許分析結果

 海洋温度差発電に関する特許出願推移をみると、二つのピークがあることが分かる。一つ目のピークは1980年頃であり、二つ目のピークが2005年頃以降の直近にある。すなわち、1980年頃に盛んに研究開発が行なわれたものの実用化・社会普及レベルまで至らずに出願件数は減少していき、そして、近年の再生可能エネルギーへの社会的な注目の高まりによって、再度ブームが訪れている状況にあると考えられる。
 国別累積件数をみると、日本(JP)、米国(US)の出願件数が他国を圧倒しており、技術開発の中心となっていることが窺える。また、国別件数推移をみると、日本、米国、欧州(EP、FR、GB、DE)といった国・地域では第一次ブームおよび第二次ブームとも特許出願を行なってきた経緯が確認でき、古くから技術開発を意欲的に進めてきた国であると考えられる。これに対して、中国(CN)、韓国(KR)については、第一次ブームの際に出願は無く、近年になって出願件数を伸ばしている。近年の年間出願件数規模でも日本や米国と並んでおり、急激に技術開発を進めている国であると考えられる。
 出願人ランキングでは、日本企業が多く上位にランクしている。図には示していないが、2位の東芝は1980年頃の第一次ブームでまとまった出願を行なっており、直近での出願はあまり多くない。対してロッキード・マーティンは直近での出願が多く、近年になって力を入れ始めていることが窺える。
 ロッキード・マーティンについては、2008年に米国エネルギー省から120万ドル、2009年には国防省から812万ドル、さらに2010年にもエネルギー省からの助成金を得て、海洋温度差発電の要素技術開発(深層海水取水管や熱交換器など)や市場調査を実施している。(*14)

(IP総研 先端技術分析班)


(*1)  特許出願から見た洋上風力発電の現状 (前編) http://www.ngb.co.jp/ip_articles/detail/847.html
特許出願から見た洋上風力発電の現状(後編) http://www.ngb.co.jp/ip_articles/detail/863.html
(*2)  特許出願から見た波力発電と潮力発電 https://www.ngb.co.jp/ip_articles/detail/952.html
(*3) 海洋温度差発電の技術の現状とロードマップ http://www.nedo.go.jp/content/100107275.pdf
(*4) 韓国ポスコ、日本の発電会社ゼネシスを6.1億円で買収
 http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-18480420101205
(*5) <韓国経済>ポスコ・次世代資源開発に本腰
 http://www.toyo-keizai.co.jp/news/economy/2009/post_3178.php
(*6) 水資源は枯渇の危機に瀕している http://www.motoitoh.e.u-tokyo.ac.jp/zemi/5_27_shiryo/mizu_mondai_team_2009_5_25.pdf
(*7) 佐賀大学「海洋エネルギーとは」 http://www.ioes.saga-u.ac.jp/jp/about_otec_02.html
(*8) 佐賀大学「海洋温度差発電の現状とこれからの展望」 http://heat.mech.kumamoto-u.ac.jp/htsj_kyushu/ppt/23_3_No4.pdf
(*9) 佐賀大学「海洋エネルギー」https://www.jstage.jst.go.jp/article/swsj1965/45/6/45_315/_pdf
(*10) 低温排熱回収発電装置の実用化開発 http://www.rite.or.jp/results/result_reports/pdf/2005-hitachi_r.pdf
(*11) 佐賀大学の海洋温度差関連特許 http://www.ioes.saga-u.ac.jp/jp/study_patent_oldlist.html
(*12) OTEC (ocean thermal energy conversion)
 http://www.explainthatstuff.com/how-otec-works.html
(*13) Lockheed Martin And Reignwood Group To Develop Ocean Thermal Energy Conversion Power Plant
http://www.prnewswire.com/news-releases/lockheed-martin-and-reignwood-group-to-develop-ocean-thermal-energy-conversion-power-plant-203175611.html
(*14) 海洋温度差発電の現状と展望 http://www.ows-npo.org/member/backno/tokushu42forWeb.pdf
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