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2022.03.31

特許部 新井智香子

【特許・意匠ニュース】シンガポール、2021年10月1日から施行の改正特許法及び改正特許規則について

シンガポールにおける改正特許法及び改正特許規則が2021年10月1日に施行されました。
主な改正事項は、以下の通りです。

1.第三者情報提供制度(Observation by third party on patentability:特許法32条、特許規則45A)の導入
第三者が特許出願の特許性に関わる情報を提供できる制度(以下、「情報提供」)が公式に導入されました。改正前は、登録後特許に対しての取消申請制度はあったものの、出願審査段階での公式な情報提供制度はなく、非公式に提供された情報を審査官が考慮する義務もありませんでした。今回導入された情報提供制度では、審査官は提供された情報を考慮する義務があります。
出願公開から、審査報告書、調査及び審査報告書、又は補充審査報告書の発行(注) までの間に情報提供が行われると、情報提供書類は審査官に送られます。情報提供の理由の説明は必須であり、さらにその根拠として先行技術文献等の文献の提出が推奨されています。情報提供に係る庁費用はなく、公式の書面様式もありません。
情報提供が行われると、当該特許出願の出願人に通知されます。提供された情報が当該特許出願の特許性の評価に影響すると審査官が判断した場合、審査官は見解書(Written Opinion)を発行し、出願人に意見書及び/又は補正書を提出する機会が与えられます。審査で考慮された情報提供書類はシンガポール知的財産庁のオンライン特許データベース(POD: Patents Open Dossier https://ip2sg.ipos.gov.sg/RPS/WP/CM/SearchSimple/IP.aspx?SearchCategory=PT)上で公開されます。
情報提供者は、登録官(Registrar、特許庁長官に相当)のもとでのいかなる手続きの当事者にもならないと定められています。
情報提供者の匿名性を維持するため、シンガポール特許代理人を介して情報提供を行うこともできます。

2.特許付与後再審査制度(Re-examination after grant:特許法38A条、特許規則52A)の導入
特許付与後に特許の再審査を請求できる制度が導入されました。特許権者を含め誰でも、特許付与後であればいつでも再審査を請求できます。ただし、特許の有効性について争う手続きが裁判所や登録官に係属中である場合は再審査を請求できません。
再審査を請求する場合は、所定の書面様式(Patents Form 36)によって、所定の費用(3,200 SG$)とともに、関連する文献を添付して再審査理由を申し立てなければなりません。
再審査請求が行われると、審査官に申請書類一式が送られ、審査官は再審査報告書を作成します。申し立てられた再審査理由が成立すると審査官が判断した場合には、審査官は見解書(Written Opinion)を発行し、3か月以内に意見書及び/又は補正書を提出する機会を特許権者に与えます。3か月以内に意見書及び/又は補正書が提出されない場合、見解書は再審査報告書として扱われます。なお、見解書を受領した特許権者は審査官面接を請求することも可能です。特許権者が見解書を受領した日から2か月以内に審査官面接の請求がされた場合、登録官は審査官面接の請求を認めなければなりません。再審査報告書に1以上の未解決の拒絶理由(見解書で言及された拒絶理由)が含まれる場合、登録官は特許取消命令を出します。特許取消命令は(a)無条件の取消命令、または、(b)指定の期間内に取消理由を解消する訂正がされない限り特許を取り消すという条件付きの取消命令です。
再審査手続きに関連する書類も上記庁オンライン特許データベース(POD)上で公開されます。
再審査の申請者は、特許権者でない限り、再審査の手続きの当事者になることはなく、再審査報告書が発行されたときのみ通知されます。申請者の匿名性を維持するため、シンガポール特許代理人を介して特許付与後再審査の申請を行うこともできます。

3.有効性が争われた特許の証明に関する特許規則(特許規則62A)の追加
裁判所の手続きにおいて、特許が全体的又は部分的に有効であると判断され、特許の有効性が争われたという事実が証明された場合、特許権者は、登録官に対し、その証明書が交付されたという記録を特許登録簿に加えることを書面により請求することができます。登録官は請求に応じてこの記録を特許登録簿に加えなければなりません。
登録官のもとでの手続きにおいて、特許が全体的又は部分的に有効であると判断され、特許の有効性が争われたという事実が証明された場合、登録官はその証明書が交付されたという記録を特許登録簿に加えなければなりません。

4.特許取消申請に関する特許規則(特許規則80(4))の改正
特許取消の申請に係る手続きにおいて、特許権者が当該申請書及び陳述書の受領日から3か月以内に反対陳述書を提出しない場合、当該取消の申請が認められます。改正前は、当該取消の申請の陳述書に記載された個々の事実は、登録官の保有する他の書類と矛盾しない限り、事実と認められていました。

(注)

シンガポールには以下の3つの審査請求オプションがある。
・Option1:国内ルート1(シンガポール特許庁に調査を請求し、次に実体審査を請求する)
・Option2:国内ルート2(シンガポール特許庁に調査と実体審査を同時に請求する)
・Option3:混合ルート(他国での調査結果を提出し、同時にシンガポール特許庁に実体審査を請求する)
Option1の下では調査報告書に続き、審査報告書が発行され、Option2の下では調査及び審査報告書が発行され、Option3の下では補充審査報告書が発行される。

(参考)
シンガポール改正特許規則
シンガポール知的財産庁の発表(2021年9月10日付)
・情報源:
Drew & Napier事務所(シンガポール)Changes in Singapore Patents System
Spruson & Ferguson事務所(シンガポール)Formal Pre-Grant Third Party Observation and Post-Grant Re-Examination Procedures in Singapore

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