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2009.01.08

【世界の知財プロに聞く】第6回Boonma Tejavanija氏 (タイ弁護士)

世界各国から毎日のようにNGBを訪れる知財プロフェッショナルたちの素顔に迫るコーナー。
第6回は、タイのDomnern Somgiat & Boonma事務所でパートナーをしておられるBoonma Tejavanija氏にインタビューを行いました。

今回も、商標にスポットをあてたインタビュー内容となっております。

Q1. ご出身を教えて下さい。

歴史的な部分とユニークな文化が混ざり合う多民族の都市バンコクの出身です。生活費や居住費が安いため、日本の方なら快適な暮らしができることでしょう。効率的にビジネスを行うために政府、ビジネスオフィス、銀行などはここに集約されています。最近では、スカイトレインと地下鉄により効率的に渋滞が解消されたため、バンコクの郊外へ出ることも難しくなくなりました。バンコクはTravel & Leisure Magazine で2008年の世界最高の都市に選ばれています。
-> http://www.travelandleisure.com/worldsbest/2008/results.cfm?cat=cities

Q2. 知的財産の仕事に携わるようになってからどのくらいになりますか?また、主にどのような業務に従事してこられましたか?

31年間知的財産の業務に携わっており、主に商標コンサルティング、プロセキューション、ライセンス契約、侵害事件、訴訟などに従事してきました。

Q3. 学生時代は主に何を専攻されていましたか、またどのようなきっかけで知的財産の仕事に携わるようになったのですか?

ビジネス法が専門でした。私が現在の事務所に入所した当時、知的財産権は法学部の生徒だけではなく、ビジネスサークルでもあまり興味を持たれていませんでした。しかしながら、私はそれに興味を持ち、将来的に重要な役割を果たすと考え、この業界の専門家になることを決意しました。

Q4. 知的財産に対する(特に商標権)一般の方の意識はどうでしょうか?

知的財産権、特に商標に対する認識はタイの一般大衆だけではなく、産業、ビジネス、消費者、政府、役人、学者、裁判所の人々にも広がっています。タイの起業家などは、既存の知的財産権・商標を守りながらも国内外で使用できる独自の商標ブランドを創作しようと試みています。

Q5. 知的財産保護のための啓蒙活動は教育分野などで積極的に行われていますか?

はい、さまざまな分野で行われています。いくつかの大企業では知的財産部が設立されました。また、知的財産権コースが公立・私立の法科大学院のカリキュラムに組み込まれたり、国内・国外の機関や組織が知的財産庁と連携してセミナー、ワークショップ、シンポジウムを開催したり、ここ数年では、知的財産庁が侵害品不買キャンペーンなどを行っています。ちなみに、知的財産権の基礎は小学校や中学校で教えられています。

Q6. 今、タイで議論されている知的財産のトピックはなんですか?

PCT、マドリットプロトコル(数年内に加盟予定のため)、そして特許の強制実施権などです。特許の強制実施権の問題は、海外薬剤メーカーが登録している特許権(ガンやエイズの薬など一部の薬のみ)を使用することが特別に認められているものの、法律に定められている手順を踏まずに特許を使用するなど、特許権者に対する配慮が欠ける面があり問題になっていましたが、今ではきちんと手順を踏むようになり、この問題は解決しています。

Q7. WTO、パリ条約には加盟されていますが、マドリットプロトコルに加盟する見込みはありますか?

はい、加盟することを決定済みで現在は準備の最中です。知的財産庁によると、今後3年以内には加盟できる見込みです。その第一歩として、タイは今年の8月にパリ条約へ加盟しました。

Q8. 外国からの特許・意匠出願は活発ですか?また、どの産業に関する出願が多く出されていますか?

過去5年間の意匠出願ですと、日本が1番で、EUが2番、米国が3番となっています。特許では、EUが1番、日本が2番、米国が3番の出願件数です。出願の多い分野は、化学、工学、そして物理学関連のものです。

Q9. 日本の企業にタイで商標を登録することの利点について簡潔にアピールして下さい。

まず、登録された商品に対して独占的な使用権が与えられます。さらに、混同の可能性を示すことでこの範囲は類似商品にまで拡大されます。ライセンスに関して言えば、ライセンシーは登録された商標の方が安心して使用することができます。加えて、商標登録は異議申立ての根拠となります。水際措置に対して言えば、海外の商標登録に基づく対応も可能ですが、国内登録があればより説得力があり手続きが円滑に進みます。管理の面では、登録があれば実体審査において同一・類似の後願を排除できます。

Q10. 外国からのタイ語の商標出願は多いのでしょうか?また、タイ語の商標を登録する利点がありましたら教えて下さい。

海外から出願されるタイ語の商標は多くありませんが、いくつかの法律(薬事法、食料に関する法律、化粧品に関する法律)では主に人体に影響がある商品に対して、外国語に対応するタイ語訳の商標ラベルの貼り付けを義務付けています。そのような理由から、被侵害時などに法的手段を速やかに取れるようにタイ語の商標を登録されることをお勧め致します。尚、原則的には、商標は実際に使用されている態様または使用を意図している態様で登録される必要があります。

Q11. 著名商標の出願(申請)状況はどのような感じでしょうか?また、その制度は実用的な制度なのでしょうか(お勧めできますか)?

2005年8月1日の適用から181件の申請があり、そのうち70件が登録に至っています。申請が後になればなるほど審査基準が厳しくなることが予想されます。また、この著名商標の登録はプラクティスで役に立つはずです。例えば、登録することでタイにおいて有名である「一応の証拠」になるものとされています。

Q12. 模倣品対策について何かアドバイスを下さい。

侵害をやめさせるためには状況にもよりますが、監視、警告状、警察による取り締まり、水際措置、訴訟などによる対応が考えられます。侵害が発覚した場合には、まず企業の情報をすばやく調査してみて、会社の大きさを確認します。規模が小さければ交渉で解決できるかもしれませんが、大規模な企業の場合には難しいでしょう。また、すでに生産が始まっている場合などは生産ラインを停止したりする必要が出てくるため、侵害行為の停止が難しくなります。次に、直接対面して交渉するか、警告状を送るかを判断します。常習犯の場合は警告状では意味がなく訴訟になることが多くあります。このように状況に応じて柔軟に対応することが大事です。模倣品対策としては、警察による取締りが一番早く効果的に対応できる手段だと思います。訴訟は、差止命令が出るのも遅いため、実際にはあまり有効ではありません。

Q13. 国外の登録商標に基づき税関で模倣品の差し止めをすること、およびタイ国外 の登録商標と指定商品が同一の商品がタイ国内で販売されていた場合に、差止が可能とのことですが、著名商標制度を利用する場合と、タイ国外の登録商標を利用した対応の違いについて説明して下さい。

警察による取締り、裁判闘争、水際措置を実行するためには、海外又はタイ国内の商標登録が必要となります。水際措置の場合、税関はタイ登録商標の方を好意的に受け止め、対応が促進されることでしょう。刑事的な対応をする際には、タイ商標の方が抑止効果があると言えるでしょう。タイ登録商標の模倣は4年の禁固刑及び/又は400,000バーツの罰金が課せられ、偽物には1年半の禁固刑が課されます。それに対して、外国登録商標の場合、最大でも3年の禁固刑及び/又は6,000バーツの罰金が課せられ、偽物には4ヶ月の禁固刑しか課されません。民事訴訟では、暫定的な差止を求めることができますが、裁判官の裁量でまれに認められることがあるだけです。著名商標の効果も上記の内容とほぼ変わりません。しかし、悪意や混同の有無を立証するのに役に立ちます。

Q14. 意匠権や特許権侵害品は税関で押収することが不可能とのことですが、どのような対応策がありますか?

警察による捜査または裁判闘争になります。一見しただけでは侵害と判断できませんので、水際措置は不可能です。

Q15. お勧めの観光地を教えて下さい

お勧めの観光地は、バンコク、チェンマイ、プーケット、サムイ島、クラビ、そしてコーンケーンです。

Q16. 読者にメッセージがありましたらお願いします。

早めに登録されることをお勧めします。同一・類似の商品を指定商品とする同一・類似商標が出願公告された場合、異議申立を提起するべきです。そして、侵害に対しては、発生時に適切な手段を講じることです。

(意匠商標部 草野)

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