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2025.06.06

特許部 永田 智大

【意匠ニュース】欧州意匠制度の改正、2025年5月1日~

2024年11月18日、欧州連合知的財産庁(EUIPO)は、以下の「改正規則」および「改正指令」を公表しました。
・共同体意匠に関する理事会規則(EC) No 6/2002を改正し、委員会規則(EC) No 2246/2002を廃止する欧州議会及び理事会規則(改正規則)
・意匠の法的保護に関する欧州議会及び理事会指令(改正指令)

今回の改正は、デジタル時代への適応や意匠制度の利便性の向上等を目的としています。

「改正規則」は、2024年12月8日に発効しました。「改正規則」は、以下の通り段階的に適用が開始されます。
Phase 1
2025年5月1日から一部の改正規定が適用されます。
Phase 2
2026年7月1日から追加の改正の適用が予定されています。

「改正指令」は、「改正規則」と同時に発効され、EU加盟国は、36か月以内に自国の国内法を「改正指令」に適合させる改正を行う必要があります。

本稿では、Phase 1で運用開始となる「改正規則」の変更点の一部をご紹介します。
(1) 用語の変更
これまで用いられていた共同体(Community)という用語は、以下の通り、欧州連合(European Union)、場合によっては、連合(Union)に置き換えられます。

(2) 意匠/製品の定義
意匠の定義 「意匠規則」第3条(1)
意匠の定義にアニメーションが含まれるようになりました。このアニメーションは広義の用語であり、動き(Movement)と遷移(Transition)を含みます。

製品の定義 「意匠規則」第3条(2)
製品の定義に非物理製品も含まれることが明示されました。改正後の製品の定義では、「製品とは、コンピュータプログラム以外の工業製品または手工芸品を意味し、物理的/非物理的のいずれの形態で具現化されているかは問わず…」と規定されています。

(3) 効力範囲/制限
3Dプリント製品 「意匠規則」第19条(2)(d)
意匠権の効力が、登録意匠を3Dプリントした場合にも及ぶようになりました。これにより、登録意匠を記録する媒体/ソフトウェアの作成、ダウンロード、複製、共有、または他者への配布も、意匠権の侵害に該当します。

新たな制限 「意匠規則」第20条
意匠権の効力が、以下の1. 2. の行為には及ばないことが追加されました。
1. 製品を、意匠権者の製品として識別または参照するための行為。
2. コメント、批評、またはパロディを作成する行為。

修理条項 「意匠規則」第20条a
修理条項は経過措置としてこれまで第110条に規定されていましたが、恒久的な規定として移設されました(第110条は削除されました)。修理条項は、複合製品の構成部品が、当該複合製品を元の外観に復元する修理目的で使用される場合、意匠権の効力は及ばないことを規定しています。

意匠表示 「意匠規則」第26条a
意匠権者またはその同意を得た第三者は、Dを〇で囲んだⒹを製品に意匠表示として付して、製品が意匠保護されていることを示すことができます。

(4) 出願/審査
受理官庁 「意匠規則」第35条(1)
加盟国官庁を通じて出願することができなくなり、今後全ての欧州出願は、欧州連合知的財産庁(EUIPO)へ直接出願することになります。

出願日の認定 「意匠規則」第35条(4)および第38条
出願費用の納付が出願日認定の要件となりました。出願人は、出願後1か月以内に出願費用を納付する必要があります。

実物見本
実物見本の提出が受け入れられなくなりました。

マルチプル意匠出願 「意匠規則」第37条
マルチプル意匠出願に含まれる意匠は、同一ロカルノ意匠大分類に属する必要がありましたが、これが緩和され、分類に関係なく50意匠までを一のマルチプル意匠出願に含めることができるようになりました。

公告延期 「意匠規則」第50条(5)
これまでは、公告費用を納付するまで意匠が公告されませんでした。今回の改正により、公告費用が出願時に納付が必要な出願費用に組み込まれましたので、今後、もし最終的に公告を望まない場合には、公告日までに放棄申請を行う必要があります。

(5) 料金
以下の通り料金が改訂されました。

(出典:EUIPO規則改正サマリー)

(6) まとめ
マルチプル意匠出願の要件緩和によって、今後は、分類に関係なく全ての意匠をマルチプル意匠出願に含めることができますので、これまでよりもよりマルチプル出願の活用による出願費用削減のメリットを受けられるケースが増えると思われます。
また、製品の定義に非物理的な対象物が含まれることが明示されましたので、今後はNFT化された仮想オブジェクトや仮想空間環境に関する出願がより増加する可能性が考えられます。
2026年7月1日から追加の改正の運用も予定されていますので、弊社では引き続き情報収集を継続してまいります。
欧州意匠出願をご検討の場合は、ぜひお気軽にご相談ください。

(参考文献)
EUIPO, Design Reform
https://www.euipo.europa.eu/en/designs/design-reform-hub

EUIPO, Design Reform, Terminology and structural changes Phase I
https://www.euipo.europa.eu/en/designs/design-reform-hub/terminology-procedural-changes

EUIPO, EU DESIGNS LEGISLATIVE REFORM, Changes applying from the first day of the month following 4 months after the entry into force of the Amending Regulation (Phase I)
https://euipo.europa.eu/tunnel-web/secure/webdav/guest/document_library/contentPdfs/designs/design_legal_reform/Summary%20Designs%20LR_I%20Phase.FINAL_EN.pdf

特許部 永田智大
日本技術貿易(現NGB)株式会社に入社後、意匠分野を専門として精力的に活躍。外国意匠実務についての知見を、「3分で分かる外国意匠実務」シリーズを通じて積極的に情報発信し、分かりやすい解説と実践的なアドバイスが高い評価を得ている。実務においても、多様な視点を取り入れた提案によって、国外の意匠権取得に貢献している。また、海外出張経験も豊富で、昨年(2024年)にはUSPTO主催の意匠イベント「Design Day」に参加するなど、グローバルに活動している。

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