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2017.10.20

【中国視察2017】 [2] 北京知識産権法院 (知的財産裁判所)

NGBは、クライアント企業様8社(9名)のご参加を得て、9月4日 (月) – 8日 (金) の日程にて中国視察ツアーを催行した。 本稿では、視察先の一つである北京知識産権法院(知財法院)の訪問記録をご紹介する。

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北京知財法院が設立されたのは2014年10月。今年で3年目を迎えるわけだが、当ツアーでの同法院訪問も2015年9月の初訪問後3回目となり、図らずも、同法院新設後の展開を1年毎に視察する機会を得たことになる。この北京知財法院には開設当初から多くの知財訴訟が提起されているが、最近では先端分野であるSEP(標準必須特許)訴訟が集中して持ち込まれているとのこと。多忙を極めるなか、今回法院側でご対応いただいたのは、第一審判廷・廷長の姜穎判事と同判事助手の張洪占氏。予め用意されたプログラムに従い、法院の活動・体制や訴訟動向についての説明、質疑応答、法院内ツアーへと進められた。

[体制・動向説明]
北京知財法院の全職員数は158名、うち裁判官が54名で院長・廷長クラスの裁判官が9名。提訴件数は大きく増加しており、2015年の新受案件 9,191件に対し、2016年は10,638件。今年 8月までの段階で新受案件は11,008件と、すでに前年総件数を超えているそう。
損害賠償額の高額化も最近の傾向であり、2016年には、4900万人民元の損害賠償プラス弁護士費用100万元を認めた案件があった(USBメモリ事件)。2016年の専利権事件の賠償額平均は130万元超だが、突出している昨年の4,900万元事件を除いた後の平均額は60万元となっている。

現行体制の話の中で、昨年も話題になった技術調査官についての説明があった。
現在、知識産権局から来ている専任の技術調査官5名と企業や研究所から来ている兼任技術調査官32名、合計37名の技術調査官でほぼすべての技術分野がカバーできるようになり、制度発足から今年6月30まで、合計580件に技術調査官が関与したそう。
一方で、技術調査官制度への依存度が高まるにつれ、司法鑑定の利用頻度は減少している。どうしても技術調査官では解決できない複雑な問題について司法鑑定を利用するというのが現状で、姜廷長からは「司法鑑定は費用が高く、時間もかかるので、当事者もあまり使いたがりません。このような状況では、裁判所としても当事者に司法鑑定を要求しづらくなっています」との説明があった。

[質疑応答より]
Q:滞留案件の数および対応策について知りたい
A:現在、北京知財法院にある滞留案件の数は約1万件。解消策として、専利権、商標、著作権事件を専門とする分野別チームを構成している。かつては苦手分野には「手付かず状態」ということもあったが、専門チームでそれぞれ得意な事件を迅速処理できるようになった。
なお、現在北京知財法院で扱っている訴訟の大半は、侵害訴訟と審決取消訴訟であり、審決取消訴訟が約7割を占めている。権利帰属、職務発明をめぐる訴訟は少なく、年間数十件程度。

Q:一般に中国裁判所は、原告(権利者)に有利な裁判所と聞くがどうか。特に侵害が認定された場合の差止め救済率が非常に高いと聞くが。
A:当裁判所としては、『原告に有利』というより『勝訴した原告に有利』な状況になるよう心掛けている。中国では、訴訟で勝利しても市場を失うというようなことが多々あった。そのような不公平な事態が起こらないよう心掛けている。
差止め救済率の高さについては、確かに原則は侵害認定の場合に差止め救済を認めているが、公共の利益や資源の浪費・喪失などの要素を比較検討している。たとえば、映画中で使われた楽曲の著作権侵害が認定された事件では、映画自体の放映を禁ずるのではなく、作曲者への損害賠償という形で解決した。

Q:原告に有利な法廷ということで、NPE/パテントトロールが集まってくるような現象は起きていないか。
A:ドローンの関係では一部見られたが、全体的にまだ中国の裁判所においては多くない。
(筆者注:前記の通り、中国でも最も平均賠償額が高いという北京知財法院においても、その平均額は60万元。少なくとも米系のNPE/トロールにとって、まだコストパフォーマンスがよくないとの理由か。ただし、特許価値が高騰しているハイテク分野では、高い差止め命令率を武器として、高額和解狙いのNPE/トロールが急増する下地は十分あると思われる)

最後に、質問者の日本における審決取消訴訟経験に基づいて、中国との違いについて質問をしたところ、回答と併せ、裁判の進め方、特に弁論準備手続きに続く口頭弁論における合議体(3人判事)の関与度合いなどについて、逆に姜廷長からご質問を受ける展開になった。

(姜廷長)「口頭弁論において、中国では必ず合議体を構成する3名の裁判官がいる状況で、当事者双方の主張を聞く形になります。争点整理をする予備法廷は受命裁判官ひとりで運営し、結果を合議体に説明しますが、その後口頭弁論において当事者双方の主張がなされます。中国では、口頭弁論では必ず3名の裁判官がいる状態で当事者双方の主張を聞くという形をとっています…」「それに比べ、日本では実質的な部分をひとりの受命裁判官でほぼ行っているようですが、それでは合議体での判断が受任裁判官の意見に影響を受けてしまうのではないでしょうか?」

ツアー参加者は皆、企業知財部、法務部所属。裁判の進め方に関する現職裁判官からの直接の説明を興味深く拝聴したものの、さすがにこの質問への回答はできなかった。

質疑応答を終えた時点で予定の9:30~11:30をかなりオーバーしていたが、姜廷長からは「非常に有益な会でした。来年も是非お出でください」との優しい言葉をいただいた。4年目の展開も是非、直接見に行きたいと強く感じた次第。

(営業推進部 飯野)

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