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2018.11.21

【中国視察2018】 [5] 深セン意見交換会

NGBはクライアント企業7社(8名)のご参加を得て、9月3日 (月) – 7日 (金) の日程で中国視察ツアーを催行した。 本稿では深センにおけるキーマンとの意見交換会の模様を抜粋してご報告する。

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 広東省高級人民法院裁判官の喩(ユ)先生、中国人民大学深セン研究院の袁(エン)副委員長、中山大学教授・仲裁委員会委員・深セン知財研究会秘書長のリー先生、ユ先生のアシスタントの張先生の4名と、中国人民大学の深センキャンパス会議室にて、意見交換会を行った。何れの方も中国知財事情に対する造詣が深く、勉強になる会であった。本稿では、その中でも特にユ先生のお話を紹介する。ユ先生からは、広東省高級人民法院ならびに深セン市中級人民法院の概況・組織について説明して頂いた。
[広東省高級人民法院ならびに深セン市中級人民法院の概況・組織]
 広東省における知財保護の特徴について説明する。

 案件の数量について、広東省全域で急激な増加が見られ、史上最多数の案件を受理している状況である。2017年度に受理した案件数はトータルで70488件となり増加率は対前年比で68.6%増、これは全国の訴訟受理件数の中の31%を占めている。終結した事件のトータルは71416件で、これは対前年比で69.6%増となっている。これも史上最多という状況であり、これは全国で件数として一番多い。民事事件、行政事件、刑事事件の内訳について説明する。受理件数としては、民事事件が70906件、刑事事件が3114件、行政事件が64件となっている。終結した71416件の中で、民事事件が68234件、刑事事件が3118件、行政事件が64件となっている。

 2つ目の特徴として、事件の難易度が非常に高くなっており、新しい課題が増えてきている状況である。技術の進歩に伴って、商標権、特許権、著作権などの新しい分野での課題が増えている。特に、標準必須特許、ゲーム、ゲームのインターフェース、不正競争に関する事件が増えている。このような状況は、裁判所としては非常に大きな挑戦になっていて、これをどうやって克服していくか、対応していくかが課題である。例えばHuawei対Samsungの事件、アメリカのGPNE対アップルの事件、あるいは、中国のゲーム企業同士のゲームの著作権に関する事件が挙げられる。このような事件に関しては、目的額は非常に大きいし、事件の事実も非常に複雑で、社会的注目度も高く、我々としても公正な判断をしなければならない状況である。

 3つ目の特徴として、外国企業からの訴訟、香港・マカオ・台湾に関する訴訟の件数が著しく増加している状況でである。広東は、外国や香港・マカオ・台湾との交流活動が常に活発な地域であり、これらに関連する事件も非常にたくさん発生している。広東全域で、2017年に受理した渉外事件は409件、対前年比で28.2%増となっている。香港・マカオ・台湾に関する終結事件の件数は928件、対前年比で140%増となっている。広東の裁判所は、中国国内にしろ外国にしろ、必ず平等に保護するという原則を保っている。例えば、米国のブリザード社が中国の10社程を相手に訴訟提起した事件では、400万人民元の損害賠償が認められた。英国のランドローバーが中国の企業を訴えた事件においても、これは商標権の侵害であるが、120万人民元の損害賠償が認められている。トルコのZERという会社が中国企業を訴えた事件の中では100万人民元の損害賠償額を認めている。

[ユ先生によるまとめ]
 広東省はイノベーションの非常に活発な地域であり、もちろん特許などの知財の保護も非常に進んでいる地域である。今、日中の交流活動も活発になり、中国の権利意識も非常に高まっている中、広東省の内部でも日本企業が持っている権利を保護するという意識も高まっている。広東省にある人民法院の全ての法廷において知財の保護をこれからも強化していくつもりである。日本企業の知財の保護は非常に友好的に行われているのではないかと思う。私として非常に印象的だったのは、日本のM社である。M社の会社の中では知財の保護に関する部門を個別に設けて(知財保護活動を)行っていると伺っている。非常に多くの日本の企業では知財に関する経験があり、それはまさに中国の企業が学ぶべきところだと思う。例えば、M社は、自分の権利が侵害されていることを発見した後に、相手側と進んで交渉したり、警告状を出したりして、まず自分で自ら紛争解決を図ろうとしている。このようなことを行うことによって、紛争の解決を効率良くできるかもしれないので、中国の企業もこのようなやり方を学んでいくべきだと思う。このように、自力での当事者同士での解決を図れない場合に初めて、我々の司法的な手段が存在するのではないかと思う。

[質疑応答]
Q1:中国では今、知財法院が北京、上海、広州の3カ所にあると思うが、今後、知財訴訟の増加に伴って(知財法院が)増える予定があるか。また、知財法院の上として、知財高裁の構想が一部あるが、構想は実現しそうか。

A1:<ユ先生>北京、上海、広州の3つの知財法院の他に、15の知財法廷が各地に設置されているが、その中で一番有名なのは、深セン知財法廷だ。深セン知財法廷は2017年12月26日に設立されている。管轄の範囲は4種類の第一審事件で、1種類目は、深セン市内で発生した専利権の事件、種苗法、集積回路、独禁法、地名商標認定に関する商標の事件。2種類目は、深セン地域内で発生した、目的額が500万人民元以上の技術契約、それから、コンピュータソフトウェア、著作権、商標権、不正競争防止法に関する訴訟。営業秘密に関する訴訟も取り扱う。3種類目は、目的額が1000万人民元以上であり、かつ、当事者双方が深セン市内にある一般的な事件だ。事件の類型は制限されていない。4種類目は、深セン市内で発生した知財に関する行政事件、刑事事件、独禁法に関わる行政事件となる。第一審、下級審の基礎人民法院で審理された事件の控訴審も審理する。この深セン知的財産法廷は、深セン市の中級人民法院から独立した一つの組織となっている。知財法廷と知財法院の区別は実はあまり明確にはなっていない。控訴法院について、設立するという話は良く聞いているが、具体的にいつされるのかはわからない。

A1:<リー先生>深セン中級人民法院と、深セン市知財法廷の関係だが、厳密に言えば、知財法廷は深セン中級人民法院から独立した一つの出張所のような位置付けになってくるかと思う。イメージとしては、東京高等裁判所と東京知財高等裁判所の関係のようなもの。特別な支部という関係だと理解して頂ければと思う。ただ、上訴法院については、ちょっと複雑だ。当時は、最高人民法院が上訴法院をつくると言いだし始めて、非常に自信満々で、その名前も国家知的財産上訴法院とする予定だったとのこと。この法案を組織の編成委員会に提出したところ、編成委員会が否定してしまった状況である。否定された理由としては、2008年に中国の国家知的財産立国の概要ができ上がり、その中には中国の知的財産メカニズムの改革が含まれていたものの、上訴法院をつくるという内容までは含まれていない、という簡単な理由で否決されてしまった。ちょっと冗談半分の話ですが、恐らく最高人民法院は、中国政府に対してコミュニケーションがうまくとれていなかったと、最高人民法院がそれはもう当たり前のように成立できるという態度で進めてきたということに対して、政府の方が不満を抱いて圧力をかけたというような状況ではないかと思っている。この法案が否決されてしまったので、その代替案として、最高人民法院からの出張法廷のような形で巡回法廷を設けるという話に進んでいくのではないかと思われる。アメリカのFederal Circuitのように巡回する、それはあくまでも一つの裁判所としてではなく、最高人民法院の出張法廷だという位置づけで成立する可能性はあり得るのではないかと思う。これは中国の最高人民法院が現時点で考え付く最良の解決手段なのではないか。

Q2:特許訴訟について質問させて頂く。深センの特徴として、最先端技術をベースにしたたくさんの新しい事業・産業が興っている。その中でたくさんの高い専門性の技術が議論となるような裁判がたくさんあるのだろうと思うが、中国の場合に、特に特許においての専門性が議論になるケースで、気を付けること、注意事項、コメントなどがあれば、お聞かせ願いたい。

A2:<ユ先生>まず始めに、技術の専門性の問題を解決するために、深セン市知財法廷、広州市知財法院、それから広東省高級人民法院、この3つの裁判所の中に技術調査官を取り入れている。また最高人民法院からも、技術調査官に関する法律が制定されようとしている。今は検討中で、最終的なものは上がってきていないが、その辺りの整備もされる予定だ。みなさんも懸念されているように、我々裁判官は、多くが文系出身であり、技術的な専門知識は持っていないのが現状である。このような問題を解決するために、開廷審理の3日前に技術調査官の参加状況を告知している。これは他の裁判官とか書記官の忌避の制度と同じように、公平でないと判断した場合には忌避の申請をすることができる。技術調査官は様々な技術的バックグラウンドをもった者がいるけれども、肉眼で確認できないような、例えばソフトウェアなどについては鑑定機関の協力も頂いている。私からのアドバイスとしては、出廷するときに弁護士を一人と、御社の技術者を一人、出廷させることを勧めている。弁護士の方は、法律の問題について裁判官と話をすることができるし、技術的な問題になったときには、技術者が裁判所の技術調査官と話すことができると思う。我々も実際の裁判において弁護士を立てているのだけれども、その弁護士が技術に対して詳しい問題をうまく説明できないことが少なからずあった。そのようなことになってしまうと権利者の利益に反することになるので、技術者をつけた方が良いのではないかと思う。訴訟の場において、弁護士ではなく弁理士が訴訟を代理するケースもあるかと思う。そういうとき、確かに特許については説明できるかもしれないが、法律の知識についてはちょっと薄いという問題がある。弁護士と弁理士を両方雇うのはお金がかかるかもしれないが、そうすることをお勧めしたい。

A2:<リー先生>このような専門知識の問題については、中国のみならず、他の国、アメリカでも日本でも同じような問題があるかと思う。先ほどユ先生が全体的なことを述べられたが、それに加えて、いくつか補足させて頂きたいと思う。まず、中国では裁判所と中国の専利局との間でもある程度のコミュニケーションができる体制となっている。例えば広東省ですと、広州知的財産法院と、広州にある知財局の審査協力センターとの間で交流活動が行われていて、毎回、審査官が裁判所の方に出向するということが行われている。もう一つのやり方としては、当事者の方で、専門家補助人を探してつけることができる。これは証人とは異なるのだが、その分野における専門家に来てもらって補助をしてもらう、という手段がある。もう一つ、中国の調査官ですが、裁判所で証拠保全を行うとき、技術調査官は重要な役割を果たしている。というのはまず始めに、証拠保全を行うかどうかという判断において、技術調査官の意見は非常に重要な参考になるということだ。それと、証拠保全を行う範囲、どこまでの証拠を保全すべきか、という点についても技術調査官の意見が問われる。これは台湾の方から学んできていて、台湾の裁判所もこのようなことをやっている。

Q3:M社のケースが印象に残っていたと仰っていたが、それはどんな印象だったのか?

A3:<ユ先生>非常に裁判所を理解してくれていて、裁判所の負担を減らしてくれているとのいう印象だった。M社の案件では、企業が訴訟を起こす前に相手方と交渉して和解をすると、その方が早く紛争が解決して、しかも和解金が最終的な賠償金よりも高いケースもたくさんあるので、そういうことは非常にすばらしいことだと思う。

(特許部 増位)

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