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2010.02.26

【Cases & Trends】米最新判例紹介:侵害教唆の範囲を拡大する(?)新要件 – 特許リスクへの「故意の無視」

 日本国内で販売した自動車部品が完成車に搭載され、米国に輸出された後、部品に関する米国特許を有するという権利者から侵害警告状あるいは訴状が届く……。部品メーカーや素材メーカーにとっては基本的に日本国内で完結した取引であるにもかかわらず、「米国特許の侵害を誘発する事実を認識しつつ積極的に侵害を教唆した」という理屈により、米特許法(35 USC 271(b))の手が及んでくる「侵害教唆・幇助」の法理については、以前本シリーズでも事例を通じてご紹介しました(『米最新判例紹介:間接侵害(侵害教唆)に関するCAFC大法廷判決』 DSU Medical Corp. v. JMS Co., Fed. Cir., 12/13/06)。
 今回ご紹介するのは、まさにこのDSU判決を踏まえ、侵害教唆の要件についてさらに踏み込んだ最新CAFC判決です(SEB S.A. v. Montgomery Ward & Co., Fed.Cir., 2/5/2010)。同判決においてCAFCは、被告が問題の特許について認識していたという直接的証拠がない場合であっても、当然認識しうる特許リスクについて故意に無視したことを立証できれば、特許に対する認識要件を満たすことができると判示しました。本件については他にいくつかの争点が存在しますが、以下、侵害教唆の認識要件に焦点を当てて紹介します。
[事実概要]
 原告SEB S.Aはフランス法人であり、間接子会社であるT-Fal Corp.(ティファール)を通じて、家庭調理器具を米国で販売している。SEBは電熱調理器具に関する特許(USP 4,995,312)を保有している。この’312特許は、安価なプラスチックの外殻を有する天ぷら鍋をクレームしており、外殻と金属の鍋部分に空域を設けることにより、材料費を抑えることができる。被告Pentalpha Enterprises, Ltd.は香港法人であり、別の被告Global-Tech Appliances, Inc.の子会社である(以下、両被告を併せて「ペントアルファ」と呼ぶ)。
 1997年、ペントアルファは訴外Sunbeam Products, Inc.(「サンビーム」)向けに天ぷら鍋の販売を開始した。天ぷら鍋の開発に先立ち、ペントアルファは、SEB製天ぷら鍋を香港で購入し、その「cool touch」特徴をコピーした。サンビームへの供給契約締結後間もなく、ペントアルファはニューヨークの弁護士から「使用権利検討書(right-to-use study)」を取得した。この弁護士は26件の特許を検討し、ペントアルファの天ぷら鍋はこれら特許クレームのいずれにもカバーされない、と結論付けた。しかし、このときペントアルファは、SEBの天ぷら鍋をコピーした事実は弁護士に告げていなかった。サンビームは、ペントアルファの天ぷら鍋を自身の商標”Oster”および”Sunbeam“名で再販した。
 1998年3月10日、SEBは’312特許侵害を主張してサンビームをニュージャージー地区連邦地裁に提訴した(「サンビーム訴訟」)。同年4月9日に、ペントアルファはサンビーム訴訟について通知を受けた。この訴訟は和解で終結し、サンビームがSEBに対し2百万ドル支払うことで合意した。
 ペントアルファは、サンビーム訴訟について知った後に、同じ天ぷら鍋を被告Montgomery Ward Co.(「モントゴメリー」)に販売した。ペントアルファによる天ぷら鍋の販売は、香港または中国から「本船引渡し(f.o.b.)」条件で出荷された。
 1999年8月、SEBは ‘312特許侵害を主張して、モントゴメリーとペントアルファをニューヨーク南部地区連邦地裁に提訴した。同年9月10日、SEBは仮差止め命令を求める申立てを提出した。クレーム解釈ヒアリングを実施した後、地裁は、SEBの仮差止め命令申立てを認容した。被告の控訴に対しCAFCは地裁命令を確認した(Fed.Cir. 2000)。そこで、ペントアルファは天ぷら鍋の設計を変更した。しかし、地裁は、設計変更後の天ぷら鍋に対しても仮差止め命令を及ぼす命令を下した。2006年、陪審は、ペントアルファがそのオリジナルおよび変更後の天ぷら鍋により’312特許を故意に侵害したこと、また、他者に’312特許の侵害を教唆・幇助したことを認定した。損害賠償額については、合理的実施料相当額として合計465万ドルを算定した。
 地裁は、ペントアルファの申立てに応じ、実施料相当額を200万ドル減額し、最終的な損害賠償額を487万8,341ドルと算定したが、ペントアルファのその他の請求は却下した。また、SEBが求めた増額賠償と弁護士費用負担は認めなかった。両当事者ともにCAFCに控訴。

[判決要旨] - 原判決確認
侵害教唆
 ペントアルファは、同社が天ぷら鍋をサンビームに販売していた関連期間中、同社は本件特許について現実に認識していなかったと主張して、地裁判決の誤りを指摘した。
 特許法第271条(b)項は次のように規定する: 『特許の侵害を積極的に教唆・幇助する者は、侵害者としての責を負うものとする』
 本件陪審評決の後に下されたDSU Medical Corp. v. JMS Co.事件判決(Fed. Cir. 2006)において当裁判所は、侵害教唆の認定を裏付けるために必要な当事者の「意思」について扱った。同事件において、「原告は、被疑侵害者が、自らの行為が現実の侵害を誘発することを知っていた、または知りうべきであったことを証明しなければならない」というルールを当裁判所は示した。さらに当裁判所は、「被疑侵害者が、自らの行為が現実の侵害を誘発することを知っていた、または知りうべきであったという要件には、被疑侵害者が当該特許について知っていたという要件が必然的に含まれる」と述べた。しかしながら、そのときの当裁判所の意見は、「特許に対する認識」要件の境界線を設定したものではない。
 DSU Medical事件の事実背景においては、当裁判所が、被疑侵害者の意思を認定するための「認識要件」の範囲について扱うことは求められなかった。……ミシェル主席判事が補足意見で触れている通り、DSU Medical事件の記録は、被疑侵害者が、当該特許について現実に認識していたことを示している。「したがって、『特許に対する認識』は争点として提示されていなかった」。
 しかしながら、当裁判所は、侵害教唆には「他者の侵害を奨励する明確な意思(specific intent)」の証明が要求されることを明らかにした。他の裁判所も述べている通り、民事訴訟における「明確な意思」とは、不法行為者が(その違法行為要素の存在について)認識されるリスクを積極的に無視することを許すほど範囲の狭いものではない。Crawford-EL v. Britton,(DC Cir. 1991)他参照。
 ……侵害教唆の請求は、被疑侵害者が当該特許を現実に知っていたことの直接的証拠を、特許権者が提出していない場合であっても成立しうる。本件はまさにそのようなケースである。SEBによる特許保有という認識可能なリスクをペントアルファが故意に無視した、という結論を裏付ける十分な証拠が本件記録には含まれている。陪審は、ペントアルファがSEB製天ぷら鍋を香港で購入し、装飾以外はすべてコピーしたことの証拠を提示されている。……本件記録はまた、ペントアルファが弁護士を雇い、使用権利(可能性)検討を実施したものの、SEB製品に基づいて自社製品を作ったことは弁護士に告げていないことを明らかにしている。コピー行為を弁護士に知らせなかったことは、多くの状況において「故意の無視」を強く示唆するものといえる。さらにペントアルファの社長は、自身が29件の米特許の発明者であり、以前ペントアルファの特許対象スチーマ製品についてSEBと取引関係があったことなどを証言し、アメリカ特許に精通していることを示している。このように本件記録は、故意の無視を証明する多くの証拠を含んでいる。
 ペントアルファは、これらを覆せるような証拠を提出していない。前述の通り、故意の無視に基づく認識の証明対しては、被疑侵害者が被疑製品をカバーする特許が存在しないと現実に信じていたことを示すことにより覆すことができる。しかしペントアルファは、同社や同社従業員がSEBの特許が存在しないと実際に信じていたとは主張していない。
 本件における当裁判所の意見は、侵害教唆に必要な認識のタイプの限界点を確立することを意図するものではない。例えば、特許権者は、Insituform判決が示すように、明確な特許表示を無視したことの証拠により、特許法287条(a)項の擬制通知要件と同様の、「擬制の認識(constructive knowledge)」を証明することで足りるであろう……。
 本件記録は、「ペントアルファが、SEBが当該天ぷら鍋を対象とする特許を保有しているリスクを故意に無視した」という結論が十分に裏付けられていることを示している。したがって、陪審による侵害教唆の認定は妥当でる。
 以上の理由により、原判決は確認された。

判決原文 ⇒ http://caselaw.lp.findlaw.com/data2/circs/fed/091099p.pdf

(渉外部/事業開発室 飯野)

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