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2020.07.16

【特許・意匠ニュース】米国、特許期間調整(Patent Term Adjustment)の規定を変更

 2020年6月16日、米国特許商標庁(USPTO)は、特許期間調整(Patent Term Adjustment、以下、”PTA”)の計算方法に関する規則の変更を公表しました。この変更は、2000年5月29日以降に出願され、かつ、認可通知が2020年7月16日以降に郵送される特許に適用されます。

 PTA期間は、「USPTOに起因する審査遅延の日数」から、「出願人に起因する審査遅延の日数」を控除することで計算されます。従来の「出願人に起因する審査遅延の日数」の計算方法に関する規定(37 CFR §1.704(c))では、「出願人に起因する審査遅延の日数」が、出願人が審理を終結させるための合理的な努力をしなかった期間に必ずしも対応したものではありませんでした。
 この度変更される規則では、出願人が手続きを進めるために何もできなかった期間を、出願人に起因する遅延(Applicant delay)として、USPTOがPTA期間から控除することはできないとした、Supernus Pharm. Inc. v. Iancu判決(913 F.3d 1351 (Fed. Cir. 2019)) を受け[1]、37 CFR §1.704(c)のいくつかの規定が変更されました[2]。

 例えば、認可通知の発行後に補正書を提出する際、従来では37 CFR §1.704(c)(10)の規定に基づき、「(i)補正書の提出日から、補正書に対する応答としての庁指令(若しくは庁通知)の郵送日までの日数、又は、(ii)4ヶ月、のいずれか少ない方の日数」がPTA期間から控除されていました。しかしながら、「補正書の提出日から庁指令(若しくは庁通知)の郵送日までの日数」は、出願人が手続きを進めるために何もできなかった期間であり、当該日数は、出願人が審理を終結させるための合理的な努力をしなかった期間に必ずしも対応していません。そこで、今回の規則変更によって「認可通知の郵送日の翌日から、補正書の提出日までの日数」がPTA期間から控除されることとし、出願人に起因する審査遅延の日数を、出願人が審理を終結させるための合理的な努力をしなかった期間に対応させた規定に変更されました。

記事担当:特許第2部 峰岸

(参考)
[1] Supernus Pharm., Inc. v. Iancu, 913 F.3d 1351 (Fed. Cir. 2019)
http://www.cafc.uscourts.gov/sites/default/files/opinions-orders/17-1357.Opinion.1-23-2019.pdf
(判決の概略)
 この事件では、継続審査請求(Request for Continued Examination: RCE)から、欧州特許における異議申立通知に関する情報開示陳述書(Information Disclosure Statement: IDS)の提出までの646日が、USPTOによりPTA期間から控除されました。IDSは、欧州特許庁(European Patent Office: EPO)から異議申立通知を受領してから100日後に提出されていました。CAFCは、出願人が欧州特許の異議申立通知の存在を知らなかった期間である546日分について、USPTOがPTAから控除をすることは認められないと判断しました。

[2] Patent Term Adjustment Reductions in View of the Federal Circuit Decision in Supernus Pharm., Inc. v. Iancu.
https://www.federalregister.gov/documents/2020/06/16/2020-11786/patent-term-adjustment-reductions-in-view-of-the-federal-circuit-decision-in-supernus-pharm-inc-v
(PTA規定の変更箇所)
・37 CFR §1.704(c)(2):§1.314に基づく特許発行の延期
変更前:
この場合は,§1.703に規定されている調整期間(弊社注:審査遅延に起因する特許存続期間調整の期間)は,§1.314に基づく特許発行延期の請求が提出された日に始まり,特許が発行された日に終わる日数がある場合は,その日数により短縮される。
変更後:
この場合は,§1.703に規定されている調整期間は,§1.314に基づく特許発行延期の請求が提出された日に始まり,延期を終了させる請求が提出された日、又は特許が発行された日のうちいずれか早い日に終わる日数がある場合は,その日数により短縮される。

・37 CFR §1.704(c)(3):出願の放棄又は発行手数料の延納
変更前:
この場合は,§1.703に規定されている調整期間は,放棄の日又は発行手数料納付期日の翌日に始まり,次の何れか早い日に終わる日数がある場合は,その日数により短縮される。(i)出願を回復させる又は発行手数料の延納を受領する旨の決定の郵送日,又は(ii)出願を回復させる又は発行手数料の延納を受領することについての承認可能な申請書が提出された日後4月である日
変更後:
この場合は,§1.703に規定されている調整期間は,放棄の日又は発行手数料納付期日の翌日に始まり,出願を回復させる又は発行手数料の延納を受領することについての承認可能な申請書が提出された日に終わる日数がある場合は,その日数により短縮される。

・37 CFR §1.704(c)(6):特許法第132条に基づく庁指令又は特許法第151条に基づく許可通知の郵送前1月未満での予備的補正書又は他の予備的書類の提出であって,それらが補充庁指令又は許可通知を必要とするもの
変更前:
この場合は,§1.703に規定されている調整期間は,次の何れか少ない方により短縮される。(i)庁の原指令又は原許可通知の郵送日の翌日に始まり,補充庁指令又は許可通知の郵送日に終わる日数がある場合は,その日数,又は(ii) 4月間
変更後:
この場合は,§1.703に規定されている調整期間は,特許法第111条(a)に基づいて出願がされた日又は国際出願に関する特許法第371条(b)若しくは(f)に基づく国内段階の開始日の何れかから8月である日の翌日に始まり、予備的補正書又は他の予備的書類の提出の日に終わる日数がある場合には、その日数により短縮される。
※変更後規則の「8月」の期間は、§1.704(c)(13)における、出願を審査に適した状態で提示するための8月の期間に対応しています。

・37 CFR §1.704(c)(9):補正書又は他の書類の提出であって,§41.50(b)に基づく新たな拒絶理由若しくは§41.50(c)に基づく陳述を含むものとして指定される決定以外の,特許審判部による審決又は連邦裁判所による決定の後であり,補充庁指令若しくは補充許可通知を必要とする,特許法第132条に基づく庁指令若しくは特許法第151条に基づく許可通知の郵送前1月未満において行われるもの。
変更前:
この場合は,§1.703に規定されている調整期間は,次の何れか少ない方に限り短縮される。(i)庁の原指令又は原許可通知の郵送日の翌日に始まり,補充庁指令若しくは許可通知の郵送日に終わる日数がある場合は,その日数,又は(ii) 4月間
変更後:
この場合は,§1.703に規定されている調整期間は,特許審判部又は連邦裁判所による決定の日の翌日から始まり、補正書又はその他の書類が提出された日に終わる日数がある場合は、その日数により短縮される。

・37 CFR §1.704(c)(10):§1.312に基づく補正書(弊社注:認可後の補正)又は§1.114に準拠する継続審査請求以外の他の書類の提出であって,許可通知が与えられたか又は郵送された後でのもの
変更前:
この場合は,§1.703に規定されている調整期間は,次の何れか少ない方に限り短縮される。
(i)§1.312に基づく補正書若しくは他の書類が提出された日に始まり,§1.312に基づく補正書又は他の書類に対する応答としての庁指令若しくは通知の郵送日に終わる日数がある場合は,その日数,又は(ii) 4月間
変更後:
この場合は,§1.703に規定されている調整期間は,特許法第151条に基づく認可通知の郵送日の翌日に始まり、§1.312に基づく補正書又は他の書類を提出する日に終わる日数がある場合は、その日数により短縮される。
※この規則の変更により、申請者が応答を待ち、手続きを終了させるための対応がとれない期間をPTAの控除から除くこととなります。この規則はさらに、USPTOによって§1.312に基づく補正がUSPTOから明示的に要求され、そのような補正がかかる提出を要求する通知から3か月以内に提出された場合、PTAから控除されないことを明確にしています。また、37 CFR§1.704(d)に準拠した陳述書を提出する場合、RCEを伴うIDSは、PTAに影響を与えません。

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