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2010.09.15

■特許/28U.S.C.§1404(a)/裁判地移送請願を認容判断する要素

(In re Zimmer Holdings, Inc., et al., CAFC, 6/24/10)

 移送を受ける裁判地が、「明らかにより便益がある」かを判断する際、便宜的ではない法廷地を証明するために、「公共」と「個人」の要素を適用する。「個人」の利益の要素は、(1) 証明の情報源にアクセスする際の相対的な容易さ、(2) 証人出席を確保するための強制的手続の可能性、(3) 自発的な証人出席の費用、および(4) 事実審を容易に、迅速に、廉価にするその他の実務上の問題点のすべて、が挙げられる。公共の利益の要素は、(1) 裁判予定過密から生じる行政上の困難さ、(2) 現地判断により地元利益を生じさせる当該地方の利益、(3) 事件に適用される法に基づく法廷地に関する認識度、および(4) 抵触法または外国法適用に関する不必要な問題点の回避、が挙げられる。
 原告が有するテキサスの事務所は、ミシガンから輸送した特許出願書類の写しを保管するためであり、事実審代理人の別の依頼者と場所をシェアする所であって、このテキサスでの行ないは、ごく最近のことで一時的人為的な訴訟行為のようであり、テキサス東部地区は、唯一、原告訴訟代理人に便宜的である。ミシガンの有限責任会社である原告の登記済み事務所はミシガンにあり、二名の会社役員もミシガン居住者であり、その一方は主張特許の唯一の発明者であり、他方は記録上の出願代理人である。原告がテキサスにその主たる営業所を有するという確証のない主張を除いて、研究開発のすべてと特許出願事務はミシガンにおいて行われており、テキサスでの従業員を有しているという指摘は存在しない以上、移送の分析において衡量を受けるべき存在はテキサスにはない。本件は古典的な事件であって、テキサスに裁判地確立を人為的に欲して制度を利用しようと企てて、事実審代理人の別の依頼人と事務所スペースをシェアするものとした例である。同一特許、同一原告、および類似技術の絡んだ事件が、テキサス東部地区での他の侵害訴訟において係属中であるとしても、重複する点は異なる製品と単一の特許だけであって、双方の訴訟に関連する被告が存在しない以上、これらの事件は、おそらく著しく異なる証拠開示手続、証拠、事実審となるであろう。
 対照的に、「証人と当事者の便宜」および「証拠に対するアクセス」の要素においては、インディアナ北部地区が優先的な移送先となるべく実質的な便益が存在する以上、本件とテキサス東部地区での他の係属中訴訟との限定的な関係と、テキサス東部地区との唯一の関係が法律上のフィクションであることに鑑み、本件における移送要求について、請願人はその証明責任を充たしている。

事実概要
 MedIdea, LLC(以下、MedIdea)は、本件訴訟をテキサス東部地区に提起した。Zimmer Holdings, Inc.、Zimmer, Inc.、およびZimmer US Inc.(以下、総称して、Zimmer)は、その主たる営業所をWarsaw, Indianaに有している。訴状に表明されているかぎりでは、裁判地として、テキサス東部地区は正当であるとしており、それは、MedIdeaの主たる営業所が、911 NW Loop 281, Suite 211-38, Longview, Texasにあるからとしている。
 Zimmerは、地裁に対して、裁判所および裁判手続に関する法律第1404条(a)に基づいて、事件をインディアナ北部地区かミシガン東部地区に移送するよう求めた。尚、同条文は、「当事者と証人の便宜のために、正義の観点から」移送を認めている。Zimmerの申し立てるところによると、MedIdeaは、テキサスにおいて営業を行なうことについて登録しておらず、関連するビジネスが存在したとしても、実際には、MedIdeaのLongviewの住所以外での取引であったか、MedIdeaがテキサス州内のどこかで関連するビジネスを行なっていたのかは、明らかではない。さらに、Zimmerによる矛盾のない主張によると、MedIdeaは、そのテキサス事務所のスペースをその事実審における代理人の別の依頼人とシェアしていたようにうかがえる。
 Zimmerは、インディアナ北部地区が両当事者の本件遂行により便宜と公正にかなうものであると主張した。Zimmerが言及したところによると、MedIdeaの広範な連結点はミシガン州周辺であって、具体的には、MedIdeaの法人設立地がミシガンであり、Ann Arbor, Michiganに登記された事務所を維持しており、さらに、MedIdeaの役員両名、争点特許の発明者、および特許出願時の代理人が、ミシガンに居住しているのである。さらに、Zimmerの言及によると、証拠の大半は、インディアナまたはミシガンのいずれかから出されるものであり、また、可能な八名の証人は、Warsaw, Indianaに居住している。
 地裁は、移送の申立てを拒絶した。裁判所の説示によると、MedIdeaは、Longview, Texasに所在しており、そこには、「おそらく」関連する証拠が保管されているとした。さらに、裁判所は加えて、「ビジネスというものは、その扉をある特定の地に多くの理由によって開くものである」とした。裁判所は、「訴訟当事者の営業上の決定を精査して、ある特定の地に事務所を開設したのは、適法な営業上の目的を有していたか、あるいは単に『裁判地を操作するための戦略』であるのか、に関して判断しようとするのを」控えた。
 さらに、裁判所は、当事者の便宜はいずれの裁判地もよしとする点はないと説示し、MedIdeaのLongviewという所在地は、Zimmerの当事者証人がインディアナでの事実審に出席する便宜と比べて、非常にバランスをとることになるからであるとしている。裁判所は加えて、Zimmerがその書類をテキサスに転送するのが著しく不便になることを証明していないし、あるいは書類または証拠について、著しい不便なくしては輸送することができない物件について特定していないとした。
 地の利に関する考慮について、裁判所は、インディアナ北部地区またはテキサス東部地区のいずれも、本件紛争に関するより大きな利を有するものではないと判断した。裁判所の説示によると、Zimmerはインディアナ北部地区に本社を置いているが、「MedIdeaは、その主たる営業所をLongviewに維持しており、それは、テキサス東部地区に本件訴訟との実質的な連結点を付与している」ことになるとした。
 また、裁判所は、テキサス東部地区において係属しつつある特許訴訟がMedIdeaにより、別の被告に対する提起されており、その件の意義をも強調した。MedIdea, LLC v. Smith & Nephew, Inc.事件(2:09-CV-378 (E.D. Tex.))参照。尚、この別の訴訟における被告も、事件移送の地裁拒絶命令を取り消すよう求めて、最近、連邦巡回区控訴裁判所に請願した。In re Smith & Nephew, Inc.事件(No. 2010-M940)参照。裁判所は、二番目の訴訟について、「同一特許、同一原告、および類似技術」が絡んだ事件であると説示している。さらに、裁判所は加えて、「クレーム解釈の争点も重なることは疑いないことであり、本件を提示された裁判地のいずれかに移送することは、同一判事に関連事件を担当させることによる本来的な効果の利点に関して、当事者が得られることを妨げることになる」とした。そこで裁判所が下した結論は、Zimmerは、提示した裁判地がテキサス東部地区よりも事件の事実審として明らかにより便宜的であることを証明するその責任を充たしていないとして、移送申立てを拒絶した。

職務執行令状を求める請願の認容

判旨
 第5巡回区の法を適用して当該巡回区の地裁から控訴された事件を審理し、当裁判所は、明らかに誤った移送拒絶を更正するために職務執行令状が用いられるものと判断してきた。In re Nintendo Co.事件(589 F.3d 1194 (Fed. Cir. 2009))、In re Hoffmann-La Roche Inc.事件(587 F.3d 1333 (Fed. Cir. 2009))、In re Volkswagen of Am., Inc.事件(566 F.3d 1349 (Fed. Cir. 2009))、In re Genentech, Inc.事件(566 F.3d 1338 (Fed. Cir. 2009))、In re TS Tech USA Corp.事件(551 F.3d 1315 (Fed. Cir. 2008))参照。
 移送を受ける裁判地が、「明らかにより便益がある」かを判断する際、第5巡回区は、便宜ではない法廷地を証明するために、「公共」と「個人」の要素を適用している。Genentech事件(566 F.3d at 1342)、In re Volkswagen of Am., Inc.事件(545 F.3d 304, 314 n.9, 315 (5th Cir. 2008)(en banc))参照。

以下、I.P.R.誌第24巻8号参照

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