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2010.05.15

保刈宏之

■特許/5 U.S.C.§706自明性の事実認定における実害のある瑕疵の認定

(In re Andrew Paul Chapman and David John King, CAFC, 2/24/10

 発明が自明であるかは、内在する事実の認定に基づく法律問題であり、すなわち、(1) 先行技術の範囲と内容、(2) 先行技術に関する通常の技能水準、(3) クレーム発明と先行技術の相違点、および(4) 非自明性に関する客観的証拠、に関する認定を要する。非自明性の推定が特に強力になる場合とは、通常の技能を有する者がなぜ既知の要素を組み合わせるかに関して提示されるその根拠を、先行技術の教示が損なう場合であり、先行技術があるクレーム発明を教示しないかどうかは、事実の問題である。
 先行技術の範囲と内容に関する事実認定が、実害のない瑕疵に該当するかに関しては、行政手続法の司法審理に関する条項によるものとし、その規定は、地裁から発生した場合に適用されるのと同様に、審判部に対する控訴に適用される。瑕疵が有害であることの証明責任は行政庁の判断を攻撃する当事者にあり、単に瑕疵の存在を証明するだけでなく、事実上、その瑕疵は実害があること、当事者の実体的な権利に害を与えたこと、不利益が生じたことに関して、証明する責を負う。
 本件における行政庁の瑕疵に関して、第一に、先行技術が二つの一価のFab’フラグメントからなるダンベル型の抗体構造とそれらをポリマー分子経由で結合することを教示しているか否かに関して、審査官と控訴における行政庁は見解が異なり、第二に、先行技術が記述する抗体、結合状態、ポリマーの果たす役割に関して、審判部と審査官の見解が異なり、行政庁は出願人の解釈が正当であると認めており、第三に、抗体フラグメントの特徴に関して、審判部の説明と行政庁の認定に相違があり、先行技術は、六つの異なる可能な抗体フラグメントであるF(ab)、F(ab’)、F(ab’)-SH、F(ab’)2、scFv、およびFvを教示しており、当事者が同意するように不正確である。
 行政庁は上記の瑕疵に実害はないと主張しているが、出願人としては、自明性を根拠に誤って特許を否定される恐れが増大する以上、これらの瑕疵は実害があるものと判断される。審判部審決が、先行技術の誤った解釈を根拠としているならば、その自明性に関する判断は、問題を生じる。第二の瑕疵に関する審判部の誤解は、先行技術が実施例において、F(ab’)2フラグメント中の軽鎖と重鎖を結合するポリマーの使用を教示しているかに関しており、出願人による二つのF(ab’)フラグメントを結合するポリマーの使用は、おそらく自明ではない可能性がある。第三の瑕疵に関して、審判部が、先行技術に開示された抗体フラグメントの完全な範囲を評価していないのであれば、出願人による分子を形成するフラグメントの一つの選択肢は、自明であるという最終的な結論に自信を持てない。けだし、選択する対象として、より多くの可能性が存在するからである。これらの瑕疵はないことについて、審判部は同一の結論に達したという自信があるとは言えないため、確かに実害のある瑕疵であると思量される。

事実概要
 本件の技術は、二価抗体フラグメントに関する。抗体は、アミノ酸から作られるタンパク質であり、さらに、免疫反応の一部として、抗原を不活性にするために抗原と結合する。抗体の基本的な機能単位は、「Y」字型であり、2種類の軽鎖と2種類の重鎖がある。後掲図Figure 1参照。
図に示されているように、Y字型の各々のアームは、一本の軽鎖と一本の重鎖により形成されている。二本の鎖は、ジスルフィド架橋として知られる化学結合によって結びついている。Y字型の二本の「アーム」もまた、ジスルフィド架橋によって結びついている。ジスルフィド架橋(図上のS-S部分)は、アミノ酸システインの各側鎖にあるチオール基(-SH)と硫黄原子2個との共有結合によって形成されている。Y字型の各枝の上端は、抗体の可変領域(V領域)であり、抗体が抗原と結合する場所、すなわち抗原結合部位である。
 全抗体は、特定の診断や治療の用途には理想的といえるものではないが、それは、組織の分散を抑制するそのサイズが理由である。さらに、抗体の長い半減期は、診断の精度に影響を与えることがあり、さらに毒性を生じる可能性がある。抗体フラグメントは、血液から各組織に対して、さらに急速に拡散されるので、全抗体よりも、上記の用途として好ましい。抗体フラグメントは、血液循環からより速く除去され、ゆえにその半減期はより短いので、全抗体にとっても好ましい。
 抗体フラグメントは、特殊な酵素を使用して、抗体を消化することによって産生される。抗体が消化酵素ペプシンによって消化されるとき、その酵素は、F(ab’)2フラグメントを産生する「Y」字型の「柄」を除去して、「Y」字型の「アーム」の直下にある抗体を開裂する。これは、後掲図Figure 2に示されている。
 F(ab’) 2フラグメントは、二つのFabフラグメントからなり、ヒンジ(蝶番)領域で結合され、ダンベル(亜鈴)型をしている。また、それは「二価」であると記述されており、二つの抗原結合部位をもち、各アーム端に一つずつ有する。尚、単一のFabフラグメントは一価であり、唯一の抗原結合部位を有する。Fabフラグメントは、フラグメントのヒンジ領域に、少なくとも一つのシステイン残基を有するとき、Fab’として指定される。前掲図Figure 1のヒンジ領域を参照。Fab’フラグメントは、システイン残基が遊離チオール基(-SH)を有するとき、Fab’-SHとして表示される。F(ab’) 2抗体フラグメントが、消化酵素ペプシンによって消化されるとき、二本のアーム間のジスルフィド架橋が破壊され、二つの分離したFabフラグメントが形成される。
 Andrew Paul ChapmanとDavid John King(以下、Chapman)の出願第09/719,045号が対象とするのは、二価の抗体フラグメントであって、抗体の二本の重鎖と、各鎖に部位特異的に重鎖と結合された少なくとも一つのポリマー分子からなるものである。とりわけ、Chapmanが教示しているのは、二つの分離したFabフラグメントと除去されたそれらの軽鎖を組み合わせることであって、少なくとも一つの共有結合したポリマーを含む鎖間架橋を使用している。この鎖間架橋は、一つの重鎖にあるシステイン残基の硫黄原子と、他の重鎖にあるシステイン残基の硫黄原子を、介在するポリマーを経由して間接的に結合するのであって、ジスルフィド架橋を経由して結合される鎖を有するのではない。クレーム1が代表的なクレームであって、その他のすべてのクレームは、クレーム1に従属している。抵触審判部は、クレーム2から10、12、13、および15が、クレーム1に属すとして、それらの特許性に別々の根拠が提示されていないとし、37C.F.R.§41.37(c)(1)(vii)を引用した。そのため、唯一クレーム1だけが、後の控訴で審理される。クレーム1に記述されている介在ポリマーは、抗体フラグメントの「循環半減期を延長するのに実効的な」ものとして特徴付けられている。Chapmanの発明は、二つのフラグメントについて、ポリマーを含む鎖間架橋で結びつけることに関しており、ゆえに、循環半減期が、 ある特定のフラグメントの半減期とある全抗体のそれとの中間的なものになるようにしている。  Chapmanは、そのクレーム中の抗体フラグメントについて、審査官が、「ダンベル型」であると特徴付けたのを争っていない。
 米国特許第6,025,158号(以下、Gonzalez)は、Chapmanの出願に対する先行技術である。Gonzalezは、抗体フラグメントをポリマーに結び付けて抗体の循環半減期を延長し、治療目的とすることについて記述している。Gonzalezが言及する先行技術の確立したことによると、ある特定のポリマー、例えば、ポリエチレン・グリコール(「PEG」)は、「Fab’フラグメントのヒンジ領域中のスルフヒドリル基に結び付けられており、親のFab’分子に比較してクリアランスを低下する」としている。Gonzalezが開示しているのは、とりわけ、単一の抗体フラグメントであって、あるポリマーに結合されている。また、ある「ダンベル型」構造であって、ポリマーによって結びつけられている二つの抗体フラグメントから形成されたものである。さらに、「ロゼット」またはその他の形状の構造であって、あるポリマーによって結びつけられている二つよりも多くの抗体フラグメントからなるものである。また、Gonzalezは、抗体フラグメント – ポリマー共役結合のプレパレーションを教示している。そこで特定しているFab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’) 2、scFv、およびFvは、抗体フラグメントの可能な選択肢であるとしており、また、PEGは、潜在的なポリマーであるとしている。Gonzalezは、そのポリマーを特定のアミノ酸残基か特定の領域に結びつける方法を教示しており、その実施例において、ジスルフィド結合を使用しない例を教示している。Gonzalezは、結合部として、システイン残基を優先することを教示している。Gonzalezは、抗体フラグメントのヒンジ領域中のシステイン残基を優先することを教示している。Gonzalezの開示によると、その唯一の完全な実施例において、PEGにFab’重鎖のヒンジシステインを結合して、Fab’-PEG共役結合を形成するとしている。
 Chapman同様、Gonzalezの開示は、ポリマーと抗体フラグメントの結合が、結合されたポリマーを要することなく、全抗体と個別のフラグメントの中間的なクリアランス率を達成するとしている。米国特許第5,436,154号(以下、Barbanti)も、Chapman出願の先行技術である。Barbantiは、抗体の使用を生体内治療について記述している。
 審査官の拒絶理由によると、
(中略)
 審判部は、最終的に審査官に同意して、Gonzalezは、技能を有する当業者がクレームされたヒンジシステインを利用するよう導くものであって、そこにおいてポリマーを結合することをGonzalezは選好しているからであるとした。特に、審判部が留意した点は、PEGをFabのヒンジ領域に結合させることは、親のFab’分子に比較してクリアランスを低下させることを証明する先行技術について、Gonzalezが言及していることである。さらに、審判部は、Gonzalezが、ポリマーが重鎖のヒンジシステインに結合される完全な実施例を開示している点を強調している。これらの開示に基づいて、審判部は、以下のように認定した。
(中略)
 Gonzalezの教示は、ダンベル型の構造に関して、その生成方法に関してそれ以上指導することなく、ヒンジ領域のシステインに共役結合したポリマーと安定したFab’フラグメントの開示を併せて、通常の技能を有する者に対して、かかるFab’フラグメントが、二官能性リンカーを使用して、ポリマーに容易に結合されうることを示唆しており、それは、ダンベル型の抗体構造(FF 8)を述べる際に、明確にGonzalezが記述していることである。
 PEGをリンカーとして使用して、Fab’フラグメント同士をヒンジシステインに結合することによって、技能を有する当業者は、Chapman発明に辿り着くことになる。審判部は、GonzalezがChapmanのクレームする分子を教示していないとするChapmanの議論を斥け、さらに、審査官は許容されない後知恵によって、Chapmanのクレームする発明に辿り着いたとするChapmanの議論も拒絶した。Barbantiに関して、審判部は、血中半減期を延長し(そのクリアランス時間を低下させ)、それによって治療効果を上げるために、Barbantiのクレームする抗体フラグメントとPEGとを修正することは、当該技術の技能を有する者が、合理的なことであると思量するであろうと判断した。Chapmanが請求した再審理において、審判部は、自明性の認定を維持した。本件は、控訴に持ち込まれた。連邦巡回区控訴裁判所は、裁判所および裁判手続に関する法律第1295条(a)(4)(A)、および特許法第141条に基づいて、裁判管轄権を有する。

取消し、差戻し

判旨

以下、I.P.R.誌第24巻3号参照

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