Special

『下町ロケット』の弁護士が語る


日本の競争力を担う知財の重要性


Special 2

鮫島 正洋 弁護士

Samejima Masahiro

直木賞を受賞し、ドラマでも話題となった池井戸潤氏の『下町ロケット』。その神谷弁護士のモデルとなった鮫島正洋氏は、特許庁の委員なども務める知財のトップランナーです。今、なぜ企業が知財に注目をしているのか。日本の競争力を高めるためには何が必要とされているのか。その中で知財がどのような役割を担っているのか。企業と知財、そして日本のこれからの行方について、今の想いを語ってもらいました。

中小・ベンチャー企業に
とっての知財

今まで中小企業は大企業の下請けとして事業を行ってきました。ところが、大企業は円高になるとインドネシアやタイなど海外に現地工場をつくり、自社の利益を確保しようとします。こうした動きに合わせて、自分たちも海外に出ていける体力を持っている中小企業は一握りに過ぎません。大企業の下請けで食べていける時代は終わったのです。
そこで、自分たちの技術で、自分たちの製品をつくり、市場へ出そうということになります。ところが、良い製品をつくれば、当然他社も追いかけてきます。自分の製品をつくるとなったとたんに、後発から自分たちの市場を守るということが必要になってくるのです。そこに知財の役割があります。
私たちは2004年から特許庁と一緒に中小企業に対して知財の啓蒙活動に取り組んできました。そうした効果もあり、最近は知財の考え方が少しずつ浸透し、意識は確実に変わってきていると実感しています。

日本の未来の鍵は
オープンイノベーション

日本の技術力はアメリカに劣っているという意見がありますが、私はそんなことはないと思っています。日本には、大学の先端的な理論的研究、大企業の量産技術、町工場の匠の技、という何層もの技術があります。そしてその全ての層について、ライフサイエンスから化学、機械、自動車、電機、IT、ソフトウェアというすべての領域をカバーしています。こんな重厚な技術ポートフォリオを保有する国は日本だけです。
日本の技術ポートフォリオを過少評価するのではなく、これらを統合して、社会的な課題を解決するための日本発のソリューションを世界に発信し、日本の競争力につなげる。それがこれからの重要な課題です。その手法の一つが産官学連携やオープンイノベーションです。
私は日本の将来には悲観的な見通しを持っているわけではありません。ただし、日本の技術が残っているうちに早くやらないといけない、つまり、スピードが鍵になると思っています。

日本の技術で
発展途上国の課題を解決

日本のマーケットは世界的に見ても最先端ですから、日本に存在する素晴らしい技術を10年後には中国や東南アジアに横展開できるはずです。経営戦略としては、そういった視点で日本のビジネスをグローバル化するという考え方があります。
それから、アフリカをはじめ発展途上国にはいろいろな課題があります。それらをマーケティングし、日本の技術で解決するという考え方を持つことも大切です。私の顧客のあるベンチャー企業では、ハンディーな超音波診断装置をつくりました。スマホに繋ぎ、スマホの電源で動くものです。アフリカの奥地には電源すらない村があります。しかし、妊婦はいます。妊婦の早期診断に、スマホとプローブで診断をし、その診断画像を都市部の病院に送るといった遠隔医療ができるのです。
こういったものを日本政府として応援し、大企業の保有する資本力、ブランドを活用すれば、アフリカ中で展開できます。これがオープンイノベーションの一例です。それができれば、世界中から尊敬を集めることができます。技術の広がりを持っている日本だからできることで、宇宙開発も再生可能エネルギーも日本は全て国産技術でできる力を持っているのです。

新しい価値観で
新しいことを始める時代に

ベンチャー企業の鉄則は、大企業と競合する領域に入ってはいけないということです。つぶされる可能性が高いからです。では、どこを選ぶのか。今、この領域なら強い特許、広い特許が取れるという目利きが、そこで必要になります。しかも、ベンチャー企業ではコスト的に特許を取れるのは1件か2件がいいところです。その2件に対して最大限の効果が得られる特許を取る。そのためのブラッシュアップをするのも知財の専門家の役割です。
NGBは、知財業界の草分け的な存在でブランドが確立されています。私が今まで話したような知財の最先端領域や国の競争力に関わるところでの提言などにも積極的に関わっていただければと期待しています。
日本は失われた10年の閉塞感をやっと脱却し、新しい価値観で新しいことを始める時代になりつつあると感じます。知財も単に特許を取るという時代から、ビジネス的に何ができるのかという戦略を考えていく時代に入っています。日本の競争力の観点からも、知財に興味を持つ若い人たちがさらに増えていってくれればと願っています。