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2006.02.08

【Cases & Trends】プリンタカートリッジをめぐるもうひとつの争い/特許製品の購入者に対する再使用制限の合法性(1)

去る1月31日、キヤノンのプリンタ用インクカートリッジをめぐる注目の知財高裁(大合議)判決が下されました。この判決自体に対する専門家の分析・議論、さらには消耗品のリサイクル業者/アフターマーケット・サプライヤーに対する純正品メーカーの戦略などをめぐる議論はこれからも続くものと思います。

ここでは、いま米国で行われているプリンタ・カートリッジ訴訟から、真正面の権利侵害/消尽議論とは少し異なる角度で争われている「アフターマーケット・サプライヤー対純正品メーカー」の事例を紹介いたします。この事件は、レーザープリンタ用の使用済みトナーカートリッジを収集、再充填し、再利用可能にするメーカー団体Arizona Cartridge Remanufacturers Association (ACRA)が、米国第2位のプリンタメーカーLexmark International Inc.(「レックスマーク」)を相手どり、その販売手法がカリフォルニア州不正競争法に違反するとして2001年に提訴していたもの。昨年8月に控訴審判決が下されています。(Arizona Cartridge Remanufacturers Association v. Lexmark International Inc., 9th Cir., 8/30/05)

事実背景

当初、レックスマークは新品の取替え用プリンタカートリッジのみを販売していたため、ACRAメンバーと競合していなかったが、1997年に自社製カートリッジの再生を手がけるや、使用済みカートリッジの再生市場における自社の地位を確立すべく、強力な戦略を打ち出していった。

プリベート・プログラム

代表的なものが、1997年5月頃からレックスマークが同社トナーカートリッジの購入者向けに導入した「プリベート(Prebate)」プログラムと呼ばれる手法であり(“リベート”をもじった造語)、「ノン・プリベート」と「プリベート」という2本建ての価格プログラムから構成される。

「ノン・プリベート」プログラム
… 特定価格での購入後、カートリッジをどのように利用しようと購入者の自由。価格は “Prebate”カートリッジよりも高い。

「プリベート」プログラム
… 購入者は、カートリッジを1回しか使用せず、空になったカートリッジはレックスマークに返却することに同意することにより、30ドルの割戻金を受け取れる。

“Prebate”カートリッジの包装には、次のような条件書きが付されている。
『開封する前にお読みください。 この包装を開けること、あるいはこの中にある特許対象カートリッジを使用することは、あなたが以下のライセンス契約を受け入れることを意味します。この特許対象カートリッジは、一度しか使用されないという制限の下に特別価格で販売されています。一度使用した後、あなたは再生産、リサイクル用に空のカートリッジをレックスマークにのみ返却することに同意することになります。この条件に同意できない場合は、開封しないままこのカートリッジを販売した店へお返しください。このような条件のない通常価格のカートリッジもございます。』

レックスマークは、プリベート・プログラム導入には以下の狙いがあると述べている。
・再生品市場における競争力を高める
・消費者へ提供される商品の品質を維持する
・使用済みカートリッジをリサイクルすることにより環境へ配慮する

プリベート・プログラムは、カートリッジの包装、広告媒体およびレックスマークのウェブサイト上で宣伝広告された。また、レックスマークは、同社認定の再販売業者に対しては使用済みカートリッジの回収および返却の費用を負担した。この戦略は成功し、販売されたカートリッジの50%がレックスマークに返却され、同プログラム導入以来、返却率は4倍になった。さらに、1997年から2001年の米国におけるレックスマーク製カートリッジ販売は約100%増加し、プリベート・カートリッジを使用するプリンタの販売は60%増加した。

ACRAによる訴訟

ACRAは、プリベート・カートリッジ購入における条件と特典に関するレックスマークの表示のいくつかに虚偽があり、カリフォルニア州不正競争法に違反するとして、レックスマークをカリフォルニア北部地区連邦地裁に提訴した。ACRAはとりわけ、レックスマークが、

(1) プリベート・カートリッジの包装に付された条件は、法的に強制可能な、消費者との契約を構成すると示唆することにより消費者を欺いた

(2) 実際は小売店が設定した価格をレックスマークがコントロールすることはできないにもかかわらず、プリベート・カートリッジを購入することによりお金を節約できるという虚偽の約束をすることにより、消費者を欺いた

(3) いわゆる「ロックアウト」チップを使用して、不公正取引慣行に従事した、

と主張した。

地裁は、レックスマークのプリベート・プログラム広告は消費者を欺くものではないと認定。また、プリベート・カートリッジに付された条件は、消費者との有効な契約を構成するものであり、ディスカウント価格についての表示もレックスマークの販売慣行を正確に反映していると認定した。レックスマークによる「ロックアウト」チップの使用についても、かかる使用が不正競争行為に該当することをACRAは証明できなかったと認定した。(Arzona Cartridge Remanufacturers Ass’n, Inc. v. Lexmark Int’l, Inc., 290 F.Supp.2d 1034, 1049 (NDCA 2003))

(渉外部・飯野)

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