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2023.12.18

特許部 中辻啓

米国 意匠の自明性判断基準に関する米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)大合議(en banc)での再審理

LKQ Corporation v. GM Global Technology Operations LLC事件(LQKによる当事者系レビュー(IPR)のCAFC控訴審)は大合議での再審理が行われる。この再審理ではdesign patent (意匠特許、以下「意匠」)についての自明性(35USC103条)の判断基準が争われる。

米国の意匠出願審査段階では先行技術に基づく拒絶理由は多くない。このため米国で意匠出願を多く取り扱っている場合でも、自明性判断の基準を意識することが少ないかもしれない。本コラムでは、現在適用されている米国意匠の自明性判断基準から、この再審理での争点について解説する。

– 現在の自明性判断基準 Rosen-Durlingテスト
米国意匠の自明性判断とは、当業者(designer of ordinary skill)にとってクレーム意匠が自明であるか否かを判断することである。現在この自明性判断は、In re Rosen 673 F.2d 388(CCPA 1982)およびDurling v. Spectrum Furniture Co., 101 F.3d 100(Fed. Cir. 1996)等の判例を通して確立され、Rosen-Durlingテストと呼ばれる。 これは次の2つのステップで行われる。

1. 基本的に同じ(basically the same)デザイン特徴を有する主引例(primary reference、またはRosen判例からRosen referenceとも言われる)を見つける。

2. そのような主引例が見つかった場合、引例に関連のある副引例(secondary reference)等に基づいて、主引例の意匠を変更してクレーム意匠とすることが当業者にとって自明か判断する。

具体的に、背景となったRosen事件およびDurling事件を紹介する。

Rosen事件
Rosen事件ではクレーム意匠(左図)に対して、USD240,185(中図)が主引例として引用され、この主引例に対して複数の副引例(右図)を組み合わせることによって当業者から自明であると特許庁で判断された。

この特許庁の判断に対して、控訴裁判所は、自明性の判断においてまずは、クレーム意匠とデザイン特徴が基本的に同じ引例が存在しなければならない(there must be a reference, a something in existence, the design characteristics of which are basically the same as the claimed design)と判断した。そして、クレーム意匠と引用された意匠(USD240,185)はデザインコンセプトが異なるために、基本的に同じデザイン特徴を有する引例ではない(主引例足りえない)と判断し、クレーム意匠は自明ではないと結論づけた。

Durling v. Spectrum Furniture Co.事件

During事件では、Rosen事件を引用して、自明性の判断では、クレーム意匠とデザイン特徴が基本的に同じ実際に存在する主引例の存在を求めたうえで、副引例として主引例と関連する意匠によって主引例を変更することが当業者にとって自明か判断すると基準を示した。

その上で、クレーム意匠(左図)に対して、引用された意匠 (右図)は視覚的印象(visual impression)が異なるために、これも引用された意匠は主引例足りえないとしてクレーム意匠は自明でないと結論づけた。

以上のRosen事件、Durling事件を通して確立した上述の2ステップの自明性判断はRosen-Durlingテストとして現在利用されている。 そして、この判断基準に基づき、意匠の出願審査や多くの判例で、引用された意匠が、基本的に同じ(basically the same)デザイン特徴を有する主引例足りえないとして自明性が否定されている(自明ではないと判断されている)。

– 大合議の再審理の争点
今回の大合議の再審理では、utility patent(特許)の自明性に関するKSR最高裁判例(KSR Int’l Co. v. Teleflex Inc., 550 U.S. 398(2007))がdesign patent(意匠)にも適用されるべきか等を争点としている。 つまり、意匠の自明性判断で用いているRosen-Durlingテストが否定または変更されるべきかが問われている。

以下に、具体的な事件とともに再審理の争点を紹介する。

LKQ Corporation v. GM Global Technology Operations LLC事件
本事件はLKQがGM意匠の無効を求めた当事者系レビュー(IPR)のCAFC控訴審である。LKQはIPRにおいてGMのUSD797,625意匠に対してLian(USD773,340)を主引例として、またHyundaiを副引例として引用し自明性を主張した(下図参照、審決より引用)。IPRにて特許庁は、クレーム意匠とLianの間の複数の差異を鑑みて、Lianがクレーム意匠と基本的に同じ(basically the same)視覚的印象を与えず、主引例足りえないとして、クレーム意匠の自明性を否定した。

控訴審でLKQはIPRで主張したRoesn-Durlingテストに基づく自明性の無効理由と合わせて、自明性判断のRosen-Durlingテスト自体が厳格すぎであり、2007年のKSR最高裁判決によって変更されるべきであると主張した。CAFCは、基準の変更については判断せずに特許庁と同様に自明性を否定した。これに対して、LKQは大合議による再審理を求めた。

KSR最高裁判例
ここで、KSR判決は特許(utility patent)の自明性判断に関する最高裁判決である。

この判決以前は、自明性判断の際に引例の組み合わせにはTeaching-suggestion-motivation (TSM)テストが用いられていた。これは、自明性の判断に際して、後知恵を防ぐために、引例の組み合わせには、なんらかの教示、示唆、動機が存在するかを求めるものであった。これに対して、KSR最高裁判決ではTSMテストが厳格すぎるとして、自明性の判断をより柔軟に行うことを可能にした。

LKQは、意匠の1982年以降続く自明性判断のRosen-Durlingテストは厳格すぎであり、2007年のKSR最高裁判決が意匠にも適用されるべきで、より柔軟な判断をすべきと主張している。

大合議による再審理の論点
2023年6月30日、CAFCは控訴人による大合議再審理の請求を認め、以下の論点に対する各当事者の見解を求めた。

A. KSR判決はRosen判例およびDurling判例を覆すのか?
B. KSR判決がRosen判例およびDurling判例を覆さないとしても、KSR判決は意匠についても適用されてRosen-Durlingテストを排除または変更するか?
C. Rosen-Durlingテストを排除または変更する場合、意匠の自明性判断のテストはどのようであるべきか?
D. Rosen-Durlingテストを明確化するCAFCの先例はあるか。あるとすると、その先例は関連論点を解決するか?
E. Rosen-Durlingテストが長年適用されてきたことを鑑みて、Rosen-Durlingテストの排除または変更は、確定した法律分野に対して不安定性をもたらすか?
F. 上記の質問への回答以外で、自明性に関連する違いが意匠と特許の間であるとすれば、それはどのような違いか、この違いが意匠の自明性テストにおいてどのような役割を果たすか?

これまでに(2023年11月時点)、Rosen-Durlingテストはそこまで厳格でなく保持されるべき/KSRとは矛盾しない;特許と意匠は同様とすべきでRosen-Durlingテストは変更されるべき;テストの変更は意匠に大きな不安定性を与える、といった様々な第三者意見(アミカスブリーフ)が提出されている。

また、2024年2月にヒアリングが予定されている。 Rosen-Durlingテストが否定されるとすると現在登録されている意匠も無効になるなど安定性に大きな影響がある。今後のCAFCの再審理に注目したい。

参考文献
1. In re Rosen 673 F.2d 388(CCPA 1982)
2. Durling v. Spectrum Furniture Co., 101 F.3d 100(Fed. Cir. 1996)
3. IPR2020-00534 decision
4. MPEP 1504.03 Nonobviousness
5. CAFC 2021-2348 on petition for reharing en banc
6. Amicus Curiae New York Intellectual Property Law Association
7. Amicus Curiae American Intellectual Property Law Association
8. Amicus Curiae Apple Inc.
9. KSR Int’l Co. v. Teleflex Inc., 550 U.S. 398 (2007)
10. Wikipedia KSR Int’l Co. v. Teleflex Inc.


中辻 啓 弁理士 米国パテントエージェント合格
米国・中国での駐在経験を活かし、電気・機械分野の特許/意匠の権利化や模倣品対策などの係争について海外での豊富な実績を持つ。欧州異議案件のスペシャリストとしても社内外から信頼を寄せられる存在。

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