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2025.12.26

特許部 寺岡裕芳

ベトナム、知的財産法の大改正案可決 ~ デジタル時代を見据えた保護強化と手続迅速化へ(2026年4月施行予定)

2025年12月10日、ベトナム国会は知的財産法の大規模な改正を可決しました。改正法は2026年4月1日に施行される予定であり、デジタル経済への対応強化、各種手続の迅速化、ならびにエンフォースメントの実効性向上を主な目的としています。
改正法は、ベトナムにおいて事業展開や知的財産権の取得・活用を行う日本企業にとっても、実務上の影響が大きい内容を含んでいます。以下では、特に注目すべきポイントを日本企業の観点から整理します。

1. デジタル・AI時代を意識した著作権制度の明確化
改正法では、コンピュータプログラムに関する権利内容が明確化され、正規利用者によるバックアップコピー作成が一定条件下で認められることが明文化されました。一方で、SaaS等オンライン提供型ソフトウェアについては、契約条件が引き続き重要となります。
また、AI学習・研究目的でのデータ利用について、合法的に公開されたテキスト・データを一定条件の下で利用できることが明確化されました。権利者の正当な利益を不当に害さないことが要件とされており、今後は政令・ガイドラインの内容が実務上の判断基準として重要になると考えられます。

2. 意匠制度の拡張:部分意匠・非物理的意匠の保護
今回の改正法で特に注目されるのが、意匠保護の対象拡大です。製品全体だけでなく「製品の一部」や、GUI等の非物理的(デジタル)な外観についても、意匠として明確に保護対象に含まれることが示されました。
デジタル製品やソフトウェア関連事業を行う日本企業にとって、ベトナムでの意匠戦略を再検討する契機となります。デジタルデータの流通自体が「意匠の実施行為」に該当し得る点にも留意が必要です。

3. 各種手続の迅速化とファストトラック制度
特許・商標・意匠等について、公開期間、異議申立期間、実体審査期間の短縮が広範に導入されます。さらに、一定条件の下で審査期間を大幅に短縮できる「ファストトラック審査」制度が新設されています。
これにより、権利化までの期間短縮が期待される一方、異議申立や審査対応のスケジュール管理はこれまで以上に重要になります。日本企業にとっては、ベトナムでの権利化タイミングや全体の権利取得戦略を再整理する契機となります。

4. オンライン環境における責任強化とエンフォースメント拡充
改正法では、デジタルプラットフォーム運営者やインターネットサービス提供者の責任が明確化・強化されました。従来の「通知・削除」型の対応にとどまらず、一定の予防的措置を講じる義務が課される点は大きな変化です。
また、裁判所や行政当局によるオンライン侵害への対応手段が拡充され、侵害コンテンツやアカウントの削除・遮断命令が明文化されています。損害賠償額の上限引き上げも含め、全体として権利行使の実効性が高まることが期待されます。

5. 日本企業への実務的示唆
今回の改正は、ベトナムを「製造拠点」や「販売市場」として利用する日本企業のみならず、デジタルコンテンツやIT分野で進出する日本企業にも大きな影響を及ぼします。
出願・審査スケジュールの見直し;早期権利化すべき案件の洗い出し
デジタル意匠・GUIの保護活用
AI開発におけるデータ利用の適法性確認
オンライン侵害を前提とした権利行使戦略
・・・といった観点から、改正法施行前後での実務対応の見直しが推奨されます。

参考情報:
本記事は、ベトナムの改正知的財産法に関して公表された以下の解説記事を参考情報として、日本のお客様向けに内容を整理・再構成したものです。
Baker McKenzie Vietnam による解説記事
https://insightplus.bakermckenzie.com/bm/intellectual-property/vietnam-2025-ip-law-major-overhaul-embraces-digital-economy-and-strengthens-enforcement
Tilleke & Gibbins による解説記事
https://www.tilleke.com/insights/vietnam-enacts-landmark-ip-law-amendments/

寺岡裕芳 (てらおか ひろよし)
NGB株式会社 東南アジア駐在員事務所(バンコクオフィス)
オフィスマネージャー

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