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2014.06.23

【ASEANプロジェクト2014】 [ 1 ] シンガポール、フィリピン、ミャンマー 訪問記(前篇)

NGBでは、お客様の関心が高まる東南アジア諸国の知財情報をアップデートするため、ASEANプロジェクト2014を立ち上げました。各部実務スタッフ総勢19名が訪問団を結成、5つのチームに分かれて各加盟国をまわっています。表題の3ヶ国には、外国特許出願実務スタッフ(中辻、加藤、森田)が「早期権利化」をテーマに携え、5月11日~ 5月18日にかけて訪問して参りました。まずは “アジアのIPハブ” を目指すシンガポールの事情からご報告します。

[シンガポール]
シンガポールはイギリス連邦の加盟国で、英語、マレー語、マンダリン(標準中国語)、タミル語が公用語。シンガポール・チャンギ空港はハブ空港として有名で、2年連続でWorld Best Ariportを受賞している。施設だけでなく職員の対応も気持ちよく、東南アジアの空港とは思えない快適さだ。

空港から市街地までは空港バスまたは地下鉄で約20分程度。地下鉄に乗るには紙のICカードを購入してチャージする。タクシーはメーター制で、乗車賃は日本と同じくらい。道路には日本のETCと似たERPと呼ばれるシステムが設置してあり、交通渋滞を解消するために制限地域を通る車は課金される。そのおかげか、交通渋滞は全くない。このように社会インフラは非常に充実しており、水道水を飲んでも問題はなく、外国に来たことを意識せずに生活できそうな環境であった。ただ、トイレに温水洗浄便座は普及しておらず、訪問中は一台も見かけることはなかった

シンガポールでは、2014年2月14日に特許法の改正があり、本プロジェクトではテーマの1つとしてこの度の法改正について調査してきた。

シンガポール特許法の旧法から新法への主な変更点は2つあるが、1点目はダブルトラック制度からシングルトラック制度への移行である。旧法ではFast TrackとSlow Trackと呼ばれる2つのトラックがあり、各トラックの中で審査請求の種類に応じた審査請求期限が定められていた。この2つのトラックについてお客様からよく問い合わせを受けており、シンガポールの特許制度の分かりにくい点であった。新法ではトラックが1つになり、シンプルになった。ただ、審査請求期限が旧法のSlow Trackよりも少しだけ短くなっている。

変更点の2点目はSelf-assessment system(旧法)からPositive-grant system(新法)への移行。シンガポールには修正審査制度があり、例えば日本の審査結果を用いてシンガポールで特許を取得することが出来る。Self-assessment system(旧法)の下では他国の審査結果がネガティブなものであっても特許を取得することが可能であったが、Positive-grant system(新法)では他国の審査結果がポジティブであることが求められるようになった。

これまでシンガポール特許庁(IPOS)は自前で審査を行って来なかった。審査請求時にシンガポール特許庁での審査が選択されると、ハンガリー、オーストリア、デンマークの特許庁に委託していた。シンガポール特許庁の話では、現在は42名の審査官を採用しており、さらに増員して自国特許庁ですべての審査を行う体制を整えてゆくとのこと。現地代理人によると、特許権を担保に銀行から融資を受けられる制度が政府主導で作られたようで、シンガポール政府の特許制度改革に対する意気込みを感じる。

シンガポール特許庁はアジアのIPハブを目指しているとのことで、ASPECやPPHの利用を推奨している。ASPECはASEAN加盟国間で審査情報を共有することができる制度。シンガポールで認可になった出願に基づきASPECを申請した結果、申請から6-7ヶ月でベトナムとタイで指令書が発行され認可状態になったとの実例を挙げて、シンガポールに出願すればASEAN加盟国で早期権利化できる可能性があることをシンガポール特許庁の方は強調していた。審査が特に遅いタイに出願する場合、同時にシンガポールにも出願しておき、日本での認可通知を用いてシンガポールで登録し、そこからタイにASPECを申請するというルートでタイの審査を早くすることができればかなり有効だ。シンガポール特許庁の思惑どおり行けば、シンガポールは正しくアジアのIPハブとなり、同国への出願は増えてゆくのかもしれない。

[特許第1部 加藤慎也 (シンガポール記事担当)]

=>後篇に続く

チャンギ空港の清掃員評価ボード
地下鉄の車内
IPOSの職員と
現地代理人事務所にて

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