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2006.07.07

【Cases & Trends】最新米国商標判例:「イニシャル・インタレスト・コンフュージョン」法理について

「イニシャル・インタレスト・コンフュージョン(initial interest confusion)」ということばを聞いたことはあるでしょうか。米国の商標判例や判例紹介等の記事中で目にするようになったのは数年前だったでしょうか、とりわけ、インターネットを利用した商取引が普及するにつれてその登場頻度も増してきたようです。商標事件で使われる語ですから、「コンフュージョン」が消費者による誤認混同を示すことは推測できます。では、一体どのような混同形態をいうのか……。 いきなり定義のみ聞かされてもピンとこないと思いので、まずはこの「混同」法理について扱った米連邦第10巡回区控訴裁判所の最新判決をご紹介いたします。

Australian Gold Inc. v. Hatfield, 10th Cir.  No.03-6218, 10th Cir., 2/7/2006

[背景事実]

当事者および対象商品・市場
原告: 
Australian Gold, Inc.……室内用日焼けローション「Australian Gold」、「Caribbean Gold」を製造。関連商標をすべて保有。
Advanced Technology Systems, Inc……室内用日焼けローション「Swedish Beauty」を製造。関連商標をすべて保有。
ETS, Inc.……「Australian Gold」「Caribbean Gold」「Swedish Beauty」ローション(以下「原告商品」)の独占販売店

全米で25,000ある日焼けサロンの約50~60%が原告商品を利用。ETSは、原告商品を直接日焼けサロンに販売することはせず、独立系販売店に卸している。これら独立系販売店は、ETSとの契約により、日焼けサロンにのみ原告商品を販売し、かつ2年に一度ETSらの研修を受ける義務が課されている。

被告:
Mark Hatfield, Brenda HatfieldらHatfield一家
Palm Harbor Tanning and Distributing, Inc.; Internet Marketing Guys, Inc.他

被告企業は、すべてHatfields原告商品をインターネット上で再販するために設立した企業。販売に際して、原告の許可は得ていない。そこで被告Hatfieldsは、”The Internet Marketing Guys”名を” Palm Harbor Tanning and Distributing, Inc”名に変えて、日焼けサロンを運営しているかのように見せかけるなど、自らの活動を隠していた。

当初、被告は、ETSの契約販売店から原告商品を仕入れていたが、2003年にETSがこれに気づき、同販売店との契約を解除した。そこで被告は、現金取引を条件とする匿名のサプライヤーから原告商品を仕入れることにした。

被告は、最大7つのウェブサイトを利用して原告商品を一般消費者に販売していた。被告のウェブサイト上では、原告商品の写真と取り扱い説明が表示され、原告の商標も使用されている。さらに被告は、原告商標をウェブサイトのメタタグとして用いていた(メタタグとはウェブサイトの一部であり、一般利用者には見ることはできないが、サーチエンジン・ウェブブラウザが読み取ることができ、後にブラウザが当該ウェブサイトを分類付けするのに利用される。メタタグは、あるウェブサイトが、特定の検索語を自分のサーチエンジンにタイプした顧客によって閲覧される確率を高めるために利用される。Deborah F. Buckman, Annotation, ”Initial Interest Confusion Doctrine under Lanham Trademark Act, 183 A.L.R. Fed. 553”)。

さらに被告は、インターネット検索において原告商標が使用された場合に、被告ウェブサイトがトップから3番目までにリストされるようにするサービスをオンライン・マーケティング専門会社Overture.comに依頼した。

ひとたび一般消費者が被告ウェブサイトに到達すれば、原告商品だけでなくさまざまなメーカーの日焼けローションを買うことができた。さらに2002年10, 11月から2003年1月にかけて、被告は自らのウェブサイトから原告商品を完全に削除したが、消費者をウェブサイトに惹きつけるべく、引き続き原告商標”Australian Gold”と”Swedish Beauty”をメタタグで使用した。

手続き経緯

原告は、連邦商標法侵害・虚偽広告および州法下での「契約関係に対する不当介入」他を主張して、被告Hatfieldsおよび関連企業をオクラホマ西部地区連邦地裁に提訴した。

地裁は、被告による商標侵害、虚偽広告、不当介入を認定し、損害賠償を命ずるとともに、被告によるインターネット上での原告商品販売、原告商標表示、メタタグ/htmlコードでの原告商標使用を禁ずる差し止め命令を下した。

これを不服として、被告は第10巡回区控訴裁へ控訴。
 ― 控訴棄却、原判決確認

[判決要旨]
I. 契約関係に対する不当介入 (略)

II. ラナム法請求

被告は、(1)原告が消費者による混同可能性の証拠を提示していない、(2)被告の行為は「ファーストセール・ドクトリン」により免責される、(3)ラナム法請求を裏付けるに足る損害の証拠を原告が提示していない、ことを理由に地裁判決を破棄するよう主張した。この主張は認められない。

A. 誤認混同の可能性 - イニシャル・インタレスト・コンフュージョン –

通常、商標侵害請求が認められるためには、被告による商標使用によって、消費者が以下のいずれかの形で出所について誤認混同する可能性を証明しなければならない。すなわち、(1)被告商品またはサービスの出所が原告であるとの誤認混同(「直接混同(direct confusion)」)、あるいは(2)被告が原告商品またはサービスの出所であるとの誤認混同(「逆混同(reverse confusion)」)。

本件において、当裁判所は混同可能性のさらなるヴァリエーション、すなわち「イニシャル・インタレスト・コンフュージョン(initial interest confusion)」を認める。イニシャル・インタレスト・コンフュージョンとは、特定商標権者の商品を求める消費者が、同一もしくは類似の標章を使用する競争相手の商品に惹きつけられるときに生ずる。すなわち、被告商品は当初求めていた原告商標商品とは異なることを、最終的に消費者が気づいたとしても、そのまま競争相手の商品にとどまってしまう場合がある。このようにして、競争相手は商標権者の潜在的ビジターまたは顧客を取り込んでしまうのである。

他の連邦裁判所も、「イニシャル・インタレスト・コンフュージョン」ということばを使うとは限らないながらも、何十年も前からこの種の混同可能性を認めてきている。参照Grotrian, Helfferich, Schulz, Th. Steinweg Nachf. v. Steinway & Sons, 523 F.2d 1331 (2d.Cir. 1975)。インターネット上でのイニシャル・インタレスト・コンフュージョンは、インターネット上の流れを転換するために商標を無断使用し、それにより商標権者の顧客吸引力(グッドウィル)に便乗する行為から生ずる。参照 Nissan Motor Co. v. Nissan Computer Corp. 378 F.3d 1002 (9th Cir. 2004)、Brookfield Comme’ns, Inc. v. W. Coast Entm’t Corp. 174 F.3d 1036 (9th Cir. 1999)他……。

当裁判所は、イニシャル・インタレスト・コンフュージョンの請求に対し、Sally Beauty Co. v. Beautyco, Inc.事件(304 F. 3d 964 (10th cir. 2002))で示された以下の6要因テストに従って判断する。

(1) 原告商標と被告標章の類似度、(2) 当該標章を採用する際の被告の意図、(3) 現実に混同が発生したことの証拠、(4) 当該商品と販売方法の類似度、(5) 消費者が振り向けるであろう注意の度合い、(6) 原告商標の強さまたは弱さ。
いずれもひとつだけで決定的な要因となるものはなく、また混同可能性の判断は、各事例によって異なる背景事実に依拠する。
本件においては、要因(3)の「現実の混同」以外、すべて原告に有利に判断される。「現実の混同」について言えば、原告は「現実の混同」の直接的証拠を提出していないため、この要因については被告有利に傾く。しかも、被告は、自らのウェブサイトにディスクレーマーを表示することにより、現実の混同が発生することを回避しようとしている。ただし、これらのディスクレーマーは特定の商標と特定の商標保有者を結び付けていないため、十分なものとはいえない。より重要なことに、被告のウェブサイト・ディスクレーマーでは、真の出所を明言し、競争相手(原告)との関係を否定しているものの、イニシャル・インタレスト・コンフュージョンによる損害、すなわち、原告のウェブサイトを探そうとする消費者が誤った場へ導かれること、を回避することができないのである。

以上の理由により、混同可能性に対する地裁の認定に誤りはないと判断する。

B. ファーストセール・ドクトリン

一般に「商標商品の販売をコントロールする製造者の権利は、当該商品を最初に販売した後もなお及ぶことはないため、製造者の商標商品を最初に購入した者がそれを再販することは、商標侵害や不正競争行為にはならない」。参照 Sebastian International, Inc. v. Longs Drug Stores Corp. 304 F. 3d 972 (9th Cir. 1995)。「製造者の商標商品を保管、展示し、再販する以上のことをしない購入者はラナム法によって製造者に付与されたいかなる権利も侵害しないということが、ファーストセール・ドクトリンの本質である」前出 at. 1076。

ただし、ファーストセール・ドクトリンは、他者の商標を利用して、当該商品の認定販売店であるかの印象を、事実に反して与えようとする再販業者まで保護するものではない。参照 D 56, Inc. v. Berry’s Inc. 955 F. Supp. 908 (ND Ill. 1997)。 本件において被告がインターネット上で行った行為がまさにこれに該当する。自らのウェブサイトのメタタグにおける、さらに検索時の優先リスティングサービスを利用した、被告の原告商標利用は、単なる商標商品の保管や展示の域を超えるものである。

以上の理由により、被告の行為は消費者の誤認混同を生じさせようとする意思を示すものであり、ファーストセール・ドクトリンによって免責されるものではない、と判断する。
(以下、略)

上記の通り、イニシャル・インタレスト・コンフュージョンの法理とは、最終的に混同が解消されるにしても、とにかく最初の段階で消費者を惹きつける混同を引き起こすことによって生ずる損害への救済を提供しようとするもの。本判決によれば、この法理自体は何十年も前から存在するということですが、裁判所によってはこの法理の適用を、インターネット取引関連事件に限定しているということです。いずれにせよこの法理は、今後のインターネット取引/マーケティングの発展に伴い、まだまださまざま展開が予想される発展途上の法理だといえましょう。

判決原文: http://www.kscourts.org/ca10/cases/2006/02/03-6218.htm

(渉外部・飯野)

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