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2019.04.22

【Cases & Trends】 米中貿易摩擦がもたらした(?)中国知財・投資関連法規の改正

米中貿易摩擦の影響や今後の展望をめぐり一般メディアの報道が続く3月後半、知的財産関係者にとって見逃すことのできない中国の動きが伝わってきました。日米欧すべての対中貿易パートナーにとっての「朗報」です。

「外商投資法」制定
2019.3.15 中国全人代において成立 2020. 1.1施行予定
— 同法第22条において「外資企業の知的財産権を保護し…、権利侵害に対しては厳格に責任を追及する」とともに、「…行政手段により技術移転を強制してはならない」旨を規定した。

「技術輸出入管理条例」改正
2019.3.18 国務院決定を経て公布、即日施行
以下の旨の各条項を削除
1) 国内ライセンシー*の第三者権利侵害に対し外国ライセンサーが責任を負う(第24条3項)
  *技術移転、ライセンスいずれも含まれる。
2) 技術改良の成果はすべて改良をした当事者に帰属する(第27条)
3) 技術輸入契約に、…(抱き合わせ他)制限的条項を含めてはならない(第29条)

「中外合弁企業法実施条例」改正
2019.3.18 国務院決定を経て2019.3.18 公布、即日施行
以下の各条項を削除
1) 合弁企業と外国出資者間の技術移転契約は一般に10年を超えてはならない(第43条3項)
2) 技術移転契約の満了後も技術輸入側(合弁企業)は当該技術を継続使用できる(第43条4項)

強制的な技術移転(forced technology transfer)、技術移転・ライセンス契約や合弁事業における外国技術移転者/ライセンサーに不利な条件… これらはいずれも、2018年の対中国制裁関税の根拠となったUSTR(米通商代表部)「通商法301条調査報告書」で指摘されたものです。

[米USTRの301条報告書]
ここで、2018.3.22に公表された301条報告の関連部分を振り返ってみます。
———————————
USTR 「通商法301条報告書」
– 技術移転、知的財産およびイノベーションに関連した中国の行為、政策および慣行に関する、1974年通商法第301条に基づく調査による認定事項

米国企業に対する不合理または差別的な中国政府の行為や慣行
1. 不公正な技術移転の制度・慣行
2. 差別的なライセンシング制限
3. 対外投資の制度・慣行
4. 不正なサイバー攻撃
————————————
「米国企業に対する不合理または差別的中国政府の行為や慣行」として上記4項目が指摘されたわけですが、1.と2.について、より詳細をみてみます。

1. 不公正な技術移転の制度・慣行
「国内市場へのアクセスと引き換えに、中国政府が直接的に、または合弁相手の中国企業からの要求という形をとって、海外企業に技術移転を強要している」

例) 新エネルギー車(NEV)規制
米企業は中国企業との合弁形態でないと中国市場に参入できない(外国企業の出資比率は50%以下)。
この合弁会社を通じて様々な技術移転の強制やプレッシャーがかけられる。(中国政府は2022年までに出資上限の撤廃を表明)

2. 差別的なライセンシング制限
「技術移転契約において、重い責任を外国の権利者に課す各種法規が存在する。いずれも、中国国内企業同士の技術移転に適用される契約法より厳しい規制を課している」

1)技術輸出入管理条例
 ・ライセンシーの第三者権利侵害に対するライセンサーの補償義務(第24条3項)
 ・技術改良の成果はすべて改良をした当事者に帰属する(第27条)
 ・ライセンシーによる対象技術の改良禁止を契約に含めてはいけない(第29条)

2)中外合弁企業法実施条例
 ・合弁企業と外国出資者間の技術移転契約は一般に10年を超えてはならない(第43条3項)
 ・技術移転契約の満了後も技術輸入側(合弁企業)は当該技術を継続使用できる(第43条4項)

冒頭に書いた中国法規の制定や改正が、まさにこれらに対応していることがわかります。
とりわけ技術輸出入管理条例の問題条項は、強行規定という性質のため外国当事者にとって回避不能であり、米国のみならず、日米欧すべての企業・政府から長きにわたり撤廃要請が出されていました(米欧はWTO提訴もしています)。 これが文字通り削除されたわけですから、「『技術移転の強要をしてはいけない』というスローガン的規定のみで実効性が疑わしい外商投資法と比べ、大きな進歩」という声も米欧専門家から出ています。

[より重要になる契約ドラフティング]
ただし、権利侵害に対するライセンサー/譲渡人の責任条項(第24条3項)が削除されたからといって、何もしないままでは、中国契約法に基づき同様の責任を負うことになりそうです。「契約法」の下でも、依然デフォルトは「侵害責任は譲渡人/ライセンサー側が負う」なのです。しかし、「契約法」ではこれを強行規定とはしておらず、当事者間で別途契約すればそちらが優先されます。
その意味で、削除された他の条項についても、他の関連法規がどのような内容をもって関わってくるのかを正確に理解し、正しい契約ドラフティングをすることがこれまで以上に重要になってくると思います。
「他の関連法規がどのような内容をもって関わってくるのか」については、弊社顧問 張華威中国弁護士の別掲・解説「中国:技術輸出入管理条例の改正を発表~外国企業の負担が緩和」を是非ご一読ください。           

(営業推進部 飯野)

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