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2026.03.02

東南アジア駐在員事務所 寺岡裕芳

【ASEANコラム】 ベトナムの知財情勢 ~ 2026年、何が起きているのか

こんにちは。NGBバンコクオフィス駐在員の寺岡です。
今回は、最近のベトナムにおける知財情勢について、日本の知財実務家の皆様にお伝えしたいと思います。

はじめに
2025年以降、ベトナムでは、知的財産に関する法制度の近代化と執行強化が一気に進展している状況がみられます。単なる法改正にとどまらず、行政・刑事・民事を横断する執行アクションが政府主導で実施されつつあります。

1. 政令による執行強化
2026年1月30日、フン・ミン・チン首相は、知的財産権侵害に対する執行強化を図る新政令(Directive No. 02/CT-TTg)に署名しました。この新政令は、侵害対策の重点化、責任の明確化、役割分担の強化を目的とするもので、中央省庁から地方当局まで含む執行体制全体の強化を目指しており、以下の点が示されています:

  • 明確な役割分担と責務の明示:関係省庁・省・市レベルの人民委員会に対して、執行義務・期限・成果要件を設定
  • 国家IP執行データベースの構築:2026年内の稼働を目標に、執行情報の集約・共有基盤を構築
  • AI・ブロックチェーン活用:侵害検知・追跡といったデジタル環境での執行能力強化が明確化
  • 国際協力とクロスボーダー対策:情報共有や捜査協力の拡大推進

この新政令は、単なる理念提示ではなく、実務執行のアクションプランとして機能する運用段階の法令として注目されています。

2. 中央省庁の役割強化と実務対応
首相が署名した新政令と並行して、2026年4月に施行予定の改正知財法や関連省庁に課された役割が組み合わさることで、知的財産についての執行力が飛躍的に向上される見込みです。
主要省庁の役割:

  • 科学技術省(MoST: Ministry of Science and Technology):指導的立場で執行体系の構築・データ基盤整備を牽引。AIやブロックチェーンなど最新技術を活用したモニタリング機能の整備を推進。
  • 文化・スポーツ・観光省(MCST: Ministry of Culture, Sports and Tourism):
    著作権や関連権侵害への監査・執行を強化。特にデジタルコンテンツの海賊版対策に注力。
  • 公安省(MPS: Ministry of Public Security):
    刑事捜査の役割を拡大し、刑事責任追及や罰則強化の方向性を示す。刑法・行政制裁双方に関与する計画が進行中。
  • 工業・貿易省(MOIT: Ministry of Industry and Trade):
    市場監視や違反商品の摘発において積極的な役割を担う。主要都市での集中的な取締りが想定される。

また、地方当局には、権利侵害の早期発見・対応責任が明示的に課されており、従来の中央集中型から分権的な取り組みへの転換が進んでいる点が大きなトレンドであると言えます。

3. 制度改革と法改正の全体的な文脈
執行強化の背景には、2026年4月1日施行予定の改正知財法による制度の刷新があります。2025年12月に国会で可決されたこの法改正は、権利保護の強化と手続の迅速化、デジタル対応など幅広い改革が含まれています。
主な改正点としては:

  • 審査手続の迅速化:特許・商標・意匠の実体審査期限が大幅に短縮予定
  • AI関連規定:AI生成物やAI学習データの利用に関する規範的規定を導入し、今後政令等で詳細が整備される予定
  • オンライン侵害に対する救済措置:削除・非表示命令、仮処分によるアクセス遮断等の強化
  • 損害賠償制度の見直し:特にオンライン侵害における賠償上限の引上げ

このような立法・行政・執行の一体的な改革が進行することで、ベトナムは、知財環境の整備を整え、ASEAN域内での競争力を高めようとしています。

4. ベトナム特許庁(IP Viet Nam
2025年に組織再編があり、科学技術省(MoST)に置かれていた監査局が解体され、知財侵害に関する監査機能がベトナム特許庁に移管されました。これにより、ベトナム特許庁は、知財侵害について専門的に評価・行政処理を行う権限を備え、知的財産に関する専門機関としての機能が充実されたことになります。
また、DX化の改革とAI活用の推進が行われる一方、2025年からのバックログ解消キャンペーンにより、滞貨案件の審査処理が集中的に実施されました。これにより、特許審査に関しては、2024年出願案件の実体審査段階まで到達し、複雑案件の滞貨のみ残存している状況まで改善したと言われております。商標審査に関しては、滞貨処理が完了し、審査期間が9か月から5か月に短縮されました。商標に関しては、滞貨解消フェーズから品質向上フェーズに移行しています。

5. まとめ
ベトナムは、知財を「制度として整える」段階から、実務として回す(権利を早く付与し、侵害には早く強く対応する)段階に移行する局面にあると言えます。
首相が署名した新政令(Directive)や中央省庁及び地方当局の役割強化により、テクノロジーを活用して政府横断で連携する形で、知的財産についての執行力が飛躍的に向上する見込みです。一方、ベトナム特許庁は、大胆な改革により、権利化手続きの円滑化が図られ、知財の専門機関としての機能・能力が拡充されたと言えます。

※本稿は、2026年1月にベトナムに訪問して知財系政府機関と行ったディスカッションの内容と、下記参考情報に挙げるニュース記事などを参考に、日本の実務家・企業向けにベトナムにおける知財情勢についての要点を整理したものです。今後も、各種政令・施行令の整備や執行実績を継続的にモニタリングし、実際の運用状況や運用実績について、日本の知財実務者にフィードバックしてゆく予定です。

ASEAN地域における知財マターに関しましては、是非弊社までお気軽にご相談ください。

参考情報:
本稿に関連する弊社コラム記事(2026年1月のベトナム訪問)
https://www.ngb.co.jp/resource/column/5959/
ベトナム知財法改正に関する弊社ニュース記事
https://www.ngb.co.jp/resource/news/5913/
VIETNAMNET GLOBAL(ニュースサイト)による2026/02/03付のニュース記事
https://vietnamnet.vn/en/pm-orders-tougher-ip-enforcement-under-new-decree-2487481.html
BAKER MCKENZIEによる2026/02/03付のニュース記事
https://www.bakermckenzie.com/en/insight/publications/2026/02/vietnam-boosts-ip-enforcement-efforts-in-2026?utm_source=chatgpt.com
WINCOによる2026/02/11付のニュース記事
https://wincolaw.com.vn/directive-no-02-ct-ttg-a-decisive-turning-point-in-vietnams-intellectual-property-protection.html


寺岡裕芳 (てらおか ひろよし)
NGB株式会社 東南アジア駐在員事務所(バンコクオフィス)
オフィスマネージャー

 

 

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