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2008.12.18

【Cases & Trends】 米FTCが知財のイノベーション促進効果を探るヒアリングを開始 - 進展する知財市場(IPマーケットプレース)の考察がメインテーマに

 2008年11月6日、米連邦取引委員会(FTC)が知的財産とイノベーション・競争促進の関係を考察する一連の公開ヒアリング開始を発表しました。かつてFTCは同様の大規模な公開ヒアリングを開催し、2003年10月に米独禁当局としての立場から特許保護のあり方に関する提言リポートを発表しています(本シリーズ紹介記事参照。『米AIPLA、FTCの特許改革提言に対する見解を公表』(http://www.ngb.co.jp/ip_articles/detail/60.html 他)。
 有効性に問題のある特許が認可される現状、そのような特許に基づく権利主張・訴訟がもたらす弊害、高額化する損害賠償などへの処方箋を示したFTC提言は、その後、今日に到るまでの裁判所判決、議会法案に反映されてきました。しかし、特許改革法案は議会において頓挫を繰り返し、特許庁も滞貨削減を目指すルール改正がユーザー(出願人)サイドの支持を得られず訴訟攻勢に合い差止め状態。そのなかで最高裁が積極的に特許問題に取り組み、自明性判断基準の柔軟化、差止め救済認可基準の強化、有効性攻撃基準(確認訴訟要件)の緩和等、FTC提言を実現してきた観があります。とはいえ、基準の柔軟化、強化、緩和いずれにしても、その代償としての不確実性の高まりや、証明事項が増えたことによる訴訟の高額化等、決して問題が完全解決されたわけではありません。また、パテント・トロール問題にしても、差止め救済のハードルが高くなったことによりすべて解消されるものでもありません(因みに、最近米国では「トロール」ではなく、”NPE”(Non Practicing Entities)という呼び方が広がっているようです)。
 そこで、2003年リポート以降の状況を検証し、イノベーションと競争を促進するための知的財産のあり方を改めて探るべく、新たなヒアリング・シリーズ開始の運びとなったようです。以下、FTCのヒアリング通知をご紹介します。今回のヒアリングでは、特許売買・ライセンシング、防衛目的特許アグリゲーター、特許ファンドなど続々と知財市場に現れる新ビジネスモデルの考察にかなりの力点が置かれています。
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『公開ヒアリングに関する通知』 FTC Nov. 6, 2008
[テーマ] 進展する知的財産市場に関する考察
[要 約]
連邦取引委員会(FTC)は、2008年12月5日、ワシントンD.C.を最初の開催地とする一連の公開ヒアリングを行い、進展する知的財産(IP)市場について探ってゆく。一連のヒアリングでは、2003年10月のFTCリポート*発行以降、知的財産法や特許関連ビジネスモデルの変化、およびIP市場の機能に関する新たな学びについて探るものである。
*『イノベーション促進に向けて – 競争政策と特許政策の適切なバランスを図る(To Promote Innovation: The Proper Balance of Competition and Patent Law and Policy)』:以下「FTC IPリポート」)

 法律の変更や変更案、さらにはIPの売買とライセンシングに関するビジネスモデルの進展は、特許の経済価値やIP市場の機能に大きな影響を及ぼしうる。このヒアリングでは、これらの変更・変革が、イノベーション、競争および消費者福祉に及ぼす影響について検討する。
    (中略)
[日程] 最初のヒアリングは2008年12月5日、ワシントンD.C.のFTCビル・カンファレンスセンターにて開催される。関心をもつすべての人々の参加を歓迎する。ヒアリング議題はFTCウェブサイト上に掲載される。その後のヒアリングはワシントンD.C.その他の地域で行われる。それぞれのヒアリング前に議題をウェブサイト上で公開する。
    (中略)

[補足情報]
– 2003年10月のFTC IPリポート –
 FTCは反トラスト法執行機関であるが、同時に競争政策に関る問題を研究する使命も有している。2002年、これら両方の役割の下にFTCは、知識経済における特許の重要性の高まりに鑑み、競争とイノベーション促進の観点から、特許制度に関する研究に着手した。この研究をサポートすべく、FTCと司法省は24日を超えるヒアリングを開催し、大企業、中小企業、個人発明家、特許・反トラスト機関、学界(経済・反トラスト法・特許法)からの代表者計300人以上のパネリストが参加した。さらに100を超える意見書の提出も受けた。2003年10月に発行されたFTC IPリポートは、これらのヒアリングにおける証言をまとめ、特許制度を改革するための提言を説明したものである。
     (中略)
– その後生じた特許制度の変更 –
 FTCが最初のIPリポートを発行して以来、特許制度は大きな変更を経ており、さらなる変更が検討されている。(下級)裁判所と特許権者は、差止め救済、特許性、ライセンス問題に関する連邦最高裁と連邦巡回区控訴裁(CAFC)の判決の意味合い/影響を探っている状態にある。議会は、包括的な特許改革法案を検討し、侵害に対する損害賠償の適切な算定方法に関する新たな議論が特許コミュニティをにぎわしている。2003年以降、特許の売買、ライセンシングに関する新たなビジネスモデルが生まれ、進展している。さらに、特許制度の作用とそのイノベーションや競争への貢献に関する新たな学習が存在する。
 このような動きは、特許救済およびそれがイノベーションと消費者に及ぼす影響についての争点を前面に押し出した。2006年、最高裁はeBay v. MercExchange事件において、侵害認定後、将来の侵害行為を禁じる永久差止め命令を自動的に認めてはならないとする判決を下した。2007年には、In re Seagate Technologies, Inc.事件においてCAFCが、「相当の注意義務」基準(“duty of due care”standard)を放棄して、故意侵害の証明には「少なくとも、客観的な無謀さ(objective recklessness)」を示すことが必要と判示することにより、特許権者が3倍賠償を獲得することを従前より困難にした。現在の特許制度において、これらの判決をいかに適用するかの奮闘が続いているが、一方で、特許コミュニティでは、合理的実施料相当額の損害賠償をいかに算定するか、そのための法改正(立法府による)が必要か否かの議論が続いている。
 特許訴訟において得られる救済(永久差止め命令、過去の侵害に対する補填的損害賠償、故意侵害に対する3倍賠償)は、すべての特許の価値を決める上で重要な役割を果たす。裁判所が認めうる救済についての当事者の評価は、特許侵害訴訟の大部分を解決する和解の判断に強い影響を及ぼすだけでなく、法廷での争いなしに行われるライセンス交渉にさえ影響を及ぼす。したがって、この分野での変更や変更案は特許価値とIP市場の機能に多大な影響を及ぼすのである。
 他に、いかなる特許が有効なのか、いかなる場合にライセンシーが特許の有効性を争うことができるのか、誰がロイヤルティを支払うべきなのか、についての判断を通じて、特許の価値とIP市場の機能に影響を及ぼす3件の最高裁判決が下されている。KSR International v. Teleflex, Inc.事件において最高裁は、自明性判断に際しての柔軟アプローチを提唱した。その際、最高裁は、すでに知られているものを公衆から奪い去り、イノベーションを支援するリソースを減じるなど、自明な特許がもたらす有害な影響について論じた。MedImmune, Inc. v. Genentech, Inc.事件においては、特許ライセンシーが確認判決訴訟を通じて特許の有効性を争うことを認めた。本来無効な特許に対してロイヤルティを支払うことの損害は、「対立する利害関係を有する当事者間の実質的争訟」を生じさせるもの、という判断に基づいている。Quanta Computer Inc. v. LG Electronics事件では、最初の特許ライセンスにおいて、後に特許対象品を購入した者に移転される権利を制限することが意図されていたとしても、権利消尽が生ずることを認めている。

 しかしながら、IP市場における最も重要な変化は、裁判所を通じてではなく、特許の売買とライセンシングに関する新たなビジネスモデルの誕生によって生じた。企業は以前からIPを戦略的資産として利用してきた。ときには攻撃的に利用して、技術の独占を維持し、競合製品からロイヤルティを獲得し、あるいは技術移転のテコとした。また、ときには防衛的に利用して、侵害訴訟の発生を回避した。近年、このような伝統的利用法とは異なる、新たなビジネスモデルが出現した。あるものは、戦略的な特許の買収と権利主張により特許の金銭化を図り、あるものは、共同ベンチャーを構築して特許を購入し、メンバーに対し防衛目的で特許をライセンスする。さらには、投資信託のような特定分野に特化したファンドを創設して、投資家がロイヤルティから収益を上げることを目指すものもある。他にもIPを主要資産として利用する新たなビジネスモデルが開発されつつある。
    (中略)
 
 FTCは、現在のIP市場、とりわけ、それが技術革新インセンティブと競争に及ぼす影響、およびこの評価をするうえでの経済分析の役割に関するコメントを募集する。コメントは2009年2月5日までに提出されたい。とりわけ、以下の質問事項に対するコメントが助けになる。

1. 過去5年から10年の間にIP市場はどのように変化したのか。将来にはどのような変化が見込まれるか。特許制度のいかなる側面がこのような変化を促進するのか。このような変化はイノベーションにいかなる影響を及ぼすか。
2. IPに関る新たなビジネスモデルとはどのようなものか。このようなビジネスモデルの発展を動機付けたものは何か。これがイノベーションに及ぼす影響は何か。
3. 侵害認定の後に永久差止め命令を認めるべきか否かを分析する際に、どのような経済上の証拠が関連するのか。裁判所はどのような証拠を要求したのか。この分析は、特許制度によってもたらされる技術革新インセンティブと競争の恩恵をいかに考慮にいれるのか。裁判所が侵害認定の後に永久差止め命令を認めなかった場合、適切な救済とは何か。
4. 特許の損害賠償に適用される法理論は特許権者を適切に補償するものとなっているか。特許権者を過大にあるいは過少に補償するものとなっていないか。このような問題の度合いについていかなる証拠が存在するか。賠償額が適切に特許権者を補償するものであるか否かを評価するうえで、いかなる情報が有益か。裁判所と陪審は損害賠償額の算定を十分正確に行えるか。特許侵害に対する賠償額の算定に問題が存在するとして、どのように対処すればいいか。
5. 故意侵害の法理における変更は、特許権者と被疑侵害者の行動にいかなる変化をもたらしたのか。最近の法の変更は2003年FTC IPリポートで特定した故意侵害法理への懸念に適切に対処しているか。
6. 過去5年に下された連邦最高裁とCAFCの判決によってもたらされた特許法の変更は、特許の価値にいかなる影響を及ぼしてゆくか。このような変更は、IP市場の機能にいかなる影響を及ぼすか。イノベーションと競争に及ぼす影響はどうか。
7. 特許の有効性と範囲に関する不確実性は、IP市場の機能にいかなる影響を及ぼすか。現行制度は、特許の告知機能を十分に果たしているといえるか。特許の価値とIP市場の機能に影響を及ぼす、かかる不確実性の元凶は何か。これに対処するために何ができるのか。
8. 現行IP市場における透明性はどうか。より透明にできるのか。それは望ましいことか。
9. 過去5年の間に、特許制度とIP市場の理解を促進した新たな学びとは何か。
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 最後に、FTCのウェブサイトに掲載された第1回ヒアリングのアジェンダより、特許売買・ライセンシングを含む新たなビジネスモデルについてディスカッションした、第1パネルディスカッションのパネリストを紹介しておきます。

PANEL 1: DEVELOPING BUSINESS MODELS
Panelists:
Mallun Yen, Vice President, WW Intellectual Property, Cisco Systems Inc.
Peter N.Detkin, Founder & Vice Chairman, Intellectual Ventures, Inc.
Daniel P. McCurdy, CEO, Allied Security Trust: Chairman, PatentFreedom, L.L.C.
Raymond Millien, founder PCT Companies and CEO, PCT Capital, L.L.C.
Brian Kahin, Senior Fellow, Computer & Communications Industry Association

⇒ FTCのヒアリング通知原文 http://www.ftc.gov/os/2008/11/P093900ipwkspfrn.pdf

(渉外部 飯野)

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