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2006.06.15

渡邊 哲史

特許/不公正行為/日本語先行技術文献の完全な翻訳文の提出懈怠

出願人が日本の先行技術文献について完全な翻訳を提出しないだけでは、PTO特許商標庁を欺こうとする意図を認定するには十分な根拠とはならない。先行技術に関する出願人の見解と出願人が開示した当該抄訳文献とは、先行技術文献の完全な翻訳と実質的に一致しており、欺瞞の意図は認められない。

一方、反対意見は、出願人による先行技術に関する見解における特徴づけは、その暗示する内容が誤解を招く可能性があり、欺瞞の意図を推測するのに充分な根拠となりえるから、再検討の機会を与えるため差し戻すべきであるとする。(Atofina v. Great Lakes Chemical Corporation CAFC 3/23/06)

事実概要
Atofinaは、ジフルオルメタンを合成する方法に関する米国特許第5,900,514号(以下、‘514特許)を保有している。譲受人として後にAtofinaとなるElf Atochemに対し発行された。当該発明は、フッ化水素(HF)を使用して、ある程度の量の酸素(O2)がある状態、ある特定の温度幅で、またクロミウムを触媒として、ジクロロメタン(CH2Cl2)の気相フッ素化によって、ジフルオルメタン(CH2F2)を合成する方法を目的としている。クレーム1は、当該工程が100 モルのジクロロメタンにつき0.1~5モルの酸素がある状態で、温度330~450度下で、「バルクまたは担持クロム触媒」を用いて行われることを要求している。クレーム2、5、6、7、9および10は、さらに限定を加えている。クレーム2は、ジクロロメタンに対する酸素の比の幅をさらに狭め、クレーム6は、ジクロロメタン、酸素、フッ化水素が0.01~10秒間の触媒と接触するという要件を加え、クレーム7は、1~20バールの間の絶対圧を要求する限定を加えている。クレーム9は、クレーム1と同じであるが、異なった変化の段階があり、クレーム10もクレーム1と同じであるが、クレーム6中の接触時間の限定を加えている。

1993年、Great Lakes Chemical Corporation(以下、Great Lakes)は、ジフルオルメタンを製造し始め、クロミウム化合物を成分とする混合金属触媒と、地裁においてAgent Xとして言及される別の成分を使用した。処理条件は、100モルのジクロロメタンにつき1.1~1.2モルの酸素がある状態において、150~350度の温度下、5.5~7.6 バールの絶対圧下である。この工程中、反応物質は、触媒とおよそ10秒間接触する。Agent Xが、触媒の寿命ばかりではなく、Great Lakesのフッ素化反応の選択性を高めているのは明らかであるが、この工程はクロミウムがなければ機能しない。

2002年7月1日、Atofina は、Great Lakesが‘514特許を侵害しているとして、デラウェア地区連邦地方裁判所に提訴した。Great Lakesは答弁書を提出し、非侵害、特許無効、不公正行為による権利行使不能を申し立てて反訴した。地裁は、非陪審理の後、以下の結論に達した。(1)Great Lakesは‘514特許を侵害していない、(2)クレーム1、2、6、7、9および10はJP 51-82206により予見されている、(3)‘514特許のクレーム5は先行技術に鑑みて自明ではない、(4)‘514特許は実施可能要件の欠如またはベストモード開示の懈怠により無効ではない、また、(5)‘514特許は不公正行為により権利行使不能である。同裁判所による特許侵害、新規性の欠如による特許無効、不公正行為による権利行使不能に関する判断が本控訴における争点である。

地裁は、明細書、審査経過および辞書を頼りに「クロミウム触媒」という用語を解釈し、「それ自体が消費されることなく化学反応の速度を変える物質であり、その中で唯一の触媒活性成分は、金属酸化物、アルカリ金属フッ化物または非不活性添加剤を加えていないクロミウム」を意味するとした。地裁はそのうえ、Great Lakesの触媒は、触媒活性であり、あるいは、少なくとも明細書で放棄された非不活性添加剤である非クロミウム物質Agent Xを含むため、「バルクまたは担持クロム触媒」による限定はなく、Great Lakesの触媒は、‘514特許の出願人が審査中に放棄した酸化クロム以外の金属酸化物を含むと判断した。

地裁は、さらに以下の判断を示した。クレーム1、2、6、7、9および10はJP 51-82206によって予見される(新規性がない)。Titanium Metals Corporation v. Banner事件(778 F.2d 775, 785(Fed. Cir., 1985))に依拠し、JP 51-82206に示されている100~500度というより広い温度幅は‘514特許に開示されている330~450度というより狭い温度幅を予見している。酸素とジロクロロメタンのモル比は0.5%と3%の間であるというクレーム2中のさらなる限定は、JP 51-82206のその幅の一部(酸素とジロクロロメタンのモル比が0.001~1%)の開示によって予見されている。JP 51-82206はクレーム6および10に開示された接触時間に触れていないが、「接触時間はJP 51-82206に例示された情報にもとづいて計算しうる」ため、それらのクレームを予見している。JP 51-82206は、クレームされた製法が実施可能であることを開示している。

地裁は、さらに、‘514特許は不公正行為による権利行使不能に関して、以下のように認定した。JP 51-82206の完全な翻訳がPTO(米国特許商標庁)に提出されていないのは、「‘514特許のクレーム1、2、6、7、9および10の限定すべてを予見しているため」非常に重大である。Atofinaは、JP 51-82206の完全な英訳を所有していたにもかかわらず、それをPTOに提出しないことにより、PTOを欺く意図を有する。Atofinaは、JP 51-82206 が純粋な酸化クロムから成る触媒を開示していることに触れずに「酸化クロムおよび他の選択可能な金属酸化物」を含んだ触媒を開示しているとして、PTOに対し虚偽の陳述を行い、引例の適用範囲と引例で使用されている接触時間に関して、JP 51-82206を誤った方向に特徴づけている。重要性と意図を斟酌し、‘514特許は、不公正行為により権利行使不能である。

地裁は、2005年3月23日にGreat Lakesの主張を認める判決を確定した。Atofinaは、適時控訴し、当裁判所は連邦民訴規定(28 U.S.C.)§1295条(a)(1)に基づく裁判権を有する。

一部確認、一部破棄

判旨
(1)非侵害の確認
Atofinaは、地裁による「クロミウム触媒」に関するクレーム解釈は誤りであるとする根拠に出願人の「金属酸化物」に関する主張を挙げ、ニッケル・クロミウム触媒のみを区別することを意図しており、Agent Xクロミウム触媒ではないと主張しているが、当裁判所は、これを斥ける。
(…… 以下略)

*判決内容詳細については “I.P.R.”誌でご確認ください。

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