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2014.10.21

【Cases & Trends】 アメリカ特許訴訟が急減 - ここにも見える最高裁Alice判決の影

2014年に入り、特に5月以降、アメリカ特許訴訟の件数が急減しています。4月こそ「トロール対策法案(fee shifting関係)」が成立した場合の適用回避を狙った駆け込み訴訟で、675件/月という記録的数字になりましたが、その後6月(412件)を除き300件台が続いています。9月は329件まで落ち込み、昨年9月(675件)と比べ40%減となりました。
Alice判決のインパクト
原因は一体何なのか、アメリカでいま何が起きているのか …。 訴訟リサーチ・分析会社Lex Machinaの創設者であり、現スタンフォード・ロースクール法学教授であるマーク・レムレイ(Mark Lemley)氏は、第一の原因として今年6月に最高裁が下したAlice v. CLS Bank事件の判決を挙げています

Alice判決では、抽象的アイデアは特許適格主題でなく、また、抽象的アイデアを汎用コンピューター上で実施しても特許適格主題になることはない、と判示しました。この判決以降、各地裁では、ソフトウェア特許やビジネス方法特許の適格性を否定する判決が相次いでいるといいます。レムレイ教授によれば、「これは、ソフトウェア特許をもつ潜在的原告への強力な抑止力となっている」のです。

Alice判決はすべてのソフトウェア特許を葬り去るものではないが、コンピューター上で抽象的アイデアを実行するに過ぎないソフトウェアには特許性がないことを明らかにした。そして、パテント・トロールの多くはこの種の特許を保有しているため、これらを使っての訴訟攻勢に躊躇せざるを得なくなっている、というわけです(”Fewer Patent Litigation Filings So Far in 2014” CorporateCounsel 10/8/2014より)。

新たな付与後手続の浸透
無論、訴訟減少の原因はAlice判決だけではありません。アメリカ発明法(AIA)によって設置された特許付与後の有効性チャレンジ手続き(IPR, CBM, PGR)、とりわけIPRが訴訟代替手続きとしてかなり有効な手続きであると認識され、広く利用されるようになりました。

これら特許庁手続きの浸透により特許紛争における主要争点が、侵害論争から有効性論争にシフトしつつある、という大きな変化も指摘されています(”The AIA is 3 today and there’s only one winner for what has been its biggest impact” Richard Lloyd IAM-magazine 9/16/2014)。

トロールによる訴訟抑制という観点からは、敗訴当事者による弁護士費用負担の認定基準を緩めたOctane Fitness/Highmark判決という最高裁判決(4/29/2014)も外すことができません。

さらに広がるAlice判決の影(?)
特許訴訟急減の筆頭理由ともされるAlice判決ですが、その影響は訴訟行動だけにとどまらないようです。前述のとおり、最高裁判決を受け、ソフトウェア特許の無効判決が下級審レベルで相次いでいる現状において、トロールのみならず、アメリカの大手ハイテク企業が保有する数多くのソフトウェア特許も深刻な潜在的リスクを抱えているということです。ある調査会社が、大手企業が保有する特許の何割程度が Alice判決の影響を受けるか、以下のような「空恐ろしい」調査結果を発表しています(“Big US tech companies face major patent losses in the post-Alice world” Joff Wild IAM-magazine 9/27/2014):

1)オラクル社 全特許ポートフォリオの76%、2)グーグル 同58%、3)マイクロソフト 同55%、4)IBM 同49%、5)シスコシステムズ 同38%

さて、これだけの特許資産が潜在的なリスクを抱えているとなると、企業資産開示の透明性を求める投資家からの声が再び高まるのは必至。価値評価が難しいという権利者側の言い分を受け入れていたSEC(証券取引委員会)も、再び知的資産のオンバランス化に向けたルール作りへのプレッシャーが強まるだろうという指摘も出てきました。(”Could the SEC require companies to value their patent portfolios?” ED Silverstein InsideCounsel 10/1/2014)

特許庁の審査基準から、訴訟動向、さらには企業資産、SECルールにまで影響を及ぼしつつあるAlice判決の余波はまだまだ広がっていきそうです。

(営業推進部 飯野)

アメリカ特許訴訟件数推移 (CorporateCounsel 10/8/2014より)

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