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2022.08.17

商標部 関口

【商標ニュース】カナダ・ケベック州 フランス語使用強化法採択

カナダのケベック州は、1977年、州内の公用語はフランス語のみとする、フランス語憲章を制定しました。以来、州内でのフランス語化が促進される一方で、英語との併用を主張する二言語主義も現れ、相容れない構図が続いていました。そして、フランス語憲章制定から45年を経た2022年5月24日、ケベック州議会は、「ケベックの公用語・共通語であるフランス語を尊重する法律 (Bill 96)」を採択しました(一部条項は既に施行されていますが、商標の使用に関する条項は、2025年6月1日施行となっており、3年の猶予が与えられています)。これまでも、ケベック州におけるフランス語以外の言語使用は制限を受けていましたが、更に強化される内容となっています。海外企業のケベック州におけるビジネスにも影響を及ぼすと思われますが、ここでは、ケベック州での商標の使用における注意点を、現在と、施行後に分けて述べていきます。

尚、規制の対象となる商標は、フランス語に翻訳可能なフランス語以外の言語を含む商標であり、フランス語に翻訳できない商標(意味を持たない造語商標等)の場合は該当しないと理解されています。但し、二つの英語を結合させて、一つの言葉、商標を作ったような場合は、それぞれの英語のフランス語表記を添える必要があります。

製品または、その付帯書類に付される商標
<現在>
製品(もしくは梱包箱、ラベル、包装)または、その付帯書類(取扱マニュアル、保証書、宣伝チラシ、値引きクーポン等)に付される商標は、フランス語表記もしくは、フランス語表記と他言語表記の併記でなければならない。後者の場合、他言語表記が目立つ態様で使用してはならない(文字の大きさ、フォント、色等で、フランス語表記が目立つようにする)。
しかしながら、カナダ商標局に登録された商標、またはコモンロー上の使用で周知となった商標は、その権利者が、同義フランス語商標の登録を有しない限り、フランス語表記の併記を免れる(認識商標の例外規定)。「周知」に該当するか否かは、商標本来の識別性の強さ、使用期間、売上高、広告宣伝費等を勘案し、裁判所が個別に判断する。

<施行後 2025年6月1日~>
コモンロー上の使用があっても、カナダ商標局に登録されていない商標は、認識商標の例外規定から外れる。また、登録商標であっても、一般名称、記述的用語を含む商標は、その部分のフランス語を付して使用しなければならなくなる。例えば、商標が “○×△ COFFEE” で、商品がコーヒーの場合、COFFEEのフランス語訳を付記しなければならない。

商業印刷物・広報
<現在>
商業印刷物・広報(カタログ、パンフレット、チラシ、インボイス、ウェブサイト、ソーシャルメディアアカウント等)は、フランス語もしくは、フランス語と他言語の併記でなければならない。後者の場合、他言語表記が目立つ態様で使用してはならない。但し、商業印刷物・広報が、カナダ商標局に登録された商標、またはコモンロー上の使用で周知となった商標を含む場合、上記認識商標の例外が適用される。

<施行後 2025年6月1日~>
商業印刷物・広報に対する更なる規制は、新法では明確に述べられていない。しかしながら、製品等に付される商標と同様、コモンロー上の使用商標に対する認識商標の例外適用が除外される可能性がある。

看板・商業広告
<現在>
公衆が目にする如何なる商業的メッセージも、その媒体(標識、ポスター、看板等)を問わず、フランス語もしくは、フランス語と他言語の併記でなければならない。後者の場合、フランス語表記が、他言語表記より目立ち、視覚的インパクトを与える態様でなければならない。看板・商業広告が、カナダ商標局に登録された商標、またはコモンロー上の使用で周知となった商標を含む場合、上記認識商標の例外が適用される。但し、屋外に置かれる看板や広告では、商品やビジネスの性質をフランス語にて併記する等、十分にフランス語が目立つようにしなければならない。

<施行後 2025年6月1日~>
コモンロー上の使用商標に対する認識商標の例外適用が除外される。また、十分にフランス語を目立たたせる要請が、より厳格化され、使用者の負担増になると予想される。

罰則
罰則の強化は、2022年6月1日から施行。本法に違反した場合は、罰金や制裁を課される可能性がある。一回目の違反では、CAN$3,000~30,000 の範囲での罰金が規定されており、二回目以降の違反では、倍増となる。また、営業資格の停止、剥奪等、行政上の制裁や、看板等の撤去命令が出されることもある。違反が発見された場合、当局より違反者に書面が送付され、応答期間が設けられる。使用態様の修正や撤去等、対応がなされない場合は、裁判所によって、罰則の適用可否が判断される。

推奨ステップ
今回のフランス語使用強化法採択、そして3年後の施行を見据え、ケベック州を含むカナダでの非フランス語商標(フランス語に翻訳可能な他言語を含む商標)の使用に際しては、以下のステップが推奨されます。

・認識商標の例外規定を享受するために、未登録の非フランス語商標は、早々に登録出願を行う(コモンロー上の使用商標は、もはや認識商標ではなくなる)。

・出願の際、カナダ商標局の認可商品・役務リストから選択した商品・役務を指定すれば、早期審査が適用される。現状、3年半程度かかっている審査が、2年弱程度になることが期待でき、新法施行前の登録が見込める。

・登録となった商標を使用する際は、Ⓡを付することが望ましい。それにより、認識商標であることを示すことができ、無用なクレームや苦情を避けることができる。

・商標が一般名称や記述的用語を含む場合、そのフランス語訳を添えて使用する。現在は、主に屋外での使用における規制であるが、施行後は、適用範囲が広がる可能性があるため、習慣付けることが望ましい。

情報提供:Smart & Biggar 事務所(CA)

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