IP NEWS知財ニュース

  • 知財情報
  • アーカイブ

2012.08.20

【最近よくあるご質問】「格好良くないから非侵害」ってどういうこと? – アップルv.サムスン知財訴訟イギリス編

お客様から頂いた各種お問合せに対し、営業推進部員が当社担当部門の協力を得て、お答えします。

今回のご質問は、こちら。
「サムスン製品は格好良くないからアップル社の特許を侵害しない」との判決が出たと、新聞記事で読みました。どうにも釈然としないのですが?

はい。ご指摘の判決は、7月9日にイギリスで下された、タブレット型多機能端末をめぐる争いに関するものですね。改めて手元の経済紙を見ますと、

米アップルが韓国サムスン電子を特許侵害で訴えていた訴訟で、英高等法院の判事は9日、「サムスンの商品はアップルほど格好良くない」として訴えを退けた。(中略) デザインの優劣を理由に特許侵害を判断する判決は珍しいとみられる。

と書かれています。「珍しい」というより、あってはならないことでしょう。更には「格好良くない」と斬られた当のサムスンがこの判決を歓迎しているとの記載もあって、なにやらツッコミどころ満載のトンデモ裁判のようにも思えます。

それではここで、問題の判決文を一緒に読んでみましょう。
http://www.bailii.org/ew/cases/EWHC/Patents/2012/1882.html

判決文はA4にして30ページに及ぶ、思いのほか読みごたえのあるものですが、まず冒頭、Introduction の1行目に「This action concerns Community Registered Design No. 000181607-0001」とありますので、本件で行使されている権利は意匠権であると判ります。特許ではなく意匠であれば、その侵害/非侵害(類似/非類似)の判断に「美感」が考慮されることはなんら不思議ではなく、判事が「格好良さ」に言及することも十分に有り得ると言えます。

その後、判決文は事実認定を経由して、いよいよ本題の類似/非類似の判断に入っていきます。
アップルは本件訴訟において7つの類似点を挙げていますが、判事はこれら特徴の一つひとつについて、ときに第3者のデザインを引用しつつ、その特徴が純粋なデザインであるのか製品から必然的に導かれる機能であるのか、デザインであれば被疑侵害品がその点において類似しているか否か、またその特徴は物品全体のデザインにどの程度重要な影響を及ぼすのか、を論じていきます。

そして最後に、アップルのデザインとサムスン製品との総体的な比較について、以下のように述べます。

(1) 前面から見る限り、両者はよく似ている。
(2) 表面にボタンやスイッチが(少)なく、シンプルなデザインである点も似ている。
(3)-1 最も重要な相違点は厚さ。サムスン製品の方が薄く見える。
(3)-2 次に重要な相違点は裏面の細部。

(3)の2つの相違点は、(1)ならびに(2)の類似点を克服するのに十分だろうか?

前面の印象は非常に重要であり、私はサムスン製品がテーブルの上に(寝かせて)置かれている状態で見たとき、アップルデザインとの類似性に驚いた。しかしこの製品は携帯用端末であり、そのように裏面が見えない状態で使用されるものではない。情報に通じた使用者(informed user)は、必ずや手にとって裏面を見るし、アップルが主張するようにその手間を惜しむ(ゆえにネットのみを見て購入する)ものではない。つまるところ、前面を主とする類似性はその重要性が低くなり、裏面や側面における相違点が重要性を増してくる。サムスン製品には、アップルデザインが持つ極端なシンプルさがない。それほど格好良くはない。醸される全体の印象は異なっている。

・・・ゆえに、サムスン製品はアップルデザインを侵害しない、と結論づけています。

このように長い文面を割いて類似/非類似に関する議論を実は展開しているのですが、文末に滑り込ませた一文「それほど格好良くはない(They are not as cool.)」だけが大きくクローズアップされて、ご質問のような報道に至ったわけです。決して格好よくないという理由だけで非侵害を認めたわけではないことを、イギリス裁判所の名誉のためにもどうぞご理解下さい。

(営業推進部 柏原)

関連記事

お役立ち資料
メールマガジン