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2014.12.18

【Cases & Trends】 インド最新判決:特許法第8条違反の認定には「欺く意思」と「重要性」が必要

2014年11月7日、インドのデリー高等法院(Delhi High Court)によって特許法第8条に関する重要な判決が下された、という速報が複数の専門誌、専門家ブログでとりあげられました。なかには、「特許出願人にとって安堵のため息をつける判決」というコメントもありました。

この判決が扱ったのは、インド特許法第8条の情報開示義務に対する違反が成立する要件についてです。 これまで主要先例としてしばしば引用されるChemtura判決の厳格適用から、より柔軟な判断基準が示されたということです。— ただし、判決文を読んでみると、第8条が要求する開示内容やその範囲自体を緩めるものではなく、悪意のないミスが原因で一部情報が漏れたような場合に、救済する余地を広げるものという感じがします。「安堵のため息」もそれほど大きいものではないかもしれません。

以下、判決の概要を紹介します(判決原文は23ページ。思い切り省略し、事実概要と結論部分が中心になっています)

In The High Court of Delhi at New Delhi (Nov. 7, 2014)
MAJ.(RETD.) Sukesh Bhhl & ANR 控訴人(被告) v. Koninklijke Phillips Electronics 被控訴人(原告)

事実概要
2012.7.24 原告フィリップスは、DVDビデオ/DVD ROMディスクに関する同社保有インド特許(218255)の侵害を主張して、被告Sukeshをデリー高等法院に提訴。永久差し止めを請求した。
被告Sukeshは、侵害を否認するとともに、原告がインド特許法第8条(対応外国出願の審査に関する情報提供義務)に違反したことを理由に、同法64条(1)(m)に基づく特許の取り消しを要求する反訴を提出。

2012. 9.1 原告側特許弁護士は特許庁(チェンナイ)長官宛に書簡を送付した。この書簡で、’255特許審査中に対応外国出願の特定の詳細情報が提出されていなかったことを報告し、提出漏れした対応出願状況リストを記録に追加するよう要請した。また、書簡と共に宣誓書を提出し、『3頁からなる対応外国出願の更新ステータスリストを原告(出願人)から受領していたのだが、1頁目の裏面に印刷されていた対応出願の情報が、不注意によって提出対象から漏れてしまった。この提出漏れは、純粋なミスによるものだ』と主張した。
2012.11.23 被告が民事訴訟法Order 12 Rule 6に基づく暫定申請(「自認に基づく判決」)を提出。
被告の主張は、「原告の2012年9月14日付書簡は、重要情報の秘匿を自認するものに等しい。即座に特許取り消しの判決を下すべき」というもの。

2013. 6.11デリー高等法院の単独裁判官による暫定申請への決定 - 申請却下
『対応外国出願に関する情報の一部が不注意によって開示されなかったことを原告は否定していないものの、情報を開示しなかったことが故意(deliberate)であったことや、意図的に隠したこと(willful suppression)は認めていない。この点については、証拠の存在が争われることになる。また、開示されなかった情報が特許認可の判断にとって 重要であったか否かも、事実審理に付すべき争点といえる。 暫定申請に基づき、当裁判所がこれらの争点について確定的な判断を下すことは不可能である』

被告は、単独裁判官の決定を不服として、デリー高等法院の合議体による再審理を求め控訴した。
― 控訴棄却

判 旨
被告は、第8条の適用は強制的なもの、いかなる形であれ8条を違反すれば、第64条(1)(m)に基づき特許が取り消されると主張する。Chemtura Corporation v. UOI, 2009(41)PTC260(Del)他
これに対し原告は、特許の取り消しは情報の不開示が意図的であり、かつ当該情報が特許認可判断において重要(material)であったことを認定しない限り、正当化されないと主張する。F-Hoffman-La Roche Ltd. V. Cipla Ltd., 2012(52)1 PTC (Del)他。

本件において、原告側特許代理人がインド特許庁に宣誓書を提出し、「特許法第8条で要求される対応外国出願に関する情報を提出する際に特定の情報が漏れた」旨を述べていることは疑いのない事実である。しかしながら、同8条(1)(b)に基づく更新情報の提出において原告側に完全な落ち度があったとはいえない。欠落した情報は提出情報の一部分であり、また、本件特許の認可において重要なものではなかった、ということを原告は主張している。

このような状況において、単独裁判官が述べたとおり、特許法第64条(1)(m)に基づく特許取消はすべて自動的になされるものではなく、情報の不開示や欠落が意図的になされたか否かを判断する裁量権が裁判所にある。そのうえで、情報の不開示や欠落が意図的であったと認定した場合に、初めて特許は取り消されるのである…。

Chemtura Corporation事件は、民事訴訟法・命令39ルール1, 2に基づく暫定差止め命令について当裁判所が扱った事例である。原告側が特許法第8条(1)の義務に違反しているとする一応の証明が(被告によって)なされたと判断し、当裁判所は、原告請求に基づく暫定差止め命令の執行を停止した。このような性質のChemtura事件において、特許法第64条(1)に基づく(特許取消)権限が裁量的なものであるか、強制的なものであるかは、検討もされなかったし、判断もされなかった。したがって、単独裁判官が被告の依拠したChemtura事件と本件とを区別したことに誤りはない。

以上の理由により、民事訴訟法・命令12ルール6に基づく暫定申請を却下した単独裁判官に誤りはなかったと判断し、これを支持する。

(営業推進部 飯野)

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