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2008.02.13

【Cases & Trends】2008年米国知財の展開 – 最高裁、PTO、議会の動き – その後

前号で、米国の最高裁、PTO、議会における知財保護の動向について、いくつかご紹介いたしました。今回はその後、約1ヶ月の間に見られた動きを簡単にご紹介いたします。
前号で、米国の最高裁、PTO、議会における知財保護の動向について、いくつかご紹介いたしました。今回はその後、約1ヶ月の間に見られた動きを簡単にご紹介いたします。
 
最高裁: 特許消尽事件(Quanta Computer Inc. v. LG Electronics Inc.)

予定通り、1月16日に口頭弁論が行われました。この事件では、特許品販売に際し特許権者(あるいはライセンシー)が課す「制限/条件」と「権利消尽」との関係が争点となっています。すなわち、特許対象品を無条件で販売した場合は権利消尽が適用されるものの、条件付きで販売された場合、権利消尽の適用が免れるとしたCAFC判例を再検討しようというものです。

条件付販売に対する権利消尽の適用可否という論点は、プリンタのインクカートリッジ(特許対象品)販売に際し、使用済みカートリッジの再利用制限を課したレックスマーク事件においても生じましたが、具体的争点として扱われることはありませんでした(Arizona Cartridge Remanufacturers Assoc. v. Lexmark Int’l Inc., 9th Cir., 8/30/05)。この問題は同事件後2年以上を経て、本Quanta Computer事件で扱われることになったのですが、Quanta Computer事件にはもう少し複雑な論点が含まれています。本件の事実概要をおさらいしてみます。

・・・原告LG Electronics Inc.(LG)は、パソコンのコンポーネントやシステムに関する複数の特許を保有している。被告Quanta Computer Inc.、First International Computer, Inc. Q-Lity Computer, Inc.ら(以下併せて “Quanta”)は、LG特許のライセンシーであるインテル社からマイクロプロセッサとチップセットを購入し、これらをインストールしてパソコンを組み立て、ヒューレット・パッカード、デル・コンピュータらに納めていた。    
インテルは、LGとのライセンス契約に基づき、これらの製品を販売する権利を有しているが、購入者がこれを非インテル製品と組み合わせることは認められていない旨をQuantaに通知していた。LGは、インテルのマイクロプロセッサやチップセットを他社のコンピュータ・コンポーネントと組み合わせる行為は、LGの組合せ特許を侵害すると主張して、Quantaを提訴した(LGはマイクロプロセッサやチップセット自体の特許権侵害は主張していない)。
  地裁は、LG特許のシステム・クレームについて、LGの権利は消尽したと判断し、特許非侵害の略式判決を下した・・・

すなわち、原告LGが侵害訴訟の対象としているのは、被告Quantaが購入したインテル製コンポーネント自体の特許ではなく、あくまでシステムの特許です。口頭弁論の場でもLGは、「権利消尽の理論とは、特許対象物品を無条件で販売することによって、あくまで当該製品に対する特許権(patent rights in that article)を消尽させるもの。被告はこれを混同している」と主張しています。

これに対しQuanta側は、最高裁のUnited States v. Univis Lens Co.事件判決(36 U.S. 241 (1942))を引用し、「特許権者が、(その特許の必須の特徴を具現化するものであるがゆえに当該特許の保護範囲内にあるといえる)未完成品を販売し、購入者が当該物品(未完成品)を当該特許に従って完成させるよう仕向けた(運命づけた)以上、当該特許権者はその特許が当該物品に具現化される範囲において、当該特許発明を販売したといえる」と反論しています。

この点については最高裁のジョン・ロバーツ裁判長も、「コンピューターチップを買って棚に飾っておく者はいないだろう。やはりチップを買った以上、コンピューターを組み立てるために使うものだ」とLG側の主張に疑問を投げかけています。

もっとも、特許の種類によっては広範な権利消尽理論の適用が権利者側に酷になりすぎるなど、検討すべき論点は少なくなく、最高裁の最終判断には時間がかかりそうです。ロバーツ裁判長からは、「両当事者は、最初からこのような状況に対応する契約を作成することができたにもかかわらず、曖昧な契約文言のまま、問題が生じればCAFCの判断に賭けることにしたのだ。……そこでいま、我々がこの問題に対して判断しなければならなくなった」というボヤキのような発言も出ました。

特許製品の売買、ライセンシング慣行に及ぼすことは必至、と注目される本件最高裁判決は今年後半に出される見込みです。
 
PTO: 継続・クレーム規則案、IDS規則案

1. 継続・クレーム規則案

継続出願/RCE回数の制限、クレーム数の制限(特定数を超える場合の調査分析書提出義務)、関連出願の特定・報告義務を定め、昨年夏以降多くの出願人を困惑させた挙句、施行日前日にヴァージニア東部地区連邦地裁の仮差止め命令(GSK, Tafas v. PTO, EDVa., 10/31/2007)により停止状態にある本規則案。

これについても、予定通り2月8日に、両当事者から提出されていた略式判決(summary judgment)申立てについての口頭弁論が行われました。仮差止め命令のときと異なり、当日に裁判所命令が下されることはありませんでした。ただし、いくつかの報道、傍聴した弁護士のリポートによると、数日後あるいは1、2週間のうちには地裁命令(略式判決)が下される可能性が高いということです。

2. IDS規則改正案

「昨年12月に政府の行政管理予算局(OMB)が承認したため、本年1月末から2月にかけて最終規則が告示されるものと見られています」と、前号でお伝えしましたが、本日(2/13日本時間)時点で未だ告示されていないようです。動きがありましたら、本マガジン別コーナーでお知らせする予定です。

議会: 2007年特許改革法(HR1908, S1145)

上院司法委員会を通過した法案(S.1145)を上院本会議で審議するための委員会報告書が提出されたという情報がありますが、具体的審議日程等は不明です。引き続きウォッチしてゆきます。

(渉外部・飯野)

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