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2009.03.17

特許の存続期間延長制度の現状

  近年、知的財産制度を国際的に調和させる「国際的ハーモナイゼーション」の必要性が広く認識されるようになりました。いくつかの条約や協定により、徐々にではありますが、世界各国の知的財産制度の標準化が実現されつつあります。特許の存続期間(以下、「特許期間」と略称)については、1994年のTRIPs協定(1)の成立により、現在ではほとんどの国において、通常は出願日から20年の保護が与えられるようになりました。とはいえ、この「出願日から20年」という特許期間は、特許の性質や用途、あるいは権利者らの戦略により変わります。今回は、この“特許期間”に焦点を当てたいと思います。
  特許期間は、発明の「保護(独占)」と「利用」の調和点として設けられています。特許維持年金の支払いを行わないなど、権利者が自身の意思により特許期間を短縮することは、公共の利益にも繋がるため、とりわけ問題になることはないと考えられます。一方、特許期間が延長されることは、権利者らの利益にはなりますが、公益に反するものであり、利害の対立が生じます。しかし、公共の不利益を斟酌してでも特許期間の延長が認められる場合があります。特許製品を商品化するための公的認可を得るのに時間がかかるため、20年間の独占権を充分に享受できないという事態が生じている* と解される場合などです。以下では、特許期間延長に係る主要国の制度を概観します。

[日本における特許期間延長]
  日本において特許期間延長の対象とできる製品は、ヒトおよび動物用医薬品と、農薬です。これらは法令により規定されています。

 (特許法67条2項)
  「特許権の存続期間は、その特許発明の実施について安全性の確保等を目的とする法律の規定による許可その他の処分であって当該処分の目的、手続等からみて当該処分を的確に行うには相当の期間を有するものとして政令で定めるものを受けることが必要であるために、その特許発明の実施をすることができない期間があったときは、5年を限度として、延長登録の出願により延長することができる」

  ここで記されている「政令で定めるもの」は、特許法施行令において規定されています。現在は、薬事法に基づく承認・認証と農薬取締法に基づく登録が、「延長登録の理由となる処分」に挙げられています。(2) このように、一部の特許について特許期間の延長が認められていますが、延長される特許の範囲は、明細書に記載されている権利範囲の全てではなく、公的認可を受けた製品に係る部分であることに留意が必要です。そのため、延長が認められた権利部分の均等の範囲について、訴訟で争われることも少なくないようです。(次に述べる米国・欧州においても同様の事情があります。)

[諸外国における特許期間延長]
  米国において特許期間延長の対象とできる製品は、米国食品医薬品局(FDA)の認可を必要とする製品(ヒト用医薬品、農薬、食品添加物など)と動物用医薬品です。これらは日本と同様、法令により規定されています。この制度は、政府の規制により侵食された特許期間の回復を目的として創られた制度としては世界で初めてのもので、後に制定された日本や欧州の制度創設やその動きに大きな影響を与えたようです**。 さらに米国では、行政遅延を理由とした特許期間の延長も認められており、例えば、インターフェアレンス、秘密命令、特許審判部または連邦裁判所による再審理が理由として挙げられます。
欧州において特許期間延長の対象とできる製品は、日本と同様、ヒトおよび動物用医薬品と、農薬です。これらは、EC閣僚理事会規則により規定されており、補充保護証明書(SPC)制度が創設されています。この制度は欧州内各国で採用されておりますが、販売承認と同様、各国でそれぞれ申請を行う必要があります。そのため、延長が認められた特許の範囲は、各国において異なることとなります。とはいえ、特許期間の満了日は統一されており、欧州内の製品の流通に支障をきたすことはないようです。

  以上のように、それぞれの国において特許期間を延長する制度がそれぞれ運用されていますが、問題が無いわけではありません。例えば日本では、法の規定そのものが曖昧で不十分である*** との指摘がなされています。また、特許期間延長の制度についても標準化しようとする動きがあるようですが、一方ではその必要性に懐疑的な意見も散見されます。世界的には、上記に述べたような権利範囲に係る訴訟の他、非権利者によって行われる公的認可を受けるための実験が、権利侵害にあたるかを争点とした訴訟も多数なされています。特許と関わるにあたり、ある特許の存続期間や生死はとても大きな関心事項でありますが、マクロ的な視点でみると、特許期間に係る制度の動向も注目に値する問題であると思われます。今後の特許期間延長制度の動向に、関心がよせられます。

(1) 「知的財産権の貿易関連の側面に関する協定」。WTO設立協定の付属書として成立。この協定の特徴の1つとして、加盟国が遵守すべき知的財産権保護の最低基準(ミニマム・スタンダード)を明確化していることが挙げられており、第33条において、特許期間は少なくとも出願日から20年以上であることが規定されています。

(2) この点につき、「平成11年改正 工業所有権法の解説」などでは、医薬品及び農薬品と同程度の期間を要するものが生じた場合には、随時特許法施行令を改正して延長登録の対象とする と述べられており、医薬・農薬以外の特許発明にも、特許期間延長の可能性が開かれてはいるようです。

[引用・参考資料]
* 青山葆,「AIPPI ウィーン執行委員会報告 議題130:特許期間の延長―種々の概念」,『AIPPI』42-8,1997
** 国際委員会,「各国における特許期間延長制度」,『特許管理』41-10,1991
*** 三枝英二,「特許権の存続期間の延長登録出願―2度目以降の製造承認に基づいて延長登録を受けることができるか―」,『知財管理』58-7,2008
竹田和彦,『特許の知識〔第8版〕-理論と実践』, 2006
土肥一史,「特許権の存続期間の延長制度と医薬品の製造承認」,『AIPPI』42-11,2006
特許庁総務部総務課制度改正審議室,「平成11年改正 工業所有権法の解説」,特許庁ホームページ
松居祥二・青木高,「特許制度の国際的整合化と医薬品分野の特許権期間延長制度に見られる非整合」,『AIPPI』53-6,2008
William T. Christiansen II/Shoko Leek(訳),「医薬品の特許権存続期間延長制度及び医薬品販売許可のための特許発明の試験的実施の日米欧の比較」,『AIPPI』42-11,1997

(IP総研・研究員 木村芙美子)

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