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2007.09.01

【アジア・東欧プロジェクト】 第8回:ロシア特許庁・ユーラシア特許庁訪問記

NGBでは2006年秋より「第3次アジア東欧プロジェクト」が進行中です。本コーナーでは各国の訪問が順次済み次第、成果の一部をご報告していきます。
第3次アジア・東欧プロジェクト第4ワーキンググループは、2007年6月2日から10日にかけて、ロシアの首都モスクワおよび第2の都市サンクトペテルブルグを訪れ、両都市の特許法律事務所およびモスクワのロシア特許庁(ROSPATENT)およびユーラシア特許庁(EAPO)を訪問した。

我々が訪問した6月上旬のロシアは白夜シーズンに入っており、日没は午後10:30~11:00頃。午後9:00を過ぎても赤の広場周辺を観光できる明るさだった。日中の最高気温は連日35度近くと高く、ただでさえ東洋人が少ない街中で、背広を着て歩く我々は、周囲の視線を引く浮いた存在であった。

ロシアの面積は約1700万km2(日本の約45倍)、人口は約1億4200万人、モスクワおよびサンクトペテルブルクの人口はそれぞれ、およそ1000万人強および500万人弱である(2007年3月時点)。 ロシア経済は1998年の金融危機後、資源価格の上昇やルーブルの大幅切下げなどから好転し、2006年まで7年連続のプラス成長を遂げている。好調な資源輸出を背景とする消費・投資等内需の拡大が成長を牽引している(2006年の実質GDP成長率は6.7%)。 国際競争力の強い資源採取部門と他の製造業との間には依然として大きい格差が存在しているものの、日本の主要自動車メーカーが相次ぎ現地生産工場の建設予定を発表していることからも窺えるように、産業構造に変化の兆しが見られる。2006年の日露間の貿易高は130億ドルを突破し(過去最高)、2007年も大幅増の見込みであり、2006年の日本の対露直接投資は186億円で、2004年(54億円)の約3倍強となっている。

1.ロシア特許庁(ROSPATENT)

1991年のソビエト連邦崩壊後、1992年にソ連特許庁(GOSPATENT)が業務を停止し、これをロシアがロシア特許庁(ROSPATENT)として引き継いだ。赤の広場を中心に広がるモスクワの街の南西やや郊外に位置する。

JETROの協力の下、国際協力部部長Mr. Mikhail Yu. Faleev、知的財産権法律保護管理部部長Ms. Liubov. L. Kiriyをはじめ、Rospatent付属連邦工業所有権研究所、管理・法律課上級研究員や同課長など計7名と面談を行った。国際協力部部長による紹介の後、主に知的財産権法律保護管理部部長からロシア知財制度の現状、審査体制の現状、今後の計画、等について説明を受けた。

現行の特許法や商標法などの知財関連法は特別法と位置付けられているが、知的財産権保護強化の目的で、これらの特別法を民法典第4部に組み込む改正が2008年1月1日に施行される予定である。この改正内容に対しては、ロシアのWTO加盟に関する会談の席上を含め、国外からの意見が寄せられており、それらを注意深く分析し、相互理解に向けて努めているとのことであった。

2006年の特許出願数は、およそ37000件。そのうち、外国からの出願数は9807件であり、出願数が多い順にアメリカ(2448件)、ドイツ(1482件)、日本(748件)、韓国(618件)、と続く。尚、出願数の対前年伸び率では、日本(147%)は他の上位国(概ね100~120%)に比べ、突出している。

特許出願を取り扱う審査官の数はおよそ600人。特許セクションは化学局、物理局、機械局などから成り、審査官は1ヶ月に15件ほどの審査を行っている。審査官の中には、審査/調査ツールの扱いに不慣れで古い方法(紙ベース)を踏襲している者が依然として多いとのことである。予想される出願増に対応するためには、審査官数を単に増やすだけではなく審査効率の向上が必要であるとの認識の下、調査専門のサポーターによる支援・教育体制が取られている。

また、2010年までの戦略的発展計画として、法制度の改善、教育問題(審査官教育、発明家増加を目的とした知財基礎知識についての市民啓蒙など)、庁内業務の自動化/電子化など各側面について、実現に向けた具体的対応策を練っているとのことであった。

2.ユーラシア特許庁(EAPO)

ユーラシア特許庁はモスクワ北部郊外に位置する。我々が訪問した庁舎は仮庁舎であり、本庁舎は改装中であった(予定より工事が遅れており、完了時期が定かでないとのこと)。

国際関係部部長(Mr. Taliansky)、審査部部長(Ms. Kryukova)、自動化部部長(Dr. Eminov)および同副部長(Mr. Kondrat)と面談を行い、設立当初の背景や現在の取り組みについて説明を受けた。

1991年12月のソ連崩壊に伴い、独立した各国はそれぞれ独自の知財保護制度と特許庁を整備する必要に迫られた。旧ソ連特許庁(GOSPATENT)を手に入れてロシア特許庁(ROSPATENT)として引き継いだロシアや既に独立していたバルト三国を除く、多数の旧ソ連諸国にとって独自の制度整備や運用は困難であった。このような理由により1994年9月に広域特許条約としてユーラシア特許条約(EAPC)が作成され、1995年8月12日に発効し、モスクワにユーラシア特許庁(EAPO)が設立された。1996年1月1日より運用が開始され、加盟国は旧ソビエト連邦を構成していた15カ国のうち、次の9カ国である:アルメニア(AM)、アゼルバイジャン(AZ)、ベラルーシ(BY)、モルドバ(MD)、カザフスタン(KZ)、キルギスタン(KG)、タジキスタン(TJ)、ロシア(RU)、トルクメニスタン(TM)。ちなみに旧ソ連を構成した15カ国のうち、バルト3国(ラトビア、リトアニア、エストニア)はEPCに加盟しているが、ウクライナ、グルジア、ウズベキスタンはEPCにもEAPCにも未加盟である。

ユーラシア特許庁のスタッフは総勢約100名であり、そのうち審査部は約40名(方式審査部6人、化学/医薬部14人、機械部3人、物理/電気部6人、登録部5人、技師5人)。審査官となるためには少なくともロシア語と英語が堪能であることが条件として課されている。

ユーラシア特許庁が特に強調していたのが、総合的パフォーマンスの改善を目的としたオートメーション・ネットワーク技術の開発および情報活動に対する取り組みである。これらの技術開発や情報活動を自動化部、調査情報システム部、データウェア部が担当している。この一環として、ごく少数の特許事務所との間で電子出願のパイロットプログラムが2006年8月より試行されている。また、多数の特許庁からの特許情報(日本;旧ソ連;ウクライナやウズベキスタンなどの非加盟国の情報も含む)を揃えた独自の調査システム(EAPATIS)を構築しており、その利用を庁外にも解放している(有料)。このシステムを「世界への1つの窓」と自負していた。今回面談を行った会議室の1壁面全面には各国から入手したCDやDVDが整然と収納されていた。

3.ロシア出願orユーラシア出願の選択

今回訪問した特許事務所の意見では、審査手続きの迅速さ、審査官の若さや思考の柔軟性、庁指令に対する対応のしやすさ等の点でユーラシア出願の利点を示す向きが多かった。これら意見を鑑みると、早期権利化を目指す場合にはユーラシア出願を選択するメリットがあると考えられる(一方、ユーラシア特許制度はUser-Friendlyを謳っており手続き延長期限に制限を設けていないという特長もある)。ただ、ユーラシア出願の年間出願件数が2003年(1330件)から2006年(2293件)にかけて急速に伸びてきており、ユーラシア特許庁が変化に追随できるかという点が注目される。

また、費用面で考えると、ロシア1カ国のみでの権利化を想定した場合には、(明細書ページ数やクレームの数にもよるが)ユーラシア出願の方が高くなる傾向にある。権利化想定国が多ければ多いほど、各国別権利化に比べ、単一言語および単一審査によるユーラシア特許出願は割安となる。ユーラシア特許出願では、特許登録後の年金支払いにより権利保護必要国を選択する。2006年の年金支払い状況を出願人国別で見ると、第1年次年金を支払った案件数が一番多いのは米国(224件)で、その平均権利化指定国数は6.34カ国とロシア以外の加盟国でも幅広く権利化が為されている。これと比較して、日本の場合は、第1次年金が支払われた案件数は15件とまだまだ少なく、平均権利化指定国数も2.20(大多数はロシアのみで権利化)と主要欧州諸国よりも低い(DE (3.95), NL (4.44), FR (5.45), GB (5.84), IT (6.26))。2006年の第2年次以降の年金支払いについても同様の傾向が見られる。現時点におけるこれらの傾向は、地理的理由や対象技術分野の違いなどにも大きく起因するものと思われるが、将来起こりうる産業構造の変化や流通形態の変化なども踏まえて、ロシア以外のCIS諸国での権利化の必要性を検討することが得策と考えられる。

※今回のNGBの訪問は、ロシア特許庁ウェブサイトおよびユーラシア特許庁ウェブサイトにもニュースリリースとして掲載されていますので、併せてご覧下さい(英訳)。

(特許部 竹中)

(NGBウェブマガジン2007年9月号掲載記事より)

ロシア特許庁
ロシア特許庁職員との会談風景
ユーラシア特許庁
ユーラシア特許庁職員との会談風景

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