IP NEWS知財ニュース

  • 知財情報
  • アーカイブ

2009.05.18

【最近よくあるご質問】 中国特許裁判事情:シュナイダー事件について

お客様から頂いた各種お問合せに対し、渉外部員が当社担当部門の協力を得て、お答えします。

今回は久しぶりに、中国における権利行使の実態を取り上げます。稀にみる高額な損害賠償支払い命令が下されたことで各界の注目を集め、つい先日和解を以って決着を見るに至った、正泰 vs シュナイダー事件について、主な論点をご紹介したいと思います。
なお、シュナイダー事件の経緯・概要については[今月のIPR]をご参照下さい。

権利の種別と“強さ”
賠償額が日本円にして50億円という破格な一審判決を耳にしたとき、多くの人の頭に最初によぎったであろう疑問 – 実案なのに!? まず、中国の特許法等においては、権利の種別(特許・実案・意匠)によって行使の範囲に制限(訴訟における請求額の多少)が設けられていることはありません。現実には、賠償額を裁判官が裁量で決めることが多く、その際には権利の種別も考慮されているようですが、少なくとも条文に明記されていることはありません。ここで、本年10月に施行される改正特許法第65条をご紹介します。同条では損害賠償額を算定する根拠として、下記の優先順位が設けられました。

 1.権利者が被った実際の損失
 2.侵害者が得た利益(1の確定が困難な場合)
 3.ライセンス料の倍数(1~2の確定が困難な場合)
 4.裁判所の裁量(1~3の確定が困難な場合)

シュナイダー事件が争われた当時は当然上記の優先順位が法定されてはいませんが、同事件において裁判所は「侵害者が得た利益」を根拠として50億円という賠償額を算出しています。もちろんその算出方法の合理性については今後も議論が続けられていくことでしょうが、権利者の損失 and/or 侵害者の利益が合理的に算出できる場合には、行使される権利が実案であっても意匠であっても、特許と変わらない額の損害賠償が命じられる可能性が今後ともあります。

裁判管轄(地区)
原告である正泰集団は、自らの地元の地方裁判所(温州市中級人民法院)に提訴しましたが、この点、正泰の周到な計画が垣間見えます。即ち、損害賠償請求訴訟の裁判管轄は、侵害の発生地または被告の所在地にある裁判所にありますが、当初シュナイダー社と共に被告として訴えられていた販売会社は、正泰と同じ温州裁判所の管轄地区に属します。この第2の被告である販売会社は、裁判が係属している間、原告によってその侵害行為が証明されることはありませんでした。

裁判管轄(訴額)
地域的裁判管轄のみならず、事物管轄においても正泰の作戦勝ちと思われる節があります。一般に、裁判所の規模に応じて扱える事件の内容が定められていますが、中国においても50億円という請求額は、地裁の管轄権を遥かに上回っています。この点、正泰は提訴時点の請求額を低く抑えて管轄を温州中級人民法院に確保した後、被告の得た利益が判明したことを理由に、請求額を50億円まで増額しています。この時点で被告のシュナイダー社は事件を高等裁判所へ移送することを主張しましたが、この訴えは黙殺されたまま地裁で審議は続けられました。今回の和解によって、地裁が本件の管轄権を正当に持っていたのかどうか明らかにされることの無いまま、事件は幕を閉じることになります。

さて最後に、興味深い調査結果を。
中国特許庁サイトの検索ページを使って調べた、シュナイダー社の特許公開件数・実案登録件数の推移を、下のグラフに示します。ご覧のとおり、2008年以降極端に件数が増加していますが、注目すべきは、実用新案の件数増でしょう。従来は気にもとめていなかった(?)実案ですが、正泰に実案で訴えられた2006年8月から一審判決の出た2007年9月にかけて、大きな方針転換を行った様子がうかがえます。

(渉外部 柏原)

シュナイダー社中国特許公開・実案登録件数
(2009年は5月13日発行分まで)

関連記事

お役立ち資料
メールマガジン