IP NEWS知財ニュース

  • 知財情報
  • アーカイブ

2015.12.21

米国研修レポート2015/101. Myriad最高裁判決の実務的影響の変化

米国研修レポート2015/10 vol.1 ~研修を終えての感想・成果をご紹介~
NGB特許部では毎年若手部員の米国研修を実施しています。それぞれの仕事上の立場から米国の最新トピックや一般的実務をテーマに、複数の特許事務所を訪問してディスカッションするということを行っています。本年2015年は、10月19日から23日の日程でワシントンD.C.とその近郊の特許事務所を訪問しました。

今回、ディスカッションをしたテーマの中から、以下のものをご紹介いたします。

・vol.1: Myriad最高裁判決の実務的影響の変化(本記事)
vol.2: 米国におけるプロダクト・バイ・プロセスクレームの実務
vol.3: Post Allowance Reviewについて

Myriad最高裁判決の実務的影響の変化
近年の特許適格性に関する連邦最高裁判所の判断(Alice, Myriad, Mayo)を受け、米国特許庁は2014年3月に特許適格性の審査手続きに関するガイダンスを発行しました。このガイダンスに基づく審査により、米国における特許適格性に関する実務は大きく変化しました。昨年の米国研修では、Myriad及びAlice最高裁判決の実務的影響に関して米国代理人への聞き取り調査を行っていました。
->米国研修レポート2014-1
->米国研修レポート2014-2
その後、2014年12月に新たなガイダンスが発行され、2015年7月にはこのガイダンスのアップデートがありました。また、この期間、審査官に対するトレーニングも進められました。

このような背景のもと、今回の研修では、Myriad最高裁判決に関連する自然産物(Nature-based product)の特許適格性を中心に、この1年の実務上の変化について聞き取りを行いました。

多くの米国代理人は、特許適格性に関する審査官の判断はこの1年で変化しているという印象を持っていました。これは2014年12月に発行された特許適格性に関する暫定的ガイダンス(2014 Interim Guidance on Subject Mater Eligibility)に拠るところが大きいという意見が大勢でした。2014年3月に出されたガイダンスでは特許適格性を判断する指針として判断フローと実例が示されていました。これに対し、2014年12月のガイダンスでは、この判断フローに一部修正が加えられました。新たな判断フローにおいては、物が天然物と著しく異なる(markedly different)であるかどうかの判断において、その物の性質全体を考慮して判断されることとなりました。また、事例も追加されており、自然産物に関しては、10の具体的な事例が含まれています。事例が増えたことにより判断基準がより明確化されたとも言えます。事例においては、天然に存在する状態と比較して物理的形態/形状が異なる場合には、その物は特許適格性を有することが明確化されました。そのため、2014年12月のガイダンス発行の前後で審査官による特許適格性の判断が翻ったという実例もありました。

特に影響があったのは、複数の天然物のみを含む組成物に関する判断についてです。2014年3月のガイダンスでは、そのような組成物は他に非天然物を含まない限り特許適格性は無いと判断されていました。これは、天然物の組み合わせが実際に天然に生じているか、あるいはその組み合わせにより新たな機能や性質が生み出されているか否かに関わらず特許適格性は無いという判断でした。一方、2014年12月のガイダンスにおいては、天然物のみを含む組成物であったとしても、組成物の全体として最も近い天然の対応物と比較して著しく異なるかどうかが判断されることとなりました。これは自然産物の事例において天然物とこれに加えられた保存剤を含む組成物の場合を用いて示されています。すなわち、保存剤が天然物であるか非天然物であるかに関わらず、その保存剤によって物が天然物自体よりも長く保存されるのであれば、その性質により天然物と著しく異なると判断され、特許適格性があるとの判断が示されています。

上述しましたように、この2014年12月のガイダンスは2015年7月にアップデートがなされ、さらに事例が追加されています。また、2015年11月には特許適格性に関する判例のインデックスが公開され参照が容易になりました。代理人の印象では、ガイダンスのアップデートによる明確化と審査官に対するトレーニングにより、審査官の判断は均一化されつつあるとのことでした。また特許適格性に関する判断の予測可能性が高まり、一方、特許適格性がないと判断された場合も以前に比べれば反論が容易になっているとのことでした。現在のガイダンスも暫定的なものであるため、今後も動向が注目されます。

US研修チーム2015
(記事担当:特許第2部 平林)

関連記事

お役立ち資料
メールマガジン