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2010.07.23

柏原 雄人

【Cases & Trends】 米最新判例: 商標ライセンサーの倒産とライセンス契約の扱い – 「未履行契約」の判断

 昨今の厳しい経済情勢を反映し、アメリカの知財(IP)論壇では、『IPライセンサーが倒産した場合の対応(予防法)』や『破産会社からのIP資産買収』(*ウォールストリート・ジャーナルは「いま最もホットなM&A活動の場」と紹介している)など、企業の倒産と知財をめぐるトピックが頻繁にとりあげられています。実務上も、とりわけ「現在特許ライセンスを受けている米国の特許権者(ライセンサー)が倒産手続きを申請する懸念」をもっている我が国企業も少なくないと思われます。
 特許など知財ライセンスにおいて、かつてはアメリカのライセンサーが倒産すると管財人が広範な裁量権をもって契約の履行を拒絶できる(ライセンス関係が一方的に遮断されてしまう)といった問題がありましたが、1988年の連邦倒産法改正により、ライセンシーの保護が図られています(連邦倒産法第365条(n); ライセンシーが選択する場合、契約上の権利を保有し続けることができる)。しかし連邦倒産法はこの規定における「知的財産」の定義に特許や意匠、トレードシークレットなどを含めているものの、商標が含まれていません。
 そこで今回は、正に商標ライセンス契約における商標ライセンサーの倒産手続き(連邦倒産法第11章に基づく会社更生手続き … いわゆる「チャプター・イレブン手続き」)をめぐる最新判例をとりあげ、商標ライセンサーの倒産によるライセンス契約の取り扱いについて探りたいと思います。
(In re Exide Technologies, 3d Cir., 6/1/2010)
事実背景
商標ライセンス契約
 1991年6月、Exide Technologies社(「エキサイド」)は控訴人EnerSys Delaware, Inc.(「エナーシス」)にエキサイドの産業用バッテリー事業を約1億3500万ドルで売却することで合意した。売却資産には、生産プラント、機械、在庫品、知的財産が含まれており、23の契約が締結された。このなかでも、「商標・商号ライセンス契約」、「資産購入契約」、「管理サービス契約」、「レターアグリーメント」の4つの契約が本件論争対象となっている(本件初期段階において裁判所は当該4件の契約を、ひとつの一体化された契約と認定したため、以下これらを併せて「本契約」と称する)。
 本契約により、エナーシスは産業用バッテリー事業向けに ”Exide”商標を使用する無償の排他的ライセンスを受けた(エキサイドは、産業用バッテリー以外では “Exide”商標を使用することを望んでいた)。この後約10年間、両者の関係は良好であった。しかし、2000年に入るとエキサイドは北米での産業用バッテリー事業の再開を希望し、エナーシスとの間で締結していた「10年の競合禁止契約」の早期解約合意をとりつけた。エキサイドはさらにコーポレート・イメージ統一のため、 “Exide”商標の返還を求めたが、これはエナーシスが拒否した。
 エキサイドはGNB Industrial Battery Companyを買収してバッテリー事業を再開したが、上記の事情により ”Exide”商標を使えないまま、エナーシスと直接の競合関係を続けた。
 2002年になり、エキサイドは連邦倒産法第11条に基づく会社更生手続きをデラウェア破産裁判所に申請した。そこでエキサイドは、”Exide”商標を取り戻すべく、本契約の拒絶を求める申し立てを裁判所に提出した。

破産裁判所および連邦地裁における手続き
 2006年4月3日、破産裁判所は、本契約の履行拒絶を求めるエキサイドの申立てを認容する命令を下した。裁判所は、本契約を、連邦倒産法第365条(a)の「拒絶」に服すことになる「未履行契約(executory contract)」と判断し、本契約を拒絶することにより、エキサイドが本契約に基づいて負うべき義務が消滅する、と述べた。3ヶ月後の7月11日には権利移転計画を承認し、エナーシスの執行停止申立てを否認した。エナーシスは破産裁判所命令を不服とし、デラウェア連邦地裁に控訴したが、2008年2月27日、地裁は破産裁判所の命令を追認した。
 エナーシスは以下2点を主張して、地裁の命令に対し連邦第3巡回区控訴裁判所に控訴した。
1)本契約を未履行契約と判断した点、および2)本契約の拒絶により、契約に基づくエナーシスの権利が消滅したと判断した点、に地裁の誤りがある。
 
判決要旨
  - 原判決取り消し・差し戻し
未履行契約
 連邦倒産法第11章の背景にある政策は、「債務者に対する究極の再生手続き(を提供すること)」である。したがって本法は、占有を継続する債務者(debtor in possession)が、「裁判所の承認の下に、…債務者の未履行契約または期間未了の賃貸借…の履行を拒絶」することを認めている(11 USC 365(a))。しかし、この法は「未履行契約」について定義していない。本法の立法経過によれば、「ある程度の履行義務が契約両当事者に存在している」契約、という意味を持たせようとした議会の意図が見てとれる。
 このような議会の意図を踏まえ、当裁判所は以下の定義を採用している。「未履行契約とは、倒産側当事者と他の当事者の契約義務が履行されていない状態にあり、いずれか一方の当事者が履行しない場合は、他方当事者による不履行(履行拒絶)が許されるような、重要な契約違反を構成することになる契約をいう」 In re Columbia Gas 50 F.3d 239 「したがって、履行しない場合に重要な違反となるような義務を両当事者が履行していないことがない限り、その契約は第365条でいう未履行契約とはいえない」(前出)  契約の履行を拒絶しようとする当事者側が、当該契約が未履行契約であることを証明する責任を負う。そして、「両当事者に、未履行の重要な義務が存在しているか否かを判断する時点は、倒産申請が提出されたときである」(前出)  最後に、この判断をする際に、裁判所は「倒産法以外の関連法に基づき契約原則について検討する」(前出)(In re DataComm, 407 F.3d at 623) 本件においては、本契約の準拠法とされるニューヨーク州法が倒産法以外の関連法を提供することになる。
 したがって当裁判所が検討すべきは、2002年4月15日時点で、本契約がエキサイドとエナーシスの双方にとって少なくともひとつの義務 – この義務を履行しない場合ニューヨーク州法に基づき重要な契約違反を構成することになるような義務 – を含んでいたか否かということになる。含んでいないのであれば、本契約は未履行契約ではないということになる。
 ニューヨーク州法の下では、「他方当事者が自らの履行を停止することを正当化しうるような重要な違反とは、「契約取引全体の目的を損ねるほど実質的な違反」をいう。Lipsky v. Commonwealth United Corp., 551 F.2d 887 (2d Cir. 1976)。 ただし、違反当事者がその違反をする前に「実質的な履行をしていた(substantially performed)」場合、「他方当事者の履行が免除されることにはならない」Hadden v. Consolidated Edison Co., 312 N.E.2d 445 (N.Y. 1974)……。
 本件において破産裁判所は、いずれかの当事者が実質的な履行をしていたか否かを適切に検討したとはいえない。本件記録を調べたところ、エナーシスが実質的履行をしたことが明らかである。前出Hadden事件の比較考量テストを適用すれば、エナーシスがなした履行は残る履行義務を上回るものであり、契約当事者が享受した利益の程度は実質的(substantial)なものである。とりわけ、エナーシスは、買収額1億3500万ドルの全額を支払い、10年以上にわたり本契約に基づき運営してきたことにより実質的な履行を果たしたといえる。エナーシスは1991年以降産業用バッテリーを製造し、本契約に基づき移転されたすべての資産(不動産、不動産リース、在庫、設備・装置、商標”Exide”の使用権など)を使用してきた。さらにエナーシスは、買収した事業範囲内のエキサイドの負債を引き受けるという実質的な利益をエキサイドに提供している。
 エキサイドは、現存するエナーシスの未履行義務が、すでになされた履行を上回ると主張し、以下4点の義務を指摘する。1)品質基準規定を満たす義務、2)使用制限、3)補償義務(Indemnity Obligation)、および4)さらなる保証義務、を遵守する義務。
 エキサイドの主張は受け入れられない。これら4つの義務がエナーシスによって果たされた実質的履行と与えられた契約上の利益を上回るとはいえない。……品質基準規定を遵守するというエナーシスの義務は、各バッテリー製品に付されるマークの基準に応ずることを要求するものであって、産業用バッテリー事業の移転に関連するものではなく、あくまでマイナーなものに過ぎない。さらに、エキサイドがエナーシスに対し何らの品質基準も提示していないことが記録から明らかとなっている。事実、両当事者は品質基準について話し合いをもった形跡も見られない……。
 以上の理由により、本契約は、エナーシスが負うべき少なくともひとつの重要な義務を現時点において含むものでないため、未履行契約ではない、と当裁判所は判断する。未履行契約でない以上、エキサイドはこれを拒絶することはできない。したがって、当裁判所は地裁の命令を取り消し、地裁が本件を破産裁判所に差し戻すよう、本件を地裁に差し戻す。

* 本判決においては、Ambro判事が提出した補足意見が連邦倒産法と知財ライセンス・商標ライセンスの関係を司法と立法の両面から歴史的、教科書的に説明しており、いい勉強になるのですが、紙幅が足りませんので次の機会にご紹介したいと思います。関心のある方は原文をご参照ください。
⇒ http://www.ca3.uscourts.gov/opinarch/081872p.pdf

(渉外部/事業開発室 飯野)

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