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2015.12.21

米国研修レポート2015/102. 米国におけるプロダクト・バイ・プロセスクレームの実務

米国研修レポート2015/10 vol.2
vol. 1(Myriad最高裁判決の実務的影響の変化)に引き続き、ご紹介します。

vol.1: Myriad最高裁判決の実務的影響の変化
・vol.2: 米国におけるプロダクト・バイ・プロセスクレームの実務(本記事)
vol.3: Post Allowance Reviewについて

米国におけるプロダクト・バイ・プロセスクレームの実務

今年、日本の知財分野にインパクトを与えたトピックの一つとして、プロダクト・バイ・プロセス(PBP)クレームに関する最高裁判決が挙げられます。この判決により、日本では、物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在しない限り、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲に製造方法が記載されていると、明確性要件違反と判断されるようになりました。

これに対し米国では、PBPクレームそのものは認められています。ただし、審査段階においてはクレーム中に記載の製造方法により限定されない物同一説により解釈される一方、侵害訴訟においてはクレーム中に記載の製造方法により限定される製法限定説により解釈されます。そのため、審査段階では先行技術の範囲が広がり新規性や非自明性に対するハードルが高くなるとともに、侵害訴訟の場面では、被疑侵害品に対する製造方法の同一性まで要求されることになり、出願人・特許権者にとってはやや使いにくいものとなっています。

ところで、日本から米国に特許を出願する場合には、日本出願を基礎出願として、パリルートで出願するかPCTルートで米国に移行することが一般的です。そのため、今までなら基礎出願のPBPクレームに対応させて米国出願にもPBPクレームを含めていたであろう案件においても、今後は基礎出願にはPBPクレームを含めない実務が主流になることが予想されますので、それに伴い米国出願にもPBPクレームが含まれなくなる可能性が高まります。

そこで、今回訪問した各事務所に対し、米国においてPBPクレームを作成するメリットを確認しつつ、基礎出願にPBPクレームが含まれていない案件に基づいて米国に出願する場合に、PBPクレームをあえて追加する価値があるかどうかを尋ねてみました。

研修の出発前に予想したとおり、いくつかの事務所からは、上記したPBPクレームの使い勝手の悪さから、PBPクレームを作成するメリットは何らなく不要であるとの回答がありました。このようにPBPクレームの作成に否定的であった事務所の中には、各国の法制度の違いに鑑みて、PCT出願にPBPクレームを含めることはよいと思うが、米国に移行する際にはむしろPBPクレームを自発補正で積極的に削除すべきであるとの意見もありました。

しかしながら、意外にも半数以上の事務所がPBPクレームに肯定的な回答を示しました。

その理由として一番多かったのは、登録後に特許の無効を申立てられた場合に、クレームのカテゴリーが多いほど何れかのクレームが残る可能性が高くなる、つまり、発明を多角的にとらえてクレームアップするという原則に基づくべきとの意見でした。特に、米国特許法改正(AIA)で導入された当事者系再審査(IPR)の申立て件数が増加していますが、プロダクトクレームや製法クレームに加え、PBPクレームを記載しておくことにより、全てのクレームが無効となる可能性を低減できるのみならず、IPRの申立てに対する抑止力も期待できる可能性があるとのことでした。

別の理由として、特許された方法により製造された製品の輸入に関する米国特許法271条(g)への対応策としてPBPクレームを作成しておくべきとの意見が挙げられました。米国特許法271条(g)には、米国で特許を受けている方法を用いて製造された物を、何ら権限なく米国に輸入する行為が侵害行為に該当すると規定されていますが、この条文には、当該方法によって製造されたものとみなされなくなる2つの例外も規定されています。したがって、特許クレームが方法クレームのみであった場合には、271条(g)の適用例外に該当すると判断され何ら救済措置が認められなくなる可能性が生じるが、特許クレームにPBPクレームが含まれていれば、別の条文(例えば米国特許法271条(a))で相手方の侵害が認定され、救済措置が認められるかもしれないとのことでした。

そのほか、PBPクレームの作成に肯定的な事務所では、コストとの兼ね合いもあるため、全件一律にPBPクレームを作成するのではなく、あくまでもUSPTOに対するクレーム超過費用が発生しない場合のみPBPクレームを追加したらよいのではないかとの意見もありました。

なお、PBPクレームを米国出願に追加する場合には、Restrictionが発せられる可能性を低減するために、自発補正やバイパス継続出願を用いて審査開始前に予め追加したほうがよいとのアドバイスも挙げられました。

また、Alice Corporation Pty. Ltd. v. CLS Bank International裁判における2014年6月の米国最高裁判所の判決以降、USPTOの審判部において、ソフトウエア関連発明に係る特許が無効と判断される割合が増加していますが、PBPクレームに関しても今後事後的に無効と判断されることが起こり得るか尋ねてみました。その結果、いずれの事務所も、将来的なことなので確実なことは言えないと前置きしつつ、ここ数年のPBPクレームの解釈に関するトレンドがPBPクレームを否定的に、すなわち狭く解釈する方向には進んでいないため、当面は無効となる可能性は低いのではないかとの見解を示していました。

各事務所を訪問するまでは、PBPクレームは百害あって一利なしとのイメージがあり、PBPクレームを必要と考えている事務所はほとんどないのではないかと予想していましたが、実際には半数以上の事務所がPBPクレームの有用性を挙げていました。物のクレームや方法クレームに加えPBPクレームを新たに作成すれば、それに応じて国内代理人やや米国代理人の費用が増加し、場合によっては庁費用も増加することになります。しかし、その発明の価値が、費用の増加分に見合ったものであるならば、PBPクレームをあえて作成する価値があるのではないか、PBPクレームを全否定するよりもオプションの一つとして残しておいてもよいのではないか、というのが私の所感です。

US研修チーム2015
(記事担当:花坂)

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