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2025.06.24
年金管理部 横倉 玲子、東南アジア駐在員事務所 寺岡 裕芳
インドネシア特許法が2024年10月28日に改正されました。この法改正は、2016年法律13号インドネシア特許法を改正するものであり、現行の特許法を2024年法律65号とするものとなります。
主な改正ポイントについては、後述のまとめ(注1)をご参照ください。
ただし、新たな改正法についての施行規則(implementing regulations)に関しては、2025年6月現在においても発表されておらず、例えば、法改正により導入された実施報告(working statement)などについても、実務の詳細が明らかとなっておらず、多くの実務家が手続きを保留しています。
弊社としては、東南アジア駐在員事務所(通称バンコクオフィス)を通じて引き続き情報収集に努めております。
なお、2025年2月20日にジャカルタにて、この法改正に関する特許実務家向けの周知イベントがJICA主催により開催され、インドネシア特許庁(DGIP)の職員より、法改正の目的と現状についての説明が行われました。この周知イベントでは、以下の状況が確認されました。
・法改正により導入された新たな手続きについては、電子出願システムが未対応である
・具体的な手数料の決定が省令や政令による策定を待っている段階である
2025年6月に、弊社バンコクオフィスの駐在員がインドネシアを訪問し、20か所ほどの現地特許事務所に訪問して聴取したところ、上記の状況に変化はなく、依然として施行規則の発表を待っている状況であることが確認されました。新たに導入された実施報告の実務などに関しても、現地の実務家によって対応は統一されておらず、各々の見解と解釈に基づいて出願人に案内を出している状況です。実務の詳細を定める施行規則は、2025年7月には発表されるとの情報もございますが、多くの実務家は、その可能性は非常に低いと悲観的に予想しています。
1.特許取得可能な発明の明確化
システム、方法、および用途に関する発明について、特許取得可能な発明として認められ得ることが明確化されました。また、「コンピュータ実装発明computer-implemented inventions」についても特許取得可能であることが明確化されました。
また、従来は、既存の製品や化合物についての新たな用途や新たな形態の発見が特許付与不可のリストに含まれていましたが、これらがリストから除外されたことにより、第二医薬用途が特許出得可能な発明として認められました。
さらに、新法では、遺伝的資源と伝統的知識 (Genetic Resources and/or Traditional Knowledge: GRTK)に関する規定も導入されています。
2.出願手続き・要件の緩和
新法では、12か月の優先権主張期限を過ぎた出願について、期限から4か月以内であれば、優先権を回復した状態で出願を行うことができるようになりました。
また、新規性喪失の例外期間(展示会、研究開発活動、科学的な発表やフォーラムにおける開示について新規性を立証するための猶予期間)が6か月から12か月に延長されました。
新法では、発明者による発明の所有権に関する宣言(Declaration of Ownership)の提出が廃止されました。一方で、発明が遺伝的資源及び/又は伝統的知識(GRTK)に関連する場合、遺伝的資源及び/又は伝統的知識の起源に関する声明が必要となります。しかし、これら報告や証明書の詳細につきましては、まだ公表されておらず、施行規則の公表を待つこととなります。
方式的な要件を満たすための期間を延長する手続きについては、従来は1か月毎に複数回の延長が可能でしたらが、新法により、2か月間の期限延長を一度のみ申請できるように変更となりました。
また、方式的な不備により出願を取り下げとみなす通知書が送付された場合、通知書の日付から6か月以内に手数料を支払うことで出願の係属を申請することができます。
特許出願と同時に早期公開の請求を行うことで、出願から3か月以内に公開とすることが可能となりました。
3.早期実体審査の請求
方式審査を通過した特許出願については、その公開前に手数料を支払うことにより、早期の実体審査を請求することが可能となり、請求された特許出願については、公開期間の終了から30か月以内に実体審査の結果が出ることとなります。
4.出願の再審査
再審査請求の手続きについて、以下の通り明確化されました。
・拒絶通知、取り下げ通知、または特許付与通知から9か月以内に手数料とともに請求可能
・これにより、特許付与通知の後でも特許明細書、特許請求の範囲、図面を訂正することが可能
・自発的に取り下げられた出願については、拒絶通知から2か月以内に限定される
5.特許審判委員会
大臣の決定及び再審査決定に対しては、特許審判委員会に不服申立てをすることが可能となりました。
6.Bolar条項
ボーラー条項は、特許の満了前5年間という期限の制限がなくなり、研究および規制承認の目的に対しても適用範囲が拡大されました。
7.年金納付の追納期間付与
従来は、事前申請により最大12か月の納付期間の延長が可能でしたが、新法では、事前の申請等の手続きをしなくても、自動的に6か月の追納期間が付与されることとなりました。ただし納付額の100%の追徴金が発生します。
8.実施状況報告義務
特許権者は、特許実施に関する報告書を、毎年年末までに特許庁長官に提出しなければならないとされています。
9.強制ライセンス
以前に付与された特許(第一特許)を基にして開発された結果として実施される特許(第二特許)に対して強制ライセンスが付与される場合、以下の規定が適用されることになります:
a. 第二特許の発明は、第一特許の発明に関連して、重要な技術的改良を伴うとともに、意味のある経済的価値を有していなければならない。
b. 特許保有者は、お互いの特許を合理的な条件で使用するために相互にライセンスを付与する権利を有する。
c. 第一特許に関する強制ライセンスは、第二特許と結び付けてのみ移転可能である。
注1)ACEMARK INTELLECTUAL PROPERTYによる改正ポイントのまとめを、当該事務所の了承をいただき、和訳して用意しました。
https://acemark-ip.com/new/news_detail.php?id=181
<記事担当>
横倉 玲子 年金管理部
寺岡 裕芳 東南アジア駐在員事務所