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2006.03.09

野崎篤志

【Cases & Trends】速報:米最高裁判決-抱合せ販売/特許による市場支配力の推定

特許対象製品(プリントヘッド)の販売やライセンス供与に際し、非特許製品(インク)の購入を条件づける行為への反トラスト法適用、とりわけ、特許による市場支配力(マーケット・パワー)の推定の適否について争っていた米連邦最高裁の判決が、去る3月1日に下されました。

全判事一致の判決において最高裁は、特許の存在により市場支配力が推定されることはない、としてCAFC判決を破棄したのです(Illinois Tool Works, Inc. et al. v. Independent Ink, Inc., US Sup.Ct., 3/1/2006)。以下、注目されていた本最高裁判決の概要を速報いたします。

事件概要

被告/上告請求人Illinois Tool Works(ITW)は、子会社である被告Trident, Inc.(トライデント)を通じて、トライデント保有の特許対象インクジェット・プリンタヘッド、特許対象インク容器および同プリントヘッド・システム用に作られた非特許対象インクを製造している。

訴外プリンタ・メーカー(OEM)は、トライデントのプリントヘッド・システムをプリンタに組み込んで販売している。トライデントは、特許対象プリントヘッドをOEMに供給する条件として、トライデントが供給するインクのみを使用することを要求し、あるいはOEMまたはエンド・ユーザーがトライデントのインク容器にインクを再充填することを禁ずるライセンス契約を締結している。原告/被上告請求人Independent Ink, Inc.(「インディペンデント」)は、トライデントと競合するインク・メーカーであり、トライデントのプリントヘッドに使用可能なインクを製造している。

1998年8月14日、インディペンデントは、トライデントの特許(5,343,226号)を無効、非侵害とする確認判決を請求するとともに、トライデントが違法な抱き合わせを行っているとしてシャーマン法第1条違反を主張し、カリフォルニア中部地区連邦地裁に訴えを提起した。その後、両当事者は反トラスト法争点(シャーマン法第1条違反)について略式判決申立てを提出。地裁は、以下の理由を述べ、トライデント勝訴の略式判決を下した。

「特許による抱き合わせに対し反トラスト法違反が認められるためには、”市場支配力(market power)” についての積極的な証明がなされなければならない。インディペンデントは、本件における ”関連市場(relevant market)” を定義づける積極的証拠も、関連市場におけるトライデントの支配力に関する積極証拠も提出していない」インディペンデントはこれを不服として、CAFCへ控訴(他の請求事項についてはすべて和解した)。

CAFCは、「他の抱き合わせ事件と異なり、特許と著作権による抱き合わせケースにおいては、市場支配力の積極的な証明を必要としないことを最高裁の一連の判例が明らかにしている。特にInternational Salt事件とLoew事件は、シャーマン法第1条違反の成立に必要な市場支配力が推定されることを明確にした」と述べ、シャーマン法第1条について原判決を破棄・差し戻しとする判決を下した。

最高裁判決の骨子

A. 最高裁のシャーマン法第1条関連判例によれば、抱き合わせ取り決めが「当然(perse)違法」と判断されるのは、被告が抱き合わせをする製品(tying product: 本件の場合「特許対象プリントヘッド」)の市場において強制的経済力(coercive economic power)を有しており、その力を利用して、抱き合わせをされる製品(tied product: 本件の場合「非特許対象インク」)の市場における競争を阻害している場合に限定される。例えば、Eastman Kodak Co. v. Image Technical Servs., Inc., 504 U.S. 451, 462(1992); Jefferson Parish Hosp. Dist. No.2 v. Hyde, 466 U.S. 2, 12-18 (1984)参照。原審(CAFC)が、特許により市場支配力がもたらされるという推定を採用したことは、これら最高裁判例の趣旨に沿うものでなく、「当然(perse)」ルールは、常に反競争的効果をもたらす行為にのみ適用されるとする最高裁の判示に反するものである。

B. 被告が特許を保有しているという事実のみから、市場支配力を推定する経済的根拠が存在するとはいえない。学者、法執行機関、議会を含む反トラスト法関係者もこの見解を支持する。確かに特許は競争からの実質的保護を提供するものではあるが、相当の市場支配力を付与するような特許の割合は極めて少ないのが現実だ。このような僅かな割合では、抱き合わせ製品が特許対象であれば常に市場支配力が推定されるというだけの根拠とはなり得ない。むしろ裁判所は、「当然違法」のルールを発動する前に、抱き合わせ製品が特許対象であるか否かに拘わらず、関連市場の現実を常に注意深く検討する必要がある。確かに特許の存在は、市場支配力の問題と関連性をもっており、事実特許権者がかかる支配力を有する場合もある。しかしながら、裁判所は各事件において争点となっている市場に固有の証拠を検討しなければならない。

C. 最高裁判例を根拠に特許による市場支配力が推定される、とした原審(CAFC)は誤りである・・・。

D. 原審(CAFC)は、最高裁判例を誤解して、特許による市場支配力の推定が要求されるものと判断したがゆえに、かかる推定と反トラスト法の競争促進政策とのミスマッチについて、意識はしたものの検討はしなかった。推定とはあくまで変則的な法律上の便法であり、根拠のない反トラスト訴訟を誘発すると同時に、イノベーションと効率的取引慣行を阻害することになりかねない。これらを考慮すれば、推定は認められるべきでないと結論できる。 

【最高裁注】 本件は特許対象製品にのみ関する。しかし、市場支配力の推定は被告が抱き合わせ製品に著作権を有している場合にも同様に適用されるとしたCAFCの示唆には根拠がないといわねばならない。著作権により付与される保護(アイディアの独創的な表現にのみ及ぶものであり、アイディア自体には及ばない)がより限定的なものであり、かつ理論上も実際上も、著作物が市場支配力を有することがほとんど考えられないことである以上、著作権対象製品に対し市場支配力の推定を及ぼすことは、さらに根拠の希薄なものとなる・・・。

(渉外部・飯野)

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